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[ career-働き方 ]

40年ぶりに企業がやってきた
大分の離島にITブーム

40年ぶりに企業がやってきた大分の離島にITブーム

 大分県の離島がちょっとしたIT(情報技術)ブームに沸いている。人口2000人足らずの姫島村に東京のIT企業が進出を表明。約40年ぶりの企業進出で、村で整備した高速のインターネット通信網などが評価された。地域活性化に向けた離島の取り組みは成功するか――。

夜には天の川

 大分県国東市の伊美港からフェリーに乗ること約20分、海の青が一段と濃くなった場所に姫島はある。渡り鳥のように長距離を移動するチョウ「アサギマダラ」が飛来する場所として知られ、夜になれば美しい天の川を仰ぐことができる。

 クルマエビの養殖と観光が主な産業の自然豊かなこの島に、システム開発のブレーンネット(東京・千代田、今井智康社長)とネット通販用アプリケーション開発のRuby開発(東京・中央、芦田秀之社長)が7月、進出を決めた。

 「離島に先進的なIT企業が来てくれた。みんなビックリ仰天」。過疎の島を束ねる藤本昭夫村長の感想は率直だった。大分県のまとめによると、1990年に3268人だった島の人口は7月1日現在で1900人。2040年には1094人まで減るとの推計もある。

姫島の主産業はクルマエビの養殖だ

 高齢化率は昨年で46.3%に達し、この10年で10ポイント以上上昇した。姫島には高校がなく、進学のため島外に出ると、働き口も少ない故郷にはなかなか戻ってこないのだ。

 ただ、この島が東京のIT企業にとっては、逆に魅力的に映った。今井社長は「生活するならこんな環境」と言い切る。「東京での人材確保は難しくなっているが、ワークライフバランスが取れた姫島での働き方を訴えることで、我が社の魅力としたい」

 芦田社長も「都会で事務所を持つコストは高すぎる。島では給料を高くし、働く時間を短くすることも検討している。自然に恵まれた島だから仕事の能率もあがるはず」と語る。伸び盛りのIT企業は人手不足に悩む上に、「人材の引き抜きもあるのが実情」と芦田社長。

 自然に恵まれた職住接近の島を前面に押し出して社員を募集したところ、人の多い都会とは違う場所で働きたいという30歳代の技術者から応募があったという。「彼は1部上場企業をやめて当社を選んだ。鳥の声が聞こえ、山もビーチもあるという離島の環境を求める人は、確実にいる」と芦田社長は語る。

通信網が完備

 姫島が選ばれた最大の理由は、ケーブルテレビを活用した高速のインターネット通信網が完備していたこと。クラウドにアクセスできる環境さえあれば、「東京だろうが姫島だろうが場所は問わない。日本のどこでも同じ仕事ができるのがソフト開発企業の特長」と両社長は口をそろえる。両社とも今年度中に九州からを中心に3人を雇用し、ブレーンネットは5年後に10人に、Ruby開発は15人に採用数を拡大する計画だ。

 一方、「離島ではあるが、都会とほどよい距離にあるのが姫島の良さ」とはブレーンネットの創業者、武田喜一郎相談役の指摘だ。

 離島ではあるが、大分空港から約1時間と、ほど良い距離であることも誘致に成功した一因になっている。

 姫島発の伊美港(国東市)行きのフェリーは午前6時前から午後7時すぎまで1日12便ある。「全国に離島は多いが、これだけのフェリーの本数があるのはそれほど多くない」と武田相談役。大分市中心部までは2時間あまりで着くことができ、映画館や美術館、コンサート会場が遠くなりすぎない。都会に住み慣れた人にとって"ほどよい田舎"なのも魅力のひとつだ。

IT企業の進出は小学校の旧理科棟を活用する

 離島に突然吹いた"ITの追い風"。姫島村は大分県と連携し、IT企業誘致を振興策の柱に据える考えだ。サテライトオフィスとして小学校の旧理科棟を5100万円かけてリノベーションするほか、村役場まで通じている光ファイバー網を旧理科棟に延伸。さらなる高速ネットワークを年内に整備する。進出企業の従業員と地域住民が交流できるカフェの整備も計画する。「ITの島」として売り出すために、観光客らも使えるWi―Fiスポットを整備し、交流サイト(SNS)を通じた情報発信による観光振興も視野に入れる。

 また、コワーキングスペース(共用オフィス)を整えて、進出を検討する企業を一定期間"お試し"で受け入れる計画もある。大学生らがインターンシップ(就業体験)を行う場合は、交通宿泊費の半分を負担する大分県の制度を活用、利用者の負担を軽くする。

 もっとも、IT企業やデザイン会社の進出が相次いだ徳島県神山町のように、企業誘致が今後も拡大するかは未知数だ。藤本村長は「大事なのは、姫島で生活してもらうこと」とした上で「一時期でも、ここに来て良かったと思ってくれれば十分。結局はそれが島のPRになる」と話す。
(大分支局長 奈良部光則)[日経電子版2017年8月31日付]

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