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ここがおかしい 
日本企業の「株式持ち合い」

ここがおかしい 日本企業の「株式持ち合い」
トヨタ自動車の株主総会

 企業が互いに株式を保有し合う「持ち合い」は、資本市場において不健全な日本的慣行とみられることが多いようです。持ち合いの解消を求める外国人投資家も少なくありません。株式持ち合いのどこが問題なのでしょうか?

ガバナンスの観点からも問題

 そもそも論から言えば、株式の持ち合いは株式会社制度の否定につながりかねません。

 企業が株式を発行して資本を調達するのは、そのお金を投資などに回すためです。企業は資本を充実させ、事業を拡大させることを要請されている存在です。

株式の持ち合いは株式会社制度の否定につながりかねない

 今、A社が100億円分のB社株式を保有し、B社も見返りとして100億円分のA社株式を保有するという、単純な株式持ち合いを想定してみます。これはA社とB社の間で100億円分の資本が固定化され、有効に使われていない状態と見ることができます。株式持ち合いは互いに売らないことが前提になっているので、A社にとってもB社にとっても100億円は自由に使えない資本です。第三者からすれば見せ金ということになりかねません。このような状態を「資本の空洞化」と呼び、株式会社制度を健全に保つための「資本充実の原則」に反するといった批判がついて回ります。

 コーポレートガバナンス(企業統治)改革の機運が高まる昨今、株式市場を通じた経営への規律づけの面からも株式持ち合いを問題視する声が増えました。

 先ほど述べたように持ち合いは売らないことが大前提です。このため、業績がふるわなくても、株価が下がり経営者がプレッシャーを感じるという力学が働きにくくなります。株主総会で会社側の提案が通りやすくなり、経営に失敗した取締役が選任され高額報酬を手にするといった事態が起きるかもしれません。

 この点で注目されるのは「片持ち合い」と呼ばれる現象です。A社とB社が双方に株式を保有するのではなく、A社がB社の株式を持つ見返りに、B社からビジネス上の見返りを得ます。最も分かりやすいのは、生命保険会社が売らないことを前提に企業の株式を持つとともに、保険営業で便宜を図ってもらう取引です。保険会社のメリットになるかもしれませんが、生保が「片持ち合い」をしている企業に資本市場の規律は働きにくくなります。

60年代に持ち合いが急増

 株式の持ち合いはいつから始まったのでしょうか?

 戦前の日本は財閥の持ち株会社が様々な企業の株式を一括して保有していました。財閥の力が軍国主義の背景の一つだったとの認識から、GHQ(連合国軍総司令部)は財閥解体を命じました。これによって放出された株式の受け皿をつくるため、政府や証券界は株式保有を促しました。証券民主化運動という動きで、個人の持ち株比率は1949年度には69%に高まりました。

1964年の東証大納会の手締め。この時期に持ち合いは急増した

 こうした個人株主の黄金時代は60年ごろまで続いたのですが、外国から日本への投資が自由化されると、外資による日本企業乗っ取りの脅威が浮上します。企業がその対応策としてとったのが、売らないことを前提にした「株式持ち合い」や「片持ち合い」でした。90年代以降はバブル崩壊で株価が下落し、持ち合い株も損失を抱えてしまいました。経営や財務を立て直すために持ち合い株式を手放す動きも顕在化し、現在に至ります。

 では、株式持ち合いはどこまでなくなったのでしょうか?

 2017年7月16日付の日本経済新聞は「株持ち合い縮小10%割れ」と報じました。ベースになったのは野村証券の西山賢吾シニア・ストラテジストの調査です。また、同年8月30日付日経の経済教室で、日本投資環境研究所の上田亮子主任研究員と慶応大学の小林慶一郎教授は「政策保有の株主比率は34%」とする論考を発表しました。政策保有とは「相手企業の支配権を伴わない程度の株式を保有し、取引などの基礎となる信頼関係を構築する」ことを目的にした株式の所有形態を指し、持ち合いや片持ち合いとほぼ同義です。

安定株主は3分の1強か

 「10%割れ」と「34%」はかなりの開きがあり、読者の皆さんも混乱されたのではないでしょうか。実はこの2つの数字はどちらも誤りではありません。

 西山氏の調査は対象を上場企業に限り、生保は含めず、時価総額ベースの比率を扱っています。上田氏らの論考は有価証券報告書だけでなく日銀の資金循環統計、証券取引所が発表している株式分布状況調査も利用し、できるだけ小口の持ち合い株主までカバーすることを試みています。また議決権ベースで計算することにより、株主総会での会社提案の通りやすさに焦点を当てました。

 西山氏も「株式分布調査をベースに投資家を分類すると、安定株主と考えられる投資主体が3分の1強を占めているとみられる」としています。

 私が最近、注目しているのは商事法務研究会の「株主総会白書」です。これは上場企業へのアンケートに基づいており、各種統計には表れにくい経営の本音がにじみ出ています。昨年末に発行された16年度版白書によると、全体(1775社)のうち、自社の安定株主比率が50%台とする回答が22%(393社)と最も多く、次いで60%台が21%(367社)でした。

 ここでいう安定株主とは、株主総会で会社側提案に賛成するとみられる株主のことですから、「持ち合い」や「片持ち合い」の株主と重なる部分が多いと考えられます。西山氏や上田氏らの論考よりも、さらに持ち合い比率は高いことになります。どうしてこんな誤差が出るのかといえば、ごく少額の持ち合いが広く浅く広がり統計で把握しにくくなっているから、と考えられます。例えば0.1%の持ち合い株主が100人いれば、それだけで10%の持ち合いですが、開示情報に出てくることはまずありません。

日本では契約書の代替にも

持ち合いが契約書の代替になっているとの解釈もある。資本提携発表の記者会見で握手するトヨタ自動車の豊田章男社長(左)とマツダの小飼雅道社長

 何かと批判される株式持ち合いですが、肯定的に語られることもあります。「資本提携」の形をとる場合です。企業どうしが特別にビジネス上の協力をするとき、関係を強化する目的で少額の株式を持ち合うことです。最近では、8月4日に発表されたトヨタ自動車とマツダの提携が代表的な事例です。電気自動車(EV)の共同開発が主眼ですが、トヨタはマツダに5.05%、マツダもトヨタに0.25%の出資をします。

 こうした資本提携では、ほとんどの場合、持ち合いと紙一重の相互出資がなくても業務上の提携を進めることはできます。「日本企業は米国ほど細かい提携の契約書を交わさないことが多く、持ち合いお互いを拘束する契約書の代替になっている」との解釈もよく聞かれるところです。

 資本の論理からすれば解消するに越したことはない株式持ち合いですが、日本的なビジネス慣行の面から検討してみることも時には必要なのでしょう。
(編集委員 小平龍四郎)[日経電子版2017年9月10日付]

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