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大学生観光まちづくりコンテスト2017インフラツーリズムステージ
ダムや鉄道、堤防を人とつなげるには

authored by 日経カレッジカフェ 
大学生観光まちづくりコンテスト2017 インフラツーリズムステージダムや鉄道、堤防を人とつなげるには
壇上に並んだステージ本選出場チームのリーダーたち

 大学生が考えた地域観光振興のアイデアを競う「大学生観光まちづくりコンテスト」(観光庁、文部科学省など後援)。7年目を迎える今年は、地域ではなく全国共通のテーマについて競う新たなステージが新設されました。それが「インフラツーリズムステージ」です。ダムや橋、鉄道、高速道路など、様々なインフラをどのように観光や地域づくりに生かしていけばよいのか。大学生や大学院生が知恵を絞った成果をのぞいてみましょう。

4ステージ中最大 98チームが参加

 インフラツーリズムとは、ダムや橋、あるいはトンネルなどのインフラ施設を目玉にすえた観光のことをいいます。まだ耳なじみが薄い言葉ですが、著名な観光地になっている黒部ダムはもちろん、神奈川県丹沢地方の宮が瀬ダムをはじめ、多くの観光客を集めるケースが増え、ここ数年注目が高まっています。今回は「公共インフラを新たな視点で大胆に活用した『観光まちづくりプラン』」「歴史的インフラ(遺構)を活用した『観光まちづくりプラン』」の2つのテーマが設定され、全国の大学生、大学院生に参加を呼びかけました。対象地域は全国。日本国内なら自由に設定できるため、応募したチームは54大学の98チームと、今年設定された4つのステージの中で最大規模。北は青森から南は沖縄まで参加大学は全国各地に及びました。

 9月15日、成果発表会が開かれるさいたま新都心合同庁舎1号館の講堂に集まったのは、10チーム。書類による予備審査の競争率は9.8倍と、他ステージの2倍ほどの狭き門です。東京の大学が4チームと最大を占めましたが、東北、北関東、甲信越、北陸、関西と多彩な地域の大学が本選を競い合いました。

 インフラツーリズムを考える場合、どんなインフラに注目するのかが大きなカギになります。最も多くのチームが注目したのは、廃線を含む鉄道でした。トップバッターとしてプレゼンに臨んだ北陸先端科学技術大学院大学の「敷田研究室 JAISTEST」チームは、北陸と東北のローカル線同士を結びつけた広域観光プランを提案。どちらにもあるイベント列車を拡張現実(AR)技術を利用して、イベントがない時期にもバーチャル体験できるようにしたり、北陸―東北間の長い新幹線移動の時間を楽しむ民芸品のパズルなどを開発したりといったアイデアを盛り込みました。このプランは両地域に共通する妖怪をARを使って橋渡しし、広域連携につなげる点などが評価されて、インフラツーリズム推進会議賞を受賞しました。

北陸先端科技大学院大学
北陸先端科学技術大学院大学「敷田研究室JAISTEST」

聖心女子大学/小川ゼミ
聖心女子大学「小川ゼミ」

 他にも、聖心女子大学の小川ゼミチームが埼玉県川越市にある西武鉄道安比奈線という廃線に目をつけ、山梨県立産業技術短期大学校の「チームこぴっと」は山梨県内のリニア実験線を核にしたリニアツーリズムを、長野大学「チームかんまち」は善光寺白馬電鉄の廃線跡を活用した長野市鬼無里地区の観光まちづくりプランを発表しました。学生にとっては、どんな地方にいても、鉄道は身近に感じられるインフラのようです。

山梨県立産業技術短期大学校/チームこぴっと
山梨県立産業技術短期大学校「チームこぴっと」

長野大学/チームかんまち
長野大学「チームかんまち」

水害、震災...被災地もテーマに

 もうひとつ目についた傾向は被災地を取り上げる姿勢です。茨城大学の「茨城大学地方政治論ゼミナール」チームが対象にしたのは、15年9月に集中豪雨で堤防が決壊し、大きな水害が発生した茨城県常総市。注目したインフラは堤防そのものです。「うまい棒」というスナック菓子を製造する地元企業の協力のもと、うまい棒のパッケージデザインをペイントした巨大ダンボールを堤防斜面に並べ、土手滑りを楽しむ空間にするというユニークなアイデアが中核で、これに災害時に使われるゴム製のボートを体験するプランなどを組み合わせ、防災意識と観光、堤防の利用を促していこうと提案していました。地味な存在の堤防というインフラを被災地に寄り添う形で生かした点が評価されて、JTBクリエイティブ賞が与えられました。また、宮城学院女子大学「はななす*さんでぃーず」チームは、仙台市南部から名取市の被災地を取り上げました。

茨城大学/茨城大学地方政治論ゼミナール
茨城大学「茨城大学地方政治論ゼミナール」

宮城学院女子大学/はまなす*さんでぃ-ず
宮城学院女子大学「はまなす*さんでぃ-ず」

「ジャンクション」に注目したチームも

京都大学大学院/景観設計学研究室
京都大学大学院「景観設計学研究室」

 あまり目を向けられることの少ないインフラに注目したのは、京都大学大学院の「景観設計学研究室」チーム。テーマにしたインフラは高速道路のジャンクションです。景観好きのジャンルのひとつに「ジャンクション萌え」というジャンルがあり、高架道路が多層に重なり合う光景を写真に取ったりして楽しむ人々が少なからずいるとのこと。この「ジャンクション萌え」を核に、久御山町という京都南郊の小さな町を盛り上げていこうというプランです。この町にある久御山ジャンクションの景観のおもしろさをライトアップなどでアピールし、大規模商業施設のイオンモールのほかは休耕地や田畑が広がるだけのジャンクション周辺地域に観光農園や市民農園として整備して、京野菜の町という地域の特徴を合わせて観光客や行楽客を呼び込むアイデアが披露され、そのユニークさでアソビュー賞を射止めました。

