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[ skill up-自己成長 ]

池上彰の大岡山通信 若者たちへ社会に出る君たちへ(下)
人生にムダな時間はない

池上彰 authored by 池上彰東京工業大学特命教授
池上彰の大岡山通信 若者たちへ 社会に出る君たちへ(下)人生にムダな時間はない
東京工業大学での講義

 多くの学生たちが企業から正式に内定を取り始め、ひと安心していることでしょう。半年後の社会人生活に思いを巡らしているのではないでしょうか。今回も前回に続いて、私自身の体験をもとに、若者たちへのアドバイスを贈ります。

◇   ◇   ◇

 私はNHK(日本放送協会)での記者時代、新人として配属された島根県や広島県での地方勤務を経て、東京の社会部へ異動しました。日ごろの取材は警察署やその関係者が圧倒的に多かったのです。

 一日の生活を眺めてみると、記者会見を待つ合間や警察関係者の帰宅を待っている間など、意外に自由に使える「隙間」の時間があることに気付くようになりました。

 そんなとき、暇つぶしを兼ねて心がけていたのが読書や英会話の学習です。といっても、ポケットにも入るような文庫本や新書、英会話のテキストを選んでいたように覚えています。

 それぞれの隙間の時間自体は短いのですが、積み重ねれば日に1~2時間を確保することもできました。いま、海外取材で英語を使ってコミュニケーションできるのも、コツコツと学び直していたことが生きています。

 そこで皆さんに伝えたいことは、「人生にムダな時間などありません」というアドバイスです。それぞれ働く世界は違っても、1日24時間という条件の下で生きているのは皆同じでしょう。

 通勤時の車内で読書をしたり、英会話を学んだりするのもいいでしょう。近所のスーパーの売り場や百貨店など店頭の売れ筋商品にビジネスのヒントがあるかもしれません。一日のうちで何気なく過ごしてしまいそうな時間や、見慣れた風景の中にも、新たな発見や気付きがあるはずです。

 その際、皆さんに大切にしてほしいことは、常にアンテナを張り、感度を高めていく工夫ではないでしょうか。得意不得意ではなく、関心のあるテーマを広げ、引き出しを増やしていくことです。漫然とスマートフォンの画面を眺めているなんて、時間がもったいないじゃないですか。

◇   ◇   ◇

 それと最近、新聞やテレビのニュースを見ていると、「働き方改革」というキーワードに接することが多くなったと思いませんか。もちろん、長い人生のうち、がむしゃらに働き続けることも大事な経験です。その一方で、働き方を工夫して時間の余裕をつくり、スキルや教養を磨く時間にあてることも仕事に大いに役立つことでしょう。

 私たちが働き始めた時代に比べれば、自己投資は現代の若手ビジネスパーソンの方が積極的だと思います。皆さんの就職先でも、社員の長時間労働を見直し、「働き方改革」に率先して取り組んでいる会社も多いはず。

 いまや「人生100年時代」といわれます。これからの長い人生では、答えのない悩みに出くわすこともあるでしょう。答えを考え抜き、時には真摯にアドバイスにも耳を傾けながら、道を切り開くことが大切です。

 くじけそうになったら、「初心」を思い起こしてください。時には自ら歩みを止め、進路を選び直す勇気が求められるかもしれませんね。道を改めたとしても、決して弱気なことではありません。前に進んでいるのです。自分自身の人生だからこそ、自ら次の一歩を選んでほしいのです。

 皆さんの健闘を祈ります。

※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。
[日本経済新聞朝刊2017年10月16日付、「18歳プラス」面から転載]