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トビタった!私たち(4)伝統工芸×北欧デザイン(下)
留学で得た知識を秋田杉に注入

authored by トビタテ!留学JAPAN
トビタった!私たち(4) 伝統工芸×北欧デザイン(下)留学で得た知識を秋田杉に注入

 前回は伝統工芸に興味を持ち、留学を決意したきっかけをご紹介させていただきました。今回は、留学先での活動とトビタテコミュニティーの魅力についてご紹介させていただきます。

アポ取れないなら飛び込みで

パリでのテストマーケティングで商品を手に取る様子

 トビタテ生としてスウェーデンに降り立ち、留学生活をスタートさせました。リンショーピン大学でマーケティングの講義を受けながらインタビュー活動をするつもりでしたが、慣れない環境で講義を受けながら実践活動をするのは簡単ではありませんでした。最初の実践活動は留学開始から1カ月後のことでした。

 フランス・パリで日本酒と工芸品をアピールするテストマーケティングに参加しました。実家で作っている工芸品を実際に手に取っていただき、様々なご意見、価値観を得ることができました。ここで得たものは、外国においてどのような商品が受け入れられるかということに留まりません。外国人の方からすれば「伝統工芸って何? 秋田杉って何?」と、日本人であればイメージできることもわからないため、工芸品そのものの商品力を測ることができました。

 その後、スウェーデンでのインタビューに取り組もうとしましたが、これも一筋縄ではいきませんでした。インタビューするにあたってアポ取りをしなくてはいけませんが、メールや電話で相手にしていただけた件数はゼロ。英語も流暢に話せない得体のしれない日本人がいきなりインタビューさせてくれと言ってきても門前払いです。正直へこみましたし、初っ端からモチベーションも下がってしまいました。しかし、足を動かさなければ何も得られずに終わってしまうと思ったので、飛び込みでお話を聞かせてもらうことにしました。実際にお会いしてお話をさせていただくと快くインタビューに答えていただき、充実した調査をすることができました。

スウェーデンの針金細工職人

伝統工芸×北欧デザイン

 伝統工芸と共通点の多い北欧デザインを肌で感じて気付いた違いは「調和と主張」のバランスです。北欧デザインは様々な生活様式と調和しながら、色やフォルムによって存在感を放ちます。機能性を持たせながらもユーザーの利用シーンを入念に検討し、遊び心のあるデザインで明るい空間を演出するのが特徴だと感じました。

 昨今ではデザイン家電に見られるように、プロダクト一つひとつの存在感が目立ちます。そのなかでも埋もれてしまわない伝統工芸品を作りたいと思い、人生初のデザインに取り組みました。デザインするにあたって意識した点は3つです。1つ目は「秋田杉の美しさを引き出す」。数の減少により、平成25年度より天然秋田杉の伐採が禁止されている現在、天然秋田杉には木目の細やかさなどで劣る秋田杉の使用が強いられている状況を乗り越えることを意識しました。2つ目は「桶樽工法を理解してもらう」。木を継ぎ合わせる桶樽工法を目で見て理解できる商品を目指しました。3つ目は「主張」。北欧デザインの特徴である「光」を利用して秋田杉桶樽の存在感を強調することを意識しました。スウェーデンから何件もデザイン案を送り、実家の職人さんに協力して頂いて試作を繰り返し、商品化と第37回秋田県特産品開発コンクールにて奨励賞を受賞することができました。

 桶樽工法では本来、木目が垂直になるように継ぎ合わせますが、完成した「乙シリーズ」(酒器)は木目が斜めになるように木材を裁断することで継ぎ目が見え、桶樽工法が木を継ぎ合わせる技法であることが理解していただけると思います。そして、乙シリーズの今までになかった特徴は木目の色の濃さが光の当たる角度で変わるという遊び心を秋田杉の木目の美しさで表現した点です。

乙シリーズ

トビタテコミュニティー

 トビタテ生として伝統工芸をテーマに留学をしてきたことで素敵なご縁もありました。先日、イタリアでスローフードと建築を学び、第3回留学成果報告会で優良賞を受賞した正田智樹さんとともに、輪島塗をパリから世界へ発信し、最優秀賞を受賞した桐本滉平さんの地元、石川県輪島市を訪れました。輪島では正田さんの「食」をテーマにしたフィールドワークに同行させていただいたり、桐本さんのご実家の工房「輪島キリモト」を見学させていただいたりしました。様々な分野で活躍する学生と交流できるトビタテコミュニティーは学際的な気付きや新しいアイデアを与えてくれます。

輪島キリモト工房にて 左から正田さん、桐本さん、柳谷

まず自ら動く

 一連の活動、留学を通して「まず自ら動く」ということの大切さを実感しました。今の原動力となっているショックも初めて行ったフィールドワークで得たものであり、自分の目と耳で感じることは足を動かすことから始まります。そして、自ら動き出せば、周りが変わってくるということも感じました。

 私の場合は家族が変わりました。留学前、後を継ぐはずだった叔父がなくなり、祖父も年を取り、工房の経営は火の車。工房の存亡は私の両親の判断に委ねられました。両親は一切工房に関与したことがなく、廃業させるつもりでした。しかし、私が伝統工芸に対して課題意識を持ち、留学を決意したことで、父は秋田に身を置き工房を手伝い、母は自分の仕事に加え地方営業、兄は直販サイトの立ち上げなど、家族・職人一丸となって170年の歴史・技術を絶やさないよう頑張っています。

最後に

 私はまだ何も成し遂げてはいませんが、留学を軸にたくさんの貴重な経験をさせていただきました。最初のフィールドワークのきっかけを与えてくださった埼玉大学の遠藤先生やGlobal Talent Programの学生、インタビューに協力してくださった国内外の職人の皆様、たくさんの出会いと刺激を与えてくださったトビタテ生、事務局、支援企業の皆様、そして家族に感謝しております。自ら動き出すことはできても、周りの方々の協力なくしてはできなかった経験、得られなかった自信です。今後は、実家への貢献と伝統工芸が持つ歴史的背景や物語をパッケージ化して伝えていきたいと考えています。

プロフィール
柳谷直治(やなぎや・なおはる) 埼玉大学経済学部3年経営イノベーションメジャー Global Talent Program 2期生。トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム5期生として、「スウェーデンから学ぶ、日本伝統工芸の再興術」をテーマに、スウェーデン・リンショーピン大学にて10カ月の交換留学(2016年8月~2017年6月)。秋田杉桶樽の工法を活用した「冷酒杯 乙」をデザインし、第37回秋田県特産品開発コンクールにて奨励賞を受賞。