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[ liberal arts-大学生の常識 ]

EV時代、本当に来る?
走行距離や電池量産が課題

EV時代、本当に来る?走行距離や電池量産が課題

 最近、電気自動車のことがよくニュースなどで話題になっているわね。いままでの車はすべて電気自動車に取って代わられるのかな。普及に向けた課題はないの。

 電気自動車(EV)の動向について、西條都夫編集委員に話を聞いた。

――欧州などでEVシフトの動きが急ですね。

日産自動車は電気自動車(EV)の「リーフ」をフルモデルチェンジした

 「2017年7月にフランスと英国が相次いで、40年までにガソリン車やディーゼル車の新車販売を禁止することを表明しました。米国でもカリフォルニア州をはじめとする有力な州で、EVの普及を重視した規制を打ち出しています」

 「新興国では中国が18年からメーカーに一定割合のエコカーの生産を義務付けます。インドでもEVを優遇する税制を7月に導入しました」

 「背景にあるのは大気汚染の深刻化です。汚染源の一つが車の排ガスであり、大気浄化の即効薬として排ガスゼロのEVへの期待が大きいのです。中国やインドの都市部の大気の状態が悪いのは有名ですが、新興国だけの問題ではありません。パリでは16年12月、上空に高気圧が居座って汚染物質が滞留し、健康被害が懸念される事態となり、市内への車の乗り入れを規制しました。また、15年に発覚した独フォルクスワーゲンによるディーゼル車の排ガス不正問題の影響で、各地で脱エンジンの機運が高まっている面もあります」

――現時点のEVの実力はