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[ skill up-自己成長 ]

トビタった!私たち(5)リーズ大学で社会学(上)
学んだ知識を児童施設で実践

authored by トビタテ!留学JAPAN
トビタった!私たち(5) リーズ大学で社会学(上)学んだ知識を児童施設で実践

 同志社大学4年生の岩井凌太(いわい・りょうた)と申します。専攻はスポーツ健康科学ですが、人の価値観の形成過程について学びたいという思いから、交換留学先である英国のリーズ大学では社会学を専攻していました。

焦りから出てきた「留学」という選択肢

大学内にはリスがたくさんいます。この時は、たまたまカメラを見てくれる奇跡が起こりました

 まずは、なぜ私が留学しようと思ったかについて少しお話しします。一番大きなきっかけは、体育会サッカー部に所属していた1年生の夏に大怪我をしたことです。当時、大学でサッカーばかりやっていて自分は社会へ出て通用するのだろうかという漠然とした焦りを抱いていました。

 数カ月悩んだ末、部活を辞めることを決断し、社会的に評価されるだろうと思っていた留学に行くことを決めました。後にコーチとして部活に戻らせて頂く機会があり、そこで同級生の人間的成長を目の当たりにした時には、人間の育成における体育会の可能性の大きさも実感しました。

前期のディスカッションはお客さん状態

 留学先のリーズ大学では社会学(とビジネスを少し)を学びました。前期は訛りの強いヨークシャー地方(リーズもその一部)出身者の英語をほとんど聞き取れず、さらにイギリスでもレベルが高いことで知られているリーズ大生の意見を構築するスピードやディスカッションの展開の速さに圧倒されてしまいました。

 加えて、社会学の難しい概念を英語で理解することにも、かなりの時間と労力を要しました。隙間時間にレクチャーやセミナーの録音を繰り返し聞き、1日の大半を図書館で過ごしてもなお、前期はディスカッションやグループワークで他のメンバーについて行くのが精一杯でした。実際のところ、質問されなければ一言も発しないただのお客さんのようになっていたと思います。

「Chineseとなんか話したくない!」

 大学の授業の他にボランティア活動をしていました。リーズの移民地区で多発する未成年の犯罪を未然に防ぐ目的で、地元警察が運営している「子供の遊び場」をコンセプトにした施設でのボランティアです。その地区にはおそらく私以外黄色人種の出入りがなく、そのためか子供達や一部のボランティアから強く警戒され、無視や陰口、雑務以外の業務をやらせてもらえないなど、人種差別まがいの扱いを受けました。

リーズ大学のランドマークParkinson Buildingリーズ大生が待ち合わせをするならまずここが候補になります

 例えば、施設のルールを破った子供を注意しに行った際に「Chineseとなんか話したくない。他のボランティアとだったら話してやるから他のやつ連れて来い!」と言われたことさえありました。コミュニティデザインを実践的に学びつつ、自分が持っている知識や経験を業務に活かしてコミュニティの発展に貢献したいと考えていた私にとって、とてもショッキングな状況でした。

聞くと同時に自分の意見を構築

 ディスカッションでより貢献できるようになりたいと考え、前述したように授業の録音を聞き始めた時にいつも意識していたことがありました。それは、録音を聞いてその内容を理解すると同時に、自分の意見をすばやく構築することです。その結果、後期のディスカッションでは現地学生と同等の発言量とまではいかなくても、自分の意見を構築し、発言できるようになっていました。

 ボランティア活動でも努力を続けました。コミュニティデザインを学び、業務で成果を残すといった目的のためには、施設で受け入れもらわなければなりません。そのため、任せてもらえる雑用から積極的かつ意欲的に取り組み、「私はここにいたいんだ!」という姿勢をアピールし続けました。その結果、その行動を始めて3カ月ほど経った頃には、子供達を含め多くの人達がコミュニケーションをとってくれるようになりました。

 任される業務の幅も次第に広がり、遊びプログラムの作成・運営で結果を残してからボランティアの一人として信頼されているという感覚を持てるようになりました。それからは、施設の運営や新人ボランティアの研修に携わらせて頂くなど、ボランティアを始める前に思い描いていた自分像に少しずつ近づいて行けました。これらの経験を通して、現状から自分なりの仮説と課題を設定し、それを解決するためのストーリーを考えながら一生懸命頑張ることの大切さに気づけたと感じています。

ボランティア先の施設 ボランティア達が主体となって建て、放課後に子供達が集まる遊び場としてしっかり機能していました

価値観のすり合わせと、信頼の勝ち取り方

 課題意識を持って頑張ることの大切さに加え、リーズ大学での勉学からは社会学的観点から見た「人の価値観の形成過程」、ボランティア活動からは実践的な活動の場で「周囲の信頼を獲得するために必要な過程(仮説)」をそれぞれ学べたと感じています。

 勉学では、人の価値観は育った環境や今いる環境(家族や学校、職場など、その人が関わるコミュニティ)の影響を強く受けて形成され、価値観が違えば一つの事象に対する解釈や同じ問題に対する正解も異なることがあるという考え方を知りました。これは、言われてみれば当たり前のような気がすることを学問的にインプットでき、それを強烈に意識できるようになったことが大きな学びであったと感じています。

大学でできた友人達(Halloween party)遊ぶ時はしっかり遊んで英気を養います

 この学びを活用して、ボランティア活動でも相手の生育環境や現在の関わり合いの中から相手の価値観を予測し、自分の知識や価値観とすり合わせるための対話を繰り返し、そうしてたどり着いた結論をコミュニティデザインの実践に反映させました。コミュニティの構成員の需要を満たすと共に、子供達にも自身がコミュニティデザインに関わっているという意識づけを行い、コミュニティを活性化できたと感じています。

 一方ボランティア活動から得た学びは、コミュニティ内で信頼を勝ち取る過程についての仮説を得られたことでした。それは、ファーストステップでコミュニティにいたいという意欲を示してそのコミュニティに受け入れてもらい、セカンドステップで結果を残して信頼を勝ち取るというものです。もちろん例外やコミュニティの特徴による違いが多々あることは承知していますが、それでもこの仮説はこれから自分の大事な指標になって行くと感じています。

プロフィール
岩井凌太(いわい・りょうた) 1995年生まれ、東京都立三鷹高校卒、同志社大学スポーツ健康科学部に所属し、スポーツの身体性を用いたソーシャルキャピタルの醸成について研究。現在は大阪府の四條畷市で日本史上初と言われる市役所での長期インターンシップ生として市政改革に携わっている。身体を動かすのと、自然に囲まれた場所でゆっくりするのが趣味。