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ホンネの就活ツッコミ論(30)内定式前後にバタバタする学生は今も昔も

石渡嶺司 authored by 石渡嶺司大学ジャーナリスト
ホンネの就活ツッコミ論(30) 内定式前後にバタバタする学生は今も昔も

 今回のテーマは「内定をめぐる悲喜劇」です。10月1日は内定式です。この内定式前後から内定を得た学生、内定学生はバタバタしだします。そこには様々な悲喜劇があるようです。

企業が恐れる内定式後の内定辞退

 企業からすれば、一番怖いのが、内定式前後の内定辞退です。第13回でも書きましたが、内定辞退は日本で大卒新卒採用が定着した1920年代からありました。1921年には住友本社(現・住友商事)の内定者懇親会に出席した学生が、その後辞退した記録が残っています(のちの東京都民銀行頭取)。

 決して最近の問題だけではない内定辞退。まして、内定式前後の内定辞退は採用担当者からすれば痛い話です。何しろ、採用計画を終了した、と思っていたところに内定辞退。大きく、目算が狂うわけで、恐れないわけがありません。

 「内定式前でも後でも辞退されるのは痛いですね。社長や役員には、『人事は何をやっていたのか』と怒られますし、補充採用も考えなければなりませんし」。「特に内定式後の内定辞退だと、他の内定学生にも悪い影響が出てしまいます。せめて内定式前に辞退してほしい」。こんな人事担当者の嘆きが聞こえてきます。

 内定者フォロー・新入社員研修SNS・エアリーフレッシャーズを運営するEDGE株式会社の佐原資寛社長は、内定辞退について次のように話します。

 「2017年卒への調査だと内定辞退のピークは6月。内定式のある10月はさすがに減っています。ただ、内定式が契機となって辞退した、という事例はあります」

 では、内定式が終わって、内定辞退を言い出す学生がいなくても問題ないか、と言えばそんなことはありません。

 「最近の特徴としては、3月など入社直前期に人事が辞退を知るケースも増えております。卒業できないなど、本当にその時期に発生したものもありますが、大半は学生が言い出せず、ズルズルとしてしまうケースのようです。内定式を終えてから安心ということではなく、その後も入社式まで内定学生をどうグリップするか、企業は考える必要があるでしょう」

 なお、内定辞退は第13回記事にも書きましたが、法的には合法となり、かつ、企業から損害賠償を請求される可能性は低いです。ただし、入社直前での内定辞退だと損害賠償を請求される可能性も出てしまいます。仮にそうならなくても、内定辞退をされた企業が所属大学に対してネガティブな感情を持つことは否定できません。後輩に迷惑をかけないためにも、内定辞退をするのであれば早めの決断が必要です。

1960年代・ダイハツから内定辞退防止策あり

 内定辞退とその対策は決して最近の話ではありません。古くは、『労政時報』1961年9月22日号に「ダイハツ工業の入社前通信教育制度 採用内定から入社までの爾前教育の新事例」が掲載されています。

 入社前7カ月間(当時は9月内定)の間に5回、会社側(担当は勤労部教育課)から通信、社内報、モーターガイド、ペン習字のしおりなどが送られます。年賀状もこれとは別に送付。送付物の内容は「採用内定のお祝いと激励」「健康心得」「手紙の宛名の書き方」「生活設計」「自動車の運転練習の奨励」などなど。「ことさらに奇をねらつたものではなく」(記事原文ママ)、オーソドックスな内容です。

 ただ、社会人として働くうえで知っておくべき内容でもあります。実際、かなり好評だったようで、「意外の反響を呼び、高校または中学校の社会科の教材の一つに使用されて(就職内定者がこれを教室で読み上げてクラス全員で参考にしたという例も出ているという)、会社のP・Rの役目も果たしているという案外な効果も生まれているということである」(記事)

 他にも「栄養」の部分では「食事の気分、ふんい気は消化に影響しますから『けしからぬ兄貴だ』などと腹をたてながら食べぬこと」とあります。ダイハツ工業の内定者の兄がおかずを奪うのがおしなべて上手だったのか、色々と推測できる資料でもあります。

内定辞退策の豪華化した時期も

 1980年代にはバブル景気もあって内定者拘束が豪華となっていきます。日本経済新聞1981年10月12日記事には、ある商社の引き留め策として、2泊3日の研修旅行を実施。1日目は神戸の会社施設見学、夜は「市内のカラオケバーなどを飲み歩き、会社の寮に入ったのは午前1時」。2日目は大阪市内の会社施設見学、「夜も市内に繰り出した」。3日目は営業政策について同行した営業部員が説明、帰京したのは夕方。

