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採用し過ぎ 苦肉の内幕
来春大卒の内定充足率96%

採用し過ぎ 苦肉の内幕来春大卒の内定充足率96%

 日本経済新聞社がまとめた2018年度採用状況調査で、主要企業の大卒採用の内定者数は17年春入社実績比で0.9%増と7年連続で増えた。「超売り手市場」と言われた割には、計画人数に対する内定者数の比率は96.9%と高い。経営戦略を前向きに変更したことや採用活動の成功といった要因もあるが、内定辞退を見越した苦肉の策という側面もある。

内定式にのぞむ学生(10月2日、写真は三井物産の内定者)

 今回の調査では初めて、計画数に対する内定者数の達成度を示す「充足率」ランキングを作成した。1位はディーラーの神奈川トヨタ自動車。2位は山崎製パン、3位は昭和シェル石油と東北銀行だった。

 学生優位の厳しい採用戦線にあって、充足率が100%を超えたランキング上位企業。その背景には、まず「経営戦略を反映した」面がある。

 2位の山崎製パンは計画210人に対し、内定数332人。充足率は158.1%だった。

 計画段階では暫定的に「前年と同水準」にしていたという。その後、28年ぶりとなる新工場稼働に伴う人員再配置の計画が固まったことで、製造や販売の各部門でより多くの人材を確保する必要が生じた。

 採用では会社説明会や合同セミナーへの参加を昨年よりも6~7割増やした。直接大学に出向く説明会なども実施。同社は「学生の理解を深め、認識を高めてもらったことが功を奏したようだ」と評価している。

 3位の昭和シェル石油の充足率は156%。引き金は業界再編だ。昭シェルの大株主だった英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが約30%の株式を出光興産に売却。国内に特化していた石油事業などを、海外で展開できるようになった。昭シェルは合併を目指す出光と海外事業でも協力する。新たな枠組みの中で昭シェルの存在感を高めるためにも、成長余地が大きい海外を開拓する必要に迫られ計画を見直した。

 採用時には「業種的に競合する総合商社に学生が流れることに苦労した」(関係者)。社員150人を投入したリクルーター制度をベースに、採用の進展に合わせて3段階で学生にアプローチし、確保につなげた。

 業績好調を受けて採用計画を上方修正したのは5位のコーセーだ。

 17年3月期は営業利益が3期連続で過去最高を更新。初めて資生堂を上回るなど業績好調だった。これを受けて17年度採用は過去10年で最大規模となる62人を採用。「その反動から当初、18年度の採用計画は50人程度に抑えた」という。だが18年3月期も引き続き最高益の更新が見込まれたことから、最終的に75人に内定を出した。

 充足率が100%を超えるもう一つの側面が、学生の「内定辞退」への対処だ。

 ランキング首位の自動車ディーラー、神奈川トヨタ自動車は186.7%。計画30人に対して56人に内定を出した。

 ディーラーのサービスは今や従来型の自動車販売にとどまらない。車検などアフターサービスの充実も求められている。サービスの質を高めるためにも「多様な人材を広く採用したかった」と説明する。ただ、例年30人程度のペースで採用してきたが、昨年は内定辞退が相次ぎ、結果的に半分の14人しか採用できなかった教訓がある。今年は「一定数の辞退を織り込んで上積みした」。

 32位の松屋フーズは充足率が128.6%で、70人の計画に対して90人に内定を出している。

 外食は人手不足が深刻で人材獲得競争が激しい。とんかつやラーメン店など主力の牛丼店以外にも業態の多角化を急いでおり、人材確保は待ったなしだ。人材の奪い合いで内定辞退が増えることを織り込んだという。

 また、2位の山崎製パンも人員再配置に加え、一部は「辞退者も見込んでいる」という。

 採用時に内定辞退を見込んで内定を多めに出す傾向は以前からあった。

大卒内定充足率トップ30

 就職支援大手ディスコ(東京・文京)の武井房子上席研究員は「複数の内定を持つ学生であっても、多くは10月の内定式までに絞り込んで辞退する。内定者数が10月以降に上振れしていると、取り過ぎてしまった可能性もある。その場合は人件費増につながり、翌年以降の採用計画にも影響しそうだ」と指摘する。

 一方、今回の100%超えの背景には、売り手市場に対応するために、企業が採用活動を見直した結果でもある。

 中でもインターンシップの活用が奏功した面は大きい。調査では、今年から本格的に始まった「半日インターンシップ」「1日インターンシップ」について聞いたところ、インターンシップを実施している企業の約半数が導入していた。

 システム開発のインテックは129.4%でランキング31位。あらゆるものがネットにつながる「IoT」の広がりもあり優秀な人材の確保は急務だが、ここ数年は計画が未達だった。今回はインターンシップを増やし、業務内容が効果的に伝わるようプログラムを工夫するなどした。結果的にこれが当たり、計画160人を上回る207人に内定を出した。

 20位の日立金属は135.0%。「女性が働きやすい環境整備を進める」とし、就活では育児休暇の取得期間延長などの取り組みをアピール。結果的に文系総合職の女性比率を高められた。計画の上振れについては「当初見込んでいたよりも多くの優秀な人材と巡り合えた。人材確保を最優先した」と説明する。

 計画度外視は44位のオリンパスも同様だ。122.0%で、計画200人に対し内定は244人。「優秀な学生がいれば内定は出すスタンス。カメラメーカーのイメージが強いため、今回は主力の医療業務内容の説明に、例年以上に力を入れた」としている。

 今回の充足率を業種別でみると、製造業は98.6%と2年連続で増加。採用人数が多い「食品」「化学」はほぼ計画通りといえそうだ。マイナス業種では「電機」が97.0%。エンジニアなどの人材獲得競争のあおりを受けたとみられる。

 非製造業は96.1%で2年ぶりに前年比マイナスとなった。堅調な「銀行」「不動産・住宅」はほぼ100%。過重労働が報道された「陸運」は77%と業種ごとの格差が鮮明になっている。

 計画が未達成だった企業の多くは、まだ内定がない全体の1割程度の学生に照準を当て、引き続き採用活動を続ける。

 バローホールディングスは計画345人に対し、内定が200人にとどまる。もともと採用活動は3月まで継続的に実施しており、秋時点では計画未達が通例だ。ただ「内定者確保のペースは昨年より遅い」という。

 学生の中には、公務員志望を変更したり、留学したりしたため、一般のスケジュールで活動ができなかった学生もいる。英国の大学院に通う男子学生(24)は夏に一時帰国した時には大手企業の採用は終わっていた。「内定を得られるまで活動を続ける」という。

 内定式が終わっても採用活動のせめぎ合いは水面下で続く。ランキングの数値は、こうした企業と学生とのマッチングのひずみも示している。
(企業報道部 流合研士郎、桜井豪)[日経産業新聞2017年10月16日付、日経電子版から転載]

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