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[ liberal arts-大学生の常識 ]

簡潔にわかりやすく書くコツ(6)文章を書いたら次は編集者になろう

沼田憲男 authored by 沼田憲男沼田事務所代表取締役
簡潔にわかりやすく書くコツ(6) 文章を書いたら次は編集者になろう
撮影協力・清泉女子大学

 書き方の要領を覚え、文章をいくつか書き上げたら、今度は編集者の立場になって自分の文章に向き合おう。

 編集者というのは記者や作家の書いた文章を新聞、本という商品に仕上げる人達だ。文章の良し悪しの目利きをする。書き手にとっては怖い存在だ。どのようなレイアウトにしたら読みやすいのか、どのようにしたら理解しやすくなるのか、さらに、どのようにしたら読者の注意を引き付けることができるのかに知恵を絞る。

 新聞や本は有料である。「言葉の魔力」を最大限引き出し、単に注目させるだけではなく、買う気にさせなくてはならない。立ち読みで終わられては意味がない。買ってもらった金額、売り上げで仕事の良し悪しが評価される。厳しい世界だ。だから真剣に作る。

 あなた方の多くは編集者になるわけではない。関心がないかもしれない。が、騙されたと思って一度、自分の原稿を編集者になったつもりで見直し、編集してみるといい。文章の上達に必ず役に立つ。

 例えば、随筆でも、小論文でも、旅行記でも何でもよい。ちょっとした、まとまった文章を書いたら、それを紙に印刷するのだ。原稿用紙やノートに手書きしたものなら、それをパソコン入力して印刷する。

 文章の固まりが印刷されてくる。人目を引くとは思えない。

見出しを付ける練習をしよう

 そこで、新聞や本がしているように冒頭に「主見だし」を付けてみる。書いた文章で他人に伝えたいことを、短い言葉に凝縮するのである。前回、車内広告に学ぼうと書いたが、この広告のキャッチコピーを思い出し、アタマを柔らかくして思案するのだ。

 次は、内容が転換する段落の前あたりに小見出しを一行挿入する。次の段落で言おうとしていることを、これまた短い言葉にするのだ。文章の量にもよるが、話が変わるたびにこの小見出しを付ける。練習だ。この段階で全体の雰囲気がガラリと変わる。

 さらに雰囲気を変えよう。読みやすく、わかりやすくするために段落を増やす。これはあくまで私個人の感想だが、1センテンスが長く、段落が少ない文書を作る人が多い。これは読みにくい。段落の冒頭は1文字空けを徹底させよう。

 この一連の手直しをし終えたところで、もう一度、紙に印刷して、最初のものと比較するのだ。両方を比べられるようにテーブルの上に置けば、直したものの方が格段に見やすく読みやすいと気づくはずだ。

 これは、ごくごく初歩的な編集だが、自分の書いた文章で4,5回実践する。

 この経験をしたところで、次に文章を書くときは、アタマの中にあるいろいろな情報、知識を引っ張り出しながら、何を伝えたいのだと考え、それを凝縮した見出しを作ることから始めるのだ。広告をまた思い出し、伝えたいメッセージを短い言葉にするのだ。

 これが上手くまとまると、書くべきことの焦点が絞れる。絞れると不必要な情報が、アタマから消える。アタマがすっきりする。

 あとは伝えたいことをどのような順番で説明するかを考えるだけのことだ。下準備として、メモや箇条書きができていれば、それを順番にはめ込んで、並び替えればいいだけになる。

 このコツがわかることが編集経験から得られる利点だ。習慣になるとしめたものだ。

学ぶべきことは無尽蔵

 もう一つ。文章全体の構成の作り方が上手くなる。編集者はいろいろな話、情報をどう見せるか、読ませるかをいつも考えている。情報の整理の仕方の工夫をいつもしている。当然、文章の構成にも神経を使っている。

 「この話は、冒頭で主な骨子を簡単に要約し、あとは骨子ごとに詳細に説明してまとめればいい」と編集者が決めたら、指示を受けた筆者はそれに沿って書けばいい。

 また、「この欄は物語風に読ませたらいいので起承転結の流れの文章がいいのではないか」となれば筆者はこの構成に沿って書くだけだ。だから下準備の段階で構成を決めてしまい、その上で書けば楽ということもわかる。

 最後に余白の話。今はデジタル媒体抜きには世の中回らない。このコラムもデジタル媒体に載っている。あなたが今見ているパソコン画面の私の記事は目に優しいと思いませんか。読みやすく、見やすいはずだ。贅沢なくらい余白をとっているからだ。編集の知恵だ。

 実は、広告、本の世界では余白の使い方を非常に重視している。文字を浮き上がらせ読む者、見る者に強烈な印象を与える。アナログもデジタルもない。共通のテクニックだ。ともすると、何も考えずにぎっしり文字の詰まった文章を流すのがデジタル媒体の世界のようだが、余白の知恵を使わぬ手はない。

 車内の広告も新聞も本もデジタルコラムも文章を書く人間が一人で作っているのではない。その裏ではたくさんの編集者たちが言葉、文章を相手に真剣勝負をしている。我々はその総合的な成果物を目にしているのだ。たくさん見て読もう。

 学ぶべき知恵は無尽蔵にある。

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