 他にも、技術研究所に学生を呼びながら教えたのは「コピーのやり方」だけで夕方まで拘束した大手事務機メーカー。それから、「内定者を1泊旅行に招待した上位都銀、1日から1泊2日でわざわざ地方の工場に学生を連れていったオートバイメーカー、2泊3日の日程で箱根の会社保養所で研修会を開いた生保」などの事例を紹介しています。

 1990年刊行の人事担当者向けマニュアル本『採用内定者管理の進め方』(知念実、ぱる出版)では、内定者拘束・プレゼントについて、背広(できるだけ有名ブランドにして、父兄にも仕立券をプレゼントする)、ローン(社宅購入資金、高級車など)、学費援助から車(300万円相当)、マンション、牛・馬(地方出身者の親に対して)など、どこまで大盤振る舞いしたのか、というほど、実施事例が並んでいます。個人的には生まれる時代を間違えた、と憤るしかない資料です。

 さらに、「研修なんかで拘束するよりは、ぶらりと海外に出かけ幅広い知識を身につけてもらった方がいい」と言い出す金融機関トップも出てきました。足利銀行の副頭取で、これは現代にも通じる話です。ところが、バブル期らしいのは、この足利銀行、内定者の卒業旅行に最高50万円まで貸す制度を構築しました。副頭取のコメントはその紹介記事(朝日新聞1988年2月18日)でのものです。「印鑑1つでOK」、しかも無担保。5年返済で初回返済は入行1年目の年末ボーナス時という好条件。「(足利銀行は)取引先の企業にも融資し、同じ制度を勧めることを検討中だ。こちらの方は、れっきとした『商売』になる」(記事より)。まあ、こんな大盤振る舞いをやっていたこともあってか、足利銀行は2003年に経営破たんを迎えてしまいました。

内定式に遅刻・欠席で人生終わり?

 内定式に話を戻すと、学生が遅刻・欠席するとどうなるのでしょうか。ネット上では「遅刻・欠席は論外。大きく人事評価を下げる」などの言説があります。それを受けてか、内定学生からも悲鳴が。「出席しようとしたのですが、交通機関の遅れで間に合いませんでした。気分はもう最悪なのですが、やはり人事考課に影響しますよね?」。「大学の必修講義があり、その影響で内定式には参加できなかった。一応、担当教授に事情を説明しても『単位がほしければちゃんと出席するように』との一点張りだった」などなど。

 ただ、内定式への遅刻や欠席は仕方ない、とする採用担当者が多数でした。「感心はしませんが、電車の遅延であれ、寝坊であれ、遅刻したものは仕方ありません。それよりは今後に生かしてくれる方がいいです」。「たとえば、理工系学部であれば教員によっては就活そのものに敵意を丸出しにしています。内定式に合わせてわざと予定をぶつけてきた教員もいました。他学部でも同様です。その辺はこちらも理解しているので内定式に参加できなくても、それで評価を下げることはありません」。

内定学生がノーチェックの精算、書類、懇親会

 一方、学生からすれば意外なところをチェックする採用担当者がいました。まずは、交通費の精算。「軽い気持ちかもしれませんが、交通費をごまかそうとするのはやめてほしいです。お金にルーズ、と悪い印象を持ってしまいます。同じルーズでも時間はまだ許容できる人がいます。しかし、お金だと、社内外とも許容できない人が圧倒的に多いので」。特に最悪だったケースは、新幹線の領収証を用意しておきながら、高速バスで移動。その高速バスが渋滞で遅れたケースです。「本人と合わせて出てきた領収証は新幹線なのに、本人の第一声は『すみません、高速バスが遅れました』。思わず、こちらも『そうかあ。新幹線という名の高速バスがあるんだね。領収証はJRになっているけど』。嘘がバレたときのあの学生の表情はちょっとかわいそうでした」。

 2番目が書類。「こちらは順番に説明していこうとするのですが、さっさと書類を読み飛ばしていく学生がいます。読み飛ばす割に話を聞いていないから、結局、聞き直すことに。心なしか、こういう内定学生は入社後もそれほど伸びません」。「些細なことかもしれませんが、書類のふりがながひらがな指定なのに、カタカナで書く学生がいます。指示をきちんと守れるのか、ちょっと不安になりますね」

 3番目が懇親会です。単なる飲み会で、それもあえて役員などを外す企業もあります。自由そうですが、実はそこが落とし穴です。「内定学生同士で盛り上がるのは構いません。ただ、盛り上がりすぎて他のお客さんに迷惑をかけていないか、したたかに酔っても、最後はちゃんと精算できるのか。仲間内でも気の合う人とだけ話すのか、それとも一通り話そうとするのか。そのあたりはさりげなく観察しています」。

 内定学生からすれば、社会人になる第一歩が内定式です。その内定式前後から、バタバタする上にいろいろ観察されるようになります。気苦労が絶えませんが、ま、それが社会人というものなので頑張ってください。