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[ liberal arts-大学生の常識 ]

学生のための実践マーケティング(3)消費者の声を収集・分析
データ用い商品企画に説得力を

髙橋広行 authored by 髙橋広行同志社大学准教授
学生のための実践マーケティング(3) 消費者の声を収集・分析データ用い商品企画に説得力を

 前回は、商品企画において、アイデアを温め、育成する方法やそのためのセンスの磨き方、議論を重ねることの大切さについて触れてきました。今回は、商品企画提案におけるデータの重要性について、紹介していきます。

ランチ事情については、街頭調査でデータを収集した

 新商品やサービス改善の企画提案を組み立てていく中で、発想がユニークで面白い提案であっても、あるいは、企画提案の流れが一貫しており、わかりやすい内容であっても、「より説得力のある提案」にするためには、データや調査(リサーチ)が欠かせません。企画に必要なデータを集め、それを活用することで提案内容の説得力を高めることができます。提案したい内容の裏付けをとるという言い方でも良いでしょう。そこで大事なのは、どのようなデータを集め、どのようにデータを活用するのか、という点です。私のゼミでは、ひとつの企画に対して、多いときには、3回データを収集したり、調査を行なったりします。

 では、どのような目的の時に、データ収集や調査を実施すると思いますか?

 主にデータを必要とするシーンとしては、①現状の把握、②企画提案が消費者にどの程度、受容されるか(受容性)の確認、③企画を実施した後の評価・改善のため、などです。
(実際の商品開発のステップでも同様に、市場把握、企画コンセプトの受容性、上市後の評価・改善が主なデータの活用シーンです。)

説得力のあるデータの使い方

商品企画の発表風景

 株式会社トリドール様のうどん店チェーン『丸亀製麺』とのコラボを例にしながら説明してみます。この提案では、海外からの観光客が増えていたので、その層を取り込む、いわゆる「インバウンド対策」や、お店近くのオフィスで働く女性(OL)の方々に向けた「テイクアウト商品」企画を盛り込んでいました。そこで、①現状の把握のために、ゼミ生たちは、街に出て、フリップボードを使いながら、海外からの観光客に対し、街頭調査を行いました。当時、インバウンドに関する書籍がたくさん刊行され、データもインターネット上に存在していましたが、「京都市内に来ている外国人観光客が、ランチ時に何を重視しているのか」という点を調べたデータは存在していませんでした。そこで、ゼミ生は、京都に観光に来ている外国人や『丸亀製麺』のお店の近くを歩いている外国人に対して、彼らがランチをする際に「どのような情報を重視しており」「何を食べたのか」「それはなぜか」といった実態を調査しました。また、テイクアウト企画のために、京都市内のオフォス街で働く女性の方々のランチ事情についても調査しました。こういった実態データは、自らの企画提案を進めるためのヒントや裏付けに使いました。

 さらに企画を進めていく中で、提案する内容がどの程度、消費者に受容されるのか、という点についてもアンケート調査を行いました(先どの②企画提案の受容性です)。例えば、「○○」というメニューに対して「買いたいと思いますか?」という質問の回答を得ることで、提案内容の売上の予測ができます。と同時に、企画の説得力につながります。

 より具体的な提案にするために、ゼミ生たちは、実際の丸亀製麺のお店の来店時間別の客数や単価などのデータを使いながら、テイクアウト商品を導入することで売り上げが何割増えるか、という売り上げ予測まで提案しました。ここまで具体的な売り上げ予測が示されれば、提案される企業側としても、この企画に投資しても良いかどうかの判断材料になります。これがデータの持つ説得力です。

改善(カイゼン)につなげるデータの活用

 最後は、③企画を実施した後の評価・改善のためのデータです。企画した商品を、実際に世の中に送り出してからのデータ収集・調査です。これは、実際に利用した方や購入してくれた方から集めるデータで、一般的には、商品評価やサービス満足度に関する調査のことです。改善につなげるためのデータといえましょう。

