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東大よりオックスフォード
挑む都立国際19人の新鋭
都立国際高校の荻野勉校長に聞く

東大よりオックスフォード挑む都立国際19人の新鋭都立国際高校の荻野勉校長に聞く

 英語力では公立高校ナンバーワンとも評される都立国際高校(東京・目黒)。2015年に全国の公立高で初の国際バカレロア(IB)ディプロマ・プログラム校の認定を受けて、いよいよ海外トップ大学の入学資格取得に初挑戦する。都市圏ではインターナショナルスクールに通う生徒は増えているが、課題は高い授業料。公立高から海外の有力大への道が開かれ、グローバル人材育成の先駆けとなるのか。駒場にある国際高を訪ねた。

IBコースの生徒19人が海外大に初挑戦

東京都目黒区の駒場にある都立国際高校

 「ハーロー。日焼けしたね」。東京大学の駒場キャンパスから徒歩10分のところにある国際高。訪れた8月末はまだ夏休み中だったが、文化祭の準備もあり、多くの生徒が学校に集まっていた。茶パツや紫色に髪を染めた生徒のほか、黒人や黒い無地の布を頭にかぶったマレーシア出身の女子生徒もおり、明るい雰囲気。英語で冗談を言い合い、まさにダイバーシティー(多様性)に富んだ学校だ。

 「今の3年生がIB資格取得の初挑戦になりますが、英国のオックスフォード大学に挑戦する生徒もいますね。10月末に本番の最終試験がスタートしますから、我々も緊張しています」。国際高の荻野勉校長はこう話す。同校の1学年の定員は240人、うちIBコースの定員は25人だが、実際に学ぶ3年生は少数精鋭の19人。今年から欧米やアジアの有力大に挑む。

 IBディプロマ・プログラムは、世界のトップ大学が認める国際的な教育プログラムだ。16~19歳が対象で、所定のカリキュラムを履修して、最終試験を経て一定の成績を収めると、大学入学資格を取得できるという仕組み。英語のほか、フランス語とスペイン語が主な言語だ。海外の有力高校中心に3000校余りが導入。米国のハーバード大学など世界大学ランキングの上位の大学は、いずれもこのプログラムを支持し、最も重要な入学資格の一つとしている。ただ、日本では国際高のほか、私立高校、インターナショナルスクールなど40校程度しか認定されていない。

IB認定のため校舎を新設

授業は先生1人に生徒4~5人と手厚い=都立国際高校提供

 IB認定校になるのは至難の業だ。単純に英語で授業をすればいいのではなく、授業の設定や、教え方などソフト面と、設備などハード面を抜本的に見直す必要がある。本部のIB機構が要求する教育水準はきわめて高い。国際高の場合、IBに対応した専門教員を集めて海外研修を積み重ね、主にIBの授業を実施する地上3階建ての「第2校舎」まで新設した。

 IB用の科目は、言語と文学、言語習得、個人と社会、科学、数学と選択科目の6科目で、授業はすべて英語で行われる。さらに国内の高校として取得する必要がある、数学1や物理、化学、生物、世界史などの授業も英語だ。国語総合や日本史などを除き、8割強の授業が英語ということになる。しかも「IB機構の求める授業レベルは、理系中心にかなり高度です。特に数学は日本の大学3年生で取得する項目もあり、難易度が高いです」とIB担当の高橋聡副校長は話す。理系科目は米欧の高校に比べて日本のほうが高いという認識だったが、IB認定校はその上をいくようだ。

 もちろん授業はアクティブ・ラーニング(能動的な学習)が主体。基礎的な知識をベースに論じ合い、最終的に自分の独自の考えを発言したり、文章にまとめたりする必要がある。「あくまで自分なりのオリジナリティーが重視されますが、ベースとなる知識量も相当なものです」(高橋副校長)という。

生徒62人に教員20人

 IB用の理数系の教科書をちらっとめくってみたが、もちろん英語で、かなり複雑な数式なども書かれている。教科書自体がずしりと重い。誰がどのように教えているのか。国際高は、英語に卓越し、IBの授業が可能な6人の専任教員を集め、年3回前後の海外研修に出している。ほかに外国人11人を含む講師14人という20人の教員体制をつくった。第2校舎には専用の職員室まである。一方のIBコースの生徒数は高1から高3まで62人しかおらず、「授業は最大でも教師1人に生徒10人、時には1対1の場合もあります」(高橋副校長)と手厚い。

