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liberal arts-大学生の常識

プログラミング教育は
「新しい考え方」を学ぶため

林信行 authored by 林信行ITジャーナリスト/コンサルタント
プログラミング教育は「新しい考え方」を学ぶため

 デジタルテクノロジーがあらゆるところに行き渡り、成功している会社の上位ランキングがIT(情報技術)企業で占められている。そして、コンピューターのプログラミングが重要なスキルとして認められ、多くの学校がプログラミング教育を始めている。国も2020年にはこれを必修化することを決めた。

 さらにセンター試験に代わる新しい「大学入学共通テスト」が20年度に始まる。新学習指導要領も20年度から段階的に導入される。日本の教育は「21世紀の社会に求められる人材を生み出す」という時代の要請に十分に応えてこなかったと言われてきたが、これらによって一気に様変わりすることが期待されている。

 学校を含めた教育産業は、与えられた問いへの答えや解法を覚えさせることに重きを置いていた。実はそうしたことは人工知能(AI)がもっとも得意とすることだ。今の教育はAIで置き換え可能な人材を大量生産しているとも言える。

 今、重要なことは、新しい「問い」を見つけたり、新しい「問い」を見つけるべく物事を探求したり、分析したり、共感したり、発信したりする能力のはずだ。

 プログラミング教育は新しい価値を未来の子どもたちに与えることになると思う。だが、そこで大事なのはプログラミングをするためのスキルではないと思っている。

 なぜなら、遠からずコンピューターは自らをプログラミングするようになるからだ。

 すでにコンピューターで問いに対する答えを求める方法は「プログラミングをして答えを得る」やり方ではなくなりつつある。人の脳神経に似た「ニューラルネットワーク」を採用したAIにビッグデータを学習させ、それによって答えを得る方法に移りつつある。それでは、なぜプログラミング教育が重要なのか。

 この夏に公開された「メッセージ」というSF映画に「言語を1つ学ぶことは、新しい考え方を学ぶこと」といったセリフがあった。プログラミングを学ぶ意義はまさにこれなのだ。

 コンピュータープログラムは、プログラミング言語で記述する。命令語ばかりで構成される少し変わった言語だ。しかし、この言語を用いて世の中の課題を記述することは、物事をこれまでになかった形で見る(分析する)のに役立つ。

 繰り返し行う作業に関しては、どこの部分が繰り返しかなどを見きわめて、できるだけ少ない数の言葉で表す。こうした訓練を積むことで、世の中の事象を因数分解し、効率化するためのスキルが磨かれていく。

 プログラミング教育に価値があるのは、まさにこうした新しい「視点を与えること」だ。スマートフォン(スマホ)のアプリを開発しておこづかいを稼げるようにするためでもないし、会社から要求された通りのプログラムを開発する「人足」とするためでもない。

 筆者は未来的な授業というと、1990年代に米国の研究者のアラン・ケイ博士が行っていた教育実験を思い出す。

 ケイ博士は、まだコンピューターが巨大だった時代に、個人がどこへでも持ち歩けて、計算だけが目的ではない個人用コンピューター(パーソナルコンピューター)がいずれ出現すると予言した人物だ。

 彼の教育実験では「Squeak」というわかりやすいプログラミング言語のプログラム方法を教えていた。だが、それは第1段階にすぎない。

 彼は屋上から重さの違うボールを落とし、それを子どもたちに何度も観察させた。そして重力による加速度をプログラミングを通して再現させていた。子どもたちが発見・理解した自然現象をプログラミングで表現させようとしていたのだ。

 こういう能力を与えることこそが、本当に力を与える教育だと思う。
[日経産業新聞2017年8月17日付、日経電子版から転載]

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