 丸亀製麺とのコラボで、実際にメニュー化してくださった「豚しゃぶの西京みそだれうどん」は期間限定での商品でしたが、その商品を実際に注文してくださったお客様に「QRコード」で読み取る調査を実施しました。QRコードでインターネット上の質問票にアクセスしてもらい、商品(メニュー)の美味しさや良い点、改善点について確認させていただきました。

 調査は、基本的に学生たちが主体的に行いますが、どのように質問するのか、何を聞くのかといったデータの取り方や聞き方にも配慮が必要です。最近、インターネットやスマートフォンが発達してきたことで、簡単に調査票を作ることができるようになってきました。googleなどを利用すれば、調査だけでなく、データの集計も自動的に行ってくれます。

 いずれAI(人工知能)がさらに発達すれば、データ収集から分析まで、全てAIがやってくれる日も来るでしょう。

 データ収集と分析にかける時間が短縮されるほど、「何を質問するのか」という点をしっかり考える必要性が高まるでしょう。特に、質問そのものが「仮説」であるため、なぜそのデータが必要なのか、という点まで考えた上でデータを収集して欲しいと思っています。

仮説を持ってデータを集める

 私は、以前、マーケティング・リサーチ会社で働いていましたので、調査設計やデータ分析は好きですが、高度なデータ分析(多変量解析)をゼミ生に強いることはしません。なぜなら、良い企画提案のために最も重要な点は、第一回目と第二回目の記事で書いたように「お預かりした課題に対して、自分ごととして考え、その課題にどれだけ肉薄できる提案ができるのか」という点を大切にしているためです。そのためには、自らのユニークな発想やアイデアを大切にしながら、そのアイデアを育成し、企画提案のロジックを組み立てることをより大切にしています。データの活用や分析はその「補完」で良いと考えています。集めてきたデータとは現状、自らが持っている仮説以上のものはありませんし、出てきません。そのため、データとはあくまでも現状を把握したり、自らの企画のヒントや裏付けに利用したりする「手段」であり、「目的」にはなりません。

 また、よくあるのが、たくさんデータを取ったから、良い企画になるという勘違いです。たくさんの質問を用意して、データを収集し、細かく分析しても、良い企画にはならないということです。コンピューターサイエンスの分野やデータマイニングの分野でよく言われる「Garbage in, garbage out.(ゴミのデータからは、ゴミの結果しか出てこない)」という点は、マーケティングの分野でも同じです。仮説を持ってデータを集めるという点が重要です。

 もし、自らデータを収集する時間が足りない場合、官公庁が発行している白書や、リサーチ会社がオープンにしているデータで代用しても構いません。ただし、こういったデータは他の方が、他の目的で取ったデータです(これを「2次データ」といいます)。そのため、自らの課題に対して完全にフィットしないことが多いため注意が必要です。最初にアイデアを広げ、アイデアをコンセプト(※1)にブラッシュアップしていく中で、裏付けや提案の説得力を高めたりするために、こういった2次データを活用するのが正しい使い方です。アイデアもなく、単に2次データを寄せ集めたものから無理やり「こじつけて」提案しているケースは発表を聞いていて、辛くなるので、やめて欲しいと思います。

 ここまでの要点を整理します。商品企画提案におけるデータ収集や調査(リサーチ)の主な役割は、①現状の把握、②市場に送り出す前の受容性の確認、③企画を実際した後の評価や改善のために用いる場合です。あくまでも、企画の説得力を高めるためや裏付け、改善のためのものです。データに頼りすぎない企画提案を心がけて欲しいと考えています。自らが積極的に考え抜く力とセンスこそが新しい市場を切り開きます。これは実務においても同様です。実務の現場と同じステップで体験できるこういった機会こそ、文系の学生にとって最も必要な学びの場:実学(実践マーケティング)であると私が主張する理由がここにあります。

丸亀製麺とのコラボではメニュー化した商品を期間限定で販売した

※1:一般的には、Who(だれに)・What(何を:どのような価値を)・How(どのように)という点を中心にしながら、具体的に提案に盛り込むことです。

髙橋広行 研究室ホームページ
http:// takahashi.sweet.coocan.jp /

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