国際高校のLANが完備された教室
実験室にはシャワーも完備

 LAN(構内情報通信網)をフル装備する教室もあり、全生徒が端末を持つ上、2人に1人の割合で大型のディスプレーも用意している。「教科書はありますが、ノートはとらなくても、授業で示される内容はすべてネット上というか、クラウド上に置かれ、自宅での予習にも復習にも不便はありません。その分、授業でのディスカッションに時間が割けます」(荻野校長)という。

 理科の実験室にはIB機構側からの要請で高価な実験装置を導入。仮に薬品などがふりかかった場合、すぐに全身を洗えるようシャワーまで備えている。

学費、インターナショナル校より格安

IBコースのため新設した第2校舎

 IB認定校には人材や設備などに相当なコストがかかる。このためIB認定のインターナショナル校には初年度納入金が200万円前後になるところもある。しかし、国際高は、「年間の授業料はほかの都立高と同じ11万円台。まあ、教科書代とかは別途かかりますが、あくまで公立ですから」(荻野校長)という。海外のトップ大学を受験するのはコスト面からも厳しかったが、一般の家庭にもチャンスが出てきたわけだ。

 このIBプログラムの満点は45点。通常の授業でのプレゼンテーションのビデオや発言の音声データのほか、各人の活動をまとめた書類、10月30日からスタートする最終試験の結果を総合評価して点数を付ける。評価はIB機構で厳正に行われる。「IBの入学資格を得るには24点以上とればいいのですが、オックスフォード大やハーバード大など世界のトップ大学に入るには40点以上、42点ぐらいはほしいところです。最後の筆記試験以外のデータはすでにIB機構に送っていますが、手ごたえはあります」(荻野校長)という。

 もともとIBコースの生徒はかなり高度な入試を経て国際高に入学している。定員25人(4月入学生徒は20人)のうち5人が外国人枠。日本人の倍率は4倍、外国人は6倍をそれぞれ超えるが、各学年で定員を満たしたことはない。学校側はそれほど厳しく選抜しているわけだ。

 東大などもIB資格での入学が可能となるが、「日本の大学希望者はいませんね。もともと国内大学の進路指導はしないと断って生徒を募集しています。スタンフォード大とか、アジアではシンガポール国立大が人気かな」(荻野校長)という。IBコースの生徒から見ると、東大は世界のトップクラスの大学ではない。欧米のトップ大の場合、授業料も高額だし、生活コストもかかるが、成績上位者なら高額の奨学金をもらう道もある。

東大は世界では46位

都立国際高校の荻野勉校長

 英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が9月5日に発表した世界大学ランキングによると、東大は46位(前年は39位)で過去最低の順位。上位陣は英米の大学が占め、1位はオックスフォード大、2位はケンブリッジ大、3位はカリフォルニア工科大とスタンフォード大......。アジアの首位は全体で22位のシンガポール国立大だ。シンガポールの国民の多くは英語や中国語に堪能で、グローバル人材の宝庫になっている。日本のトップ大学はアジアでの地位も年々下がっている。

 国際高は1989年に誕生した新興の公立高だが、「早稲田大学、慶応義塾大学、上智大学、国際基督教大学(ICU)の私立難関大に生徒数のほぼ3分の1が現役合格する」(荻野校長)という都内有数の進学校だ。大学入試のセンター試験では英語で全国トップに立ったこともあり、大手進学塾は「英語力では全国の高校でもトップクラスに入る」と評価する。

 17年は韓国の私立大トップの延世大学に7人合格するなど海外大にも多くの合格者を輩出したが、世界大学ランキング上位校への合格はまだ少なかった。パリ在住の国際高OBは「いま、国際機関に勤めていますが、日本の大学の教育ではなかなか太刀打ちできません。私の時にIBコースがあればよかったのに」と話す。インターナショナル校に通う男子生徒は「東大より欧米の有名大学に通わないと、豊かな人生を送れないと親から言われた」と話す。

 国際高IBコースの19人はどんな成果を出すのか。日本のグローバルリーダー人材教育はまだ始まったばかりだ。
(代慶達也)[NIKKEI STYLE 2017年9月10日付]

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