 また、東京都市大学「吉川研究室」チームが取り上げた羽田空港も有名すぎて、かえって観光まちづくりプランにつなげるには盲点だったのかもしれません。個別のインフラ施設に注目するのではなく、インフラ観光全体の底上げを狙ったプランを打ち出した明治大学の「歌代ゼミ teamインフラ」のようなチームもありました。

東京都市大学/東京都市大学吉川研究室
東京都市大学「東京都市大学吉川研究室」

明治大学/歌代ゼミteamインフラ
明治大学「歌代ゼミteamインフラ」

圧巻の跡見学園女子大「ダム女子」

 こうした多彩なプランがひしめく中、最高賞の観光庁長官賞を受賞したのは、インフラ観光ではすでに様々な発展を遂げている「ダム」という対象を取り上げた跡見学園女子大学「篠原ゼミ ダム女子」チームでした。

跡見学園女子大学/篠原ゼミ ダム女子
跡見学園女子大学「篠原ゼミ ダム女子」

 ただ、ダムといっても対象にしたのは普通のダムではありません。「八ツ場ダム」といえば、聞き覚えのある人も少なくないでしょう。民主党政権が発足した2009年、国土交通相に就任した前原誠司氏がいきなり「事業中止」を宣言して一躍注目を集めたあのダムです。建設計画が持ち上がってから今日まで65年、様々な紆余曲折を経てようやく2年後の完成を目標に工事が最終段階にさしかかっています。賛成と反対で分断された町に一体感を取り戻し、産官学が連携してまちづくりと観光を同時に盛り上げていくプランをチームで練り上げていきました。

 「ダムの放水口に巨大モニュメントを設置、群馬県のゆるキャラ『ぐんまちゃん』の口から流れ出る観光放流」「渇水で現れる雨の女様"レインヴィーナス"出現」など、ダム観光を盛り上げるユニークな提案そのものも魅力的でしたが、発表を見ている人を驚かせたのは、地元の人や工事関係者の中に深く入り込んだその取り組み方でした。

観光庁長官賞を手に記念撮影

 跡見学園女子大学はダムのある群馬県長野原町と地域連携協定を結んでおり、その協定のもと、町や地域住民、そして建設当局と連携した活動を幅広く展開していました。女子大生が案内するダム建設現場見学など「やんばツアーズ」を企画してすでに開催するなど、フィールドワークの域を超えた実践が進行中です。そうした厚みへの評価が高かったようです。観光庁長官賞のみならず、地域リノベーション賞、水資源機構賞も受賞、会場の投票で選ばれるパフォーマンス賞も受賞し、4冠を手にしました。

ポスターセッションで熱演する「明治大学木寺ゼミナール」

 「インフラツーリズムとは何かというところから始めたので、初めはたいへんだった」。チームリーダーの佐々木瑠菜さん(3年)はプランづくりの苦労をこのように話してくれました。それでも「現地でコンシェルジェなどをやってみて理解が深まり、5つの提案まで持っていくことができた」と振り返っていました。「ダムが完成してからも頑張っていきたい」と抱負を語ったチームの覚悟に、会場からも大きな拍手が送られました。

 本選のほか、惜しくも本選をのがしたチームによるポスターセッションも合わせて開かれ、こちらは明治大学の「明治大学木寺ゼミナール」チームが参加者の投票で優秀賞に選ばれました。

 インフラツーリズムステージの本選出場チーム(大学名50音順)と審査結果は以下の通りです。

・跡見学園女子大学/篠原ゼミ ダム女子「ダムを、地域を支える力に変える!!女子大生が提案する八ツ場ダム日本一のインフラツーリズム開発計画」(観光庁長官賞、地域リノベーション賞、水資源機構賞、パフォーマンス賞)
・茨城大学/茨城大学地方政治論ゼミナール「きぼう×ていぼう×うまいぼう~"おかし"な堤防プロジェクト」(JTBクリエイティブ賞)
・京都大学大学院/景観設計学研究室「くみやまくるくるアグリパーク―久御山らしさを実感する地域交流の場―」(アソビュー賞)
・聖心女子大学/小川ゼミ「温森鉄道~忘れられた廃線が想いをつなぐ~」
・東京都市大学/東京都市大学吉川研究室「HGC~世界に誇れる羽田空港~」
・長野大学/チームかんまち「善光寺白馬電鉄の廃線跡で巡るエコミュージアム鬼無里」
・北陸先端科学技術大学院大学/敷田研究室JAISTEST「『遺伝子レベルで旅してる?』鉄道インフラの歴史をトラベる3DAYS」(インフラツーリズム推進会議賞)
・宮城学院女子大学/はまなす*さんでぃ-ず「『乗っべえ・見っべえ・語っべえ』~仙台市東部沿岸地域の公共交通インフラを活用した震災復興ツーリズム」
・明治大学/歌代ゼミteamインフラ「波に乗れ!インフラツーリズム!!」
・山梨県立産業技術短期大学校/チームこぴっと「やまなし途中下車の旅 ~素通りさせない地域の魅力発信~」

審査員とともに全参加チームで記念撮影

(取材は水柿武志)

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