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中東情勢どうなっている?
サウジ側とイラン側が対立

中東情勢どうなっている? サウジ側とイラン側が対立

 中東でいろいろと動きが出ているようだけど、あまり身近な地域ではないこともあり、よくわからないわ。今の中東情勢は一体、どうなっているのかな。そもそも、混乱の原因は何なの。

 中東情勢について、松尾博文編集委員に話を聞いた。

――中東情勢は今、どうなっているのですか。

アラブ諸国は2017年6月、カタールとの国交断絶に踏み切った(カタールの首都ドーハの高層ビル群)

 「サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などアラブ諸国が2017年6月、同じアラブの国であるカタールとの国交を断絶しました。サウジは世界有数の原油埋蔵量を誇ります。一方、カタールは世界最大の液化天然ガス(LNG)の生産国です。世界のエネルギー供給を考えれば憂慮すべき事態です」

 「中東は混乱が続いています。シリアの内戦は7年目に入りました。アサド政権と反体制派の戦いに加え、クルド人勢力や過激派組織『イスラム国』(IS)など様々な勢力が入り乱れて争っています。イランやレバノンがアサド政権を、サウジを中心にトルコやUAEなどが反体制派を後押ししています。さらに米国は反体制派、ロシアはアサド政権をそれぞれ支援するなど、中東全体が2つの陣営に分かれて対立しています」

――対立の大本には何があるのですか。

 「一つの要因は宗教や民族です。イスラム教にはスンニ派とシーア派という二大勢力があります。スンニ派の親分がサウジ、シーア派のボスがイランです。両国は昔から仲が悪く、地域の主導権をめぐって対立してきました。それぞれの宗派が多数派を占める国に大きな影響力を持っています。シリア内戦は両勢力の代理戦争のようなものです」

 「カタールはスンニ派の国ですが、イランとも友好関係を築いていました。シリア内戦という中東を二分する戦いが起きているなか、サウジなどが敵対するイランとの関係を問題視したのが今回、断交に至った理由の一つです」

 「また、2011年にエジプトのムバラク政権が『アラブの春』という民主化運動で倒れ、イスラム原理主義を掲げる『ムスリム同胞団』が選挙で第1党となったことがありました。サウジなど周辺国は民主化の波が自国に及ぶことを警戒しましたが、カタールはムスリム同胞団を公然と支持しました。さらにカタールの衛星テレビ局、アルジャズィーラは周辺国の政府に批判的な報道が多く、サウジは以前からカタールに警告を発していたのです」

――なぜ、ここまで混沌としてしまったのですか。

 「この地域は第2次世界大戦後、米国が強い影響力を行使してきました。しかし、01年以降、アフガニスタンやイラクに軍事介入を続けた結果、安全保障を肩代わりすることが重荷となり、13年に当時のオバマ大統領が『世界の警察官』から退く方針を出します。米国の抑止力が効かなくなった結果、サウジやイランは自らこの地域の紛争に介入していきました」

 「米国では今年、オバマ氏の方針を批判するトランプ氏が大統領に就任しました。ロシアのプーチン大統領と馬が合うといわれていたので、2人で協力して現在の混乱を解決できるのではないかとの期待がありました。しかし、トランプ氏は国内問題でトラブルを抱え、それどころではありません。中東で続く混乱は誰にも止められないのが現状です」

――中東の混乱は日本にどんな影響を与えますか。

 「日本は原油の8割以上、LNGの3割を中東から輸入しています。この地域の混乱は、原油やLNGを安定的に輸入できるかというエネルギー安全保障にかかわってきます。カタールからはLNGに加え、半導体の生産などに使われる工業用のヘリウムガスを輸入してます。LNGは今のところ滞っていませんが、ヘリウムは断交のため輸送ルートの変更を余儀なくされ、価格が上昇しています」

 「断交問題の解決に向けて安倍晋三首相が直接、関係国に電話したり、政府高官を中東に送ったりしています。日本は歴史的にサウジともイランともさらにカタールとも仲がいい。仲介へ日本が果たせる役割は大きいと思います」

ちょっとウンチク
国家の枠組み問い直す
 長期化するシリア内戦、過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭、サウジアラビアなどによるカタールとの断交。一見、ばらばらに見える中東で起きていることは、すべて根っこでつながっている。
 シリア内戦は事態収拾にあたるはずの周辺国や大国が当事者になり、国際社会の機能不全と統治の不在がISというモンスターを生んだ。サウジとカタールという兄弟国の断絶も、中東を二分する対立の延長線上にある。
 混迷が長引くほどシリアが元の姿に戻ることは難しくなる。シリアやイラクに分散して暮らすクルド人の独立に向けた動きも急だ。中東で今、起きているのは国家の枠組みを問い直す動きなのだ。

(編集委員 松尾博文)[日本経済新聞夕刊2017年9月4日付、NIKKEI STYLEから転載]

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