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「物言う株主」の素顔は?

「物言う株主」の素顔は?

 米株式市場で「アクティビスト」(物言う株主)と呼ばれる投資家に注目が集まっています。ごく最近は資産運用会社トライアン・ファンド・マネジメントが米ゼネラル・エレクトリック(GE)に、役員の受け入れを認めさせました。同社はプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)にも同じような要求を出し、否決はされたものの、かなり広範の株主から支持を得たようです。日本とは異なり、米株式市場でアクティビストは主流の投資家です。トライアンを例にとり、日米の違いを検証してみます。

さえない企業を標的に

 どんな企業がアクティビストの標的になりやすいかと言えば、ずばり株価がさえない企業です。その点は日米に共通しています。GEもP&Gも有名企業ではありますが、最近の株価の推移は市場平均よりも見劣りしていました。

 日米の違いはアクティビストが投資対象とする企業の規模に表れています。GEとP&Gの時価総額はそれぞれ2000億ドル(22兆円)、2300億ドル(26兆円)。円換算した世界の時価総額ランキング(10月12日現在)でGEは38位と、日本企業では最上位のトヨタ自動車とほぼ同じ位置です。P&Gはさらに巨大で世界ランキングの28位に顔を出しています。

 日本の株式市場で「アクティビスト」や「物言う株主」というと、地味な中堅企業に投資するイメージがあります。米国はかなり異なり、アクティビストが自国を代表する世界的な大企業を標的にすることが増えてきました。トライアンはそうした潮流をよく示す投資家です。

米では経営戦略も提案

 企業への要求に目を向けてみましょう。GEとP&Gの例ではともに役員受け入れの要求が通ったかどうかに注目が集まりましたが、実際は役員の派遣後にとるべき事業計画も提案されています。トライアンは自社ウェブサイトで「REVITALIZE P&G TOGETHER」(力を合わせてP&Gを再び活気ある会社に)と題する資料を公開しています。P&Gがトライアン代表のネルソン・ペルツ氏を取締役会メンバーに加えるよう、一般株主への賛同を呼びかけるためにつくった提案書です。90ページを超える資料はP&Gの経営の弱点を分析したうえで、「組織のスリム化」や「生産性向上のための投資拡大」といった改善策が提案されています。

 ここでもまた、アクティビストの日米の差が分かります。日本の物言う株主は「自己資本利益率(ROE)の向上」や「配当・自社株買いの増加」など主に財務面の提案が多いのに対して、米アクティビストの要求は「組織づくり」や「投資戦略」など、マネジメントに関する分野にも踏み込むようになっています。

 トライアンを率いるネルソン・ペルツ氏は、もともと父親の経営する食品会社でビジネスの経験を積み、1980年代には中堅製缶企業をM&A(合併・買収)で大きくした上で転売するといった取引で頭角を現しました。さらに食品会社トライアーク・ビバレッジを再建し、同社を通じて競合のスナップルを買収。2000年にはスナップルを英キャドベリーに売却して利益を上げたのですが、この取引はハーバードビジネススクールの事例研究に取り上げられました。

遠ざけずに関係構築を

 ペルツ氏に限らず、米株式市場のアクティビストには、ビジネスや資産運用、企業分析の経験を積んだ人物が増えました。例えば2000年にバリューアクト・キャピタルを立ち上げたジェフリー・アッベン氏は大手資産運用会社のファンドマネジャーとして企業分析の知見を磨きました。もちろんカール・アイカーン氏のような威嚇的な雰囲気を漂わせる古株もいますが、90年半ば以降に設立されたファンドに限れば、むしろ少数派に属すると言ってよいでしょう。

 日本で「アクティビスト」や「物言う株主」というと、今でも村上ファンドの村上世彰氏を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。確かに、村上氏が口角泡を飛ばして要求を突きつける様子は強烈でした。

 しかし、時代は変わり、日本でも米国の洗練された主要アクティビストが上陸し始めています。ソニーの経営改革を求めたサード・ポイントや、日立グループに投資するエリオット・マネジメントなどは、いずれも米株式市場で主流を形成する巨大ファンドです。決して、変わり種ではありません。企業はアクティビストを遠ざけようとするのではなく、建設的な関係を築く努力が求められます。
(編集委員 小平龍四郎)[日経電子版2017年10月15日付]

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