日本経済新聞 関連サイト

OK
[ career-働き方 ]

サステナブルな会社選び(8)NPOの財政基盤を支える
Tシャツ屋さん「JAMMIN」 

authored by 「オルタナ」編集部
サステナブルな会社選び(8) NPOの財政基盤を支えるTシャツ屋さん「JAMMIN」 

 この連載では、ソーシャル・イノベーション・マガジン「オルタナ」編集部の記者が企業の規模や知名度を問わず、CSR(企業の社会的責任)で先進的な役割を果たし、社会的課題にも積極的に取り組む企業を紹介していきます。企業のCSRやサステナビリティ担当部署で働く若手社会人や社会起業家へインタビューし、「社会的課題を解決する働き方」を様々な角度からお伝えします。

 京都市に「JAMMIN」(ジャミン)というチャリティーファッションブランドがあります。毎週いろいろな NPOと連携して、1週間限定でその NPO用のチャリティーTシャツを同社のサイト上などで販売、売り上げの一部はNPOへの寄付に回ります。2013年の創業以来、178の団体と組み、寄付総額は1400万円を超えます。Tシャツの販売を通じて、NPOの活動を後押しします。

Tシャツ1着売れば700円が寄付に

左から同社代表の西田太一さん(34)、共同創業者の高橋佳吾さん(34)、デザイナーの日高啓寛さん(28)

 JAMMINのビジネスモデルを説明します。国内の工場から無地のTシャツを仕入れて、同社で作成したデザインをプリントしてネット販売しています。Tシャツは1着3400円から。1着の販売につき最大で700円が連携先のNPOへの寄付に回る仕組みです。

 TシャツのデザインはNPOからそのビジョンや活動内容をヒアリングして、社内でディスカッションしながら考えます。3案出して、その中からNPO側に1案選んでもらうようにしています。このサイクルを1週間ごとに繰り返します。

 連携先のNPOからは金銭は一切受け取っていません。ともにキャンペーンを成功させるパートナーとして組むからです。目標寄付額を設定して、広報戦略なども入念に話し合います。NPOは現場で緒支援活動がメーンではありますが、寄付が入ったり、新しいファンが増えたりすることがあるので、SNSでの告知などを積極的に行っています。

チャリティーデザインTシャツは全8色。Vネックや7分袖、パーカーなどもある

 「1週間限定販売のTシャツ」という試みはソーシャルメディア上で次第に拡散しました。初年度は1週間で平均約50枚の売り上げで、寄付額も3万円ほどでしたが、4年目の今年は平均売り上げ枚数が200枚。平均寄付額も14万円にまで伸びました。

 今年6月中旬に実施したキャンペーンでは、1週間の寄付額が過去最高の75万円を記録しました。連携したのは、一般社団法人END ALS。2014年に「アイス・バケツ・チャレンジ」で話題になった難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の根絶を目指す団体です。キャンペーンが始まるとSNSで相次いでシェアされ、1週間で1000枚以上のTシャツが購入されました。

 連携先のNPOの活動は同社のサイトでも紹介しています。取り組む社会問題の説明から、団体を立ち上げた経緯などまで記事にまとめ、発信しています。事前知識がない人でも理解できるよう、書き方も丁寧と評判です。

2人だけの週末「起業塾」でビジネスプラン練る

 JAMMINを立ち上げたのは、西田太一さん(34)と高橋佳吾さん(34))。2人は大手開発コンサルティング会社の同期です。2人が社会に出た当時は、社会起業家がちょっとしたブームになっていました。

 バングラデシュで貧困層に無担保・低金利で融資するグラミン銀行を立ち上げたムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞し、社会問題を事業で解決する「ソーシャルビジネス」関連の書籍が続々と世に出始めた頃でした。

2014年にサイトを開設し、最初にキャンペーンを行ったのは京都の認定NPO法人テラ・ルネッサンスとの連携

 2人とも後の起業を念頭に入社したため、意気投合。週末はどちらかの家に集まりビジネスモデルを話し合いました。この「起業塾」は退職するまでの4年間、「ほぼ毎週行った」とのことです。

 多くのビジネスモデルを研究しましたが、起業を後押ししたのは次の2つの事例が大きいと言います。ひとつは米国のNPO「チャリティーウォーター」で、発展途上国で井戸を掘る団体。衝撃を受けたのは、この団体を立ち上げたスコット・ハリソンの経歴で、社会貢献とは程遠いクラブイベントの主宰者でした。 

 彼はたまたま休暇中に読んだ啓発本をきっかけに退職し、発展途上国を診療船で巡る活動にボランティアとして参加。病気で苦しむ子どもたちの姿が忘れられず、帰国したときに、持ち前の集客力を生かしてチャリティークラブイベントを開きました。参加費の一部が井戸を掘る活動への寄付になる仕組みで、多くの人が集まり、今後の成功を確信したスコットはNPOを立ち上げたのです。

 寄付に「カジュアルで、分かりやすさ」を求めていた2人はこのモデルを知ったことで興奮し、日本でクラブイベントを開こうと考えました。しかし、ネックになったことがありました。それは、日本にはまだ寄付の文化が根付いていないということです。

週末には壁一面にアイデアを書き、創業者2人で徹夜で議論した

 事実、日本と米国の寄付市場を比較すればその差は歴然。2014年の米国の寄付額は27兆3504億円で、日本はその額の3%以下です。東日本大震災を機に寄付額は伸びましたが、チャリティーの文化はまだ根付いていませんでした。このため2人はクラブイベントの主宰者という手段は諦めました。

 しかし、別の事例を参考に2人は起業を決意しました。それは、米国のファッションブランド「セブンリー」。NPOと連携したTシャツやパーカーを週替わりで販売しており、1枚販売するたびに7ドルを寄付しています。

 30歳になっていた2人はアパレルの経験はなく、競合が多いファッション業界に進出することはリスクでもありました。それでも、Tシャツ販売でNPOの財政基盤を支えることに決めたのは、「斬新なモデルで単純に気に入ったから」と言い切ります。

高まるNPOへの期待に応えたい

 高橋さんは、「NPOの市場価値と世間の評価の差を埋めたい」と強調します。現在、日本にNPOは約5万団体あり、その数はコンビニエンスストアと同数。しかし、人手不足や財政難で活動が低調になり、形骸化している団体も少なくありません。

 一方、NPOへの期待は高まっています。先進国では社会問題が複雑になり、行政のセーフティーネットからこぼれ落ちる人も増えています。社会的に困難な立場にいる人を支援する活動の場合、サービスの受益者から十分な対価を得ることは難しいゆえ、企業は「儲からない」という経営判断を下してしまいがちです。そこで、頼りになるのがNPOです。

 社会的な問題で苦しむ人を支えるNPOの存在価値は決して低くありません。事実、NPOで働くことに関心を持つ若者や社会人は増えています。しかし高橋さんは、「憧れの職業として見てくれてはいるが、待遇面で働くことを諦めざるを得ないケースが多い」と指摘します。「NPO職員の報酬を上げて、ブランディングにも役立ちたい」と意気込んでいます。

 起業した当初はNPOとのツテがなく、連絡しても返事が返ってこないこともあったそうです。それでも、チャリティーTシャツを毎週継続してきたことで信頼を獲得し、今ではキャンペーンを広めてくれる貴重な多くの仲間ができました。目指すのは、1週間での平均寄付額100万円だそうです。

 取材の終わりに高橋さんが発した一言が、胸に残りました。「Tシャツはどこでも買える。だからこそ価値観で選んでほしい」――。
(「オルタナS」編集長・池田 真隆)

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>