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慶応SFCの「ゆとり時間」
投資ファンドの糧に
時国司オービス・インベストメンツ社長
が語る(下)

慶応SFCの「ゆとり時間」 投資ファンドの糧に 時国司オービス・インベストメンツ社長が語る(下)

 <<前回「文武両道を模索し慶応SFCへ」から読む>>

 英系投資ファンド、オービス・インベストメンツ(東京都千代田区)の時国司社長(36)が語る母校、慶応義塾湘南藤沢中・高等部(SFC、神奈川県藤沢市)の思い出。サッカーで生まれ故郷台湾の代表になること、将来はビジネスで生計を立てること、この2つの夢をかなえるためにSFCに入った時国氏。高3の時ついに台湾代表になるチャンスが訪れた。ところが、事態は思わぬ展開に。

高3の時、台湾ユース代表に選ばれた。

オービス・インベストメンツの時国司社長

 高3の秋ごろ、翌年の春に開かれるFIFAワールドユース(現U-20ワールドカップ)アジア予選のメンバーを選抜するので、台湾に来てプレーを見せてくれれば検討するという連絡が来ました。千載一遇のチャンスと思い、すぐに台湾に飛んで試合形式の選抜試験を受け、代表候補40人に選ばれました。

 喜んだのもつかの間、大きな問題に直面しました。22人の代表に残るには、半年近く続く合宿に参加するのが条件でしたが、合宿に参加すれば、必然的に高校は休まなければなりません。先生に相談したら、期末試験の時だけ登校して試験を受ければ、あとは公欠扱いにできるのではと言われました。

 どの教科も、卒業までにやるべき内容はすでに終えていたので、私自身も、学校を休んでも問題はないと勝手に思っていました。実際、2学期後半から台湾に残り、学校には行きませんでした。

 ところが、その後、私の扱いをめぐって先生の間で議論が起き、一転、留年の可能性も出てきました。とりあえず一度学校に来るよう指示され、一時帰国。しかし、何としても代表に残りたかった私は、先生の前で、おそらく今までの人生の中で一番力を振り絞ってこう訴えました。「私は、勉学を追求しながらサッカーで台湾代表になる、という2つの目標を両立させるために、SFCに入りました。入試面接でもはっきり言いました。6年間努力してようやく代表に手が届こうとしているのに、諦めろというのですか。私は退学になってでも台湾に行きます」と。

 必死の願いが通じ、結局、学校側は最後の数カ月間を公欠扱いにしてくれました。

社会人になってからはフットサルでも活躍。香港勤務時代に所属していたクラブチームのユニホームは今も大切にとってある

 一方、サッカーのほうは、懸命のアピールで22人の中に残ることができ、子供のころからの夢だった台湾代表の舞台についに立ちました。しかも、キャプテンにも選ばれました。途中、想定外のことも起きましたが、こういう柔軟な対応が、受験勉強がないおかげで個々の人材育成により重心を置ける付属校のよさだと思います。

 余談ですが、アジア予選と重なったため、私はSFCの卒業式にも慶応大学の入学式にも出られませんでした。大学も最初の2、3週間は欠席。履修申告は、遠征先の中国四川省徳陽市から親にお願いして履修科目を記入してもらい、無事でした。

「ゆとりの時間」「自由研究」で個性が伸ばせた。

 SFCが売りにしている英語やITの授業以外にも、私がひそかにSFCの特徴だと思っている授業があります。「ゆとりの時間」と「自由研究」です。

 ゆとりの時間は、流行語にもなった「ゆとり教育」や「ゆとり世代」のことではなく、そのずっと以前からSFCで全学年を対象に行われてきた授業です。語学や数学、スポーツ、ディベート、模擬国連の準備などたくさんの選択肢の中から個人の興味や関心に合わせて履修する選択授業で、週1回、1年間続けます。成績はつきません。私は、フランス語や社会人経験のある先生が教える政治経済の授業をとりました。

 自由研究は、SFCでどれだけ考える力を身に付けることができたかを見る、いわば卒業論文。先生の個別指導を受けながら、1年間かけて、テーマを設定し仮説を立てリサーチし論文を書き上げます。テーマは完全に自由。「犬は本当に人間を癒やすのか」といったやわらかいものでも構いませんし、硬いテーマでもOK。

 私は、高1の時に大きなニュースになったアジア通貨危機を機に、ヘッジファンドに興味を持ち、「ヘッジファンドと短期金融市場に潜む危険性」というタイトルで論文を書きました。ヘッジファンドはある程度の規制が必要だという結論にしました。今の自分の立場を考えると何とも皮肉ですが、自由研究でヘッジファンドへの関心を深めたからこそ、自分は今この会社で働いているのだという気がします。

 ゆとりの時間も自由研究も、個性を育み伸ばすことを非常に大切にするSFCらしい授業で、私にとっては、とても印象深い授業でした。

5年前から母校で出前授業をしている。

 SFCから生徒にキャリア講座のようなものをやってほしいと声を掛けていただき、年1回だけですが、高校3年生を対象に話をしています。授業では、前半に投資銀行や投資ファンドの話をし、後半は、私がゴールドマン・サックス証券時代にかかわった企業再生の実例をケーススタディーにして、生徒の皆さんに議論してもらいます。ビジネススクールの授業に近いものです。

 最初はみんな恥ずかしがってあまり発言しませんが、途中からだんだん白熱してきて、最後のほうはかなり議論が盛り上がります。毎年やっていますが、年々、議論のレベルが上がっているように感じ、こちらも楽しみです。

 振り返ると、私にとってSFCでの最大の収穫は、6年間という時間を使ってその後の人生やキャリアの武器となる実績を作れたことでした。

 大学新卒で入ったゴールドマンにしても、その後に転職したベインキャピタルにしても、現在の会社にしても、世界規模で事業展開する外資系企業には、若い優秀な人材が世界中から集まってきます。みなそれなりの大学を出ているので、学校の成績がずば抜けて優秀なら別ですが、そうでない限り大学名だけでは自分を差別化できません。

 その差別化のカギとなるのが、学業以外に何か自分で目標を立て、それを達成した実績を持っていることだと私は思います。私の場合は結果的に、サッカーの台湾代表になったことでした。

 私以外にも、SFCの環境を生かして自分の武器を獲得した人は大勢います。実績作りは自分が頑張れば別にどんな学校でもできますが、受験勉強のない中高一貫付属校は、その分チャンスが大きい。それがまさにSFCの強みだと思います。
(ライター 猪瀬聖)[NIKKEI STYLE 2017年9月18日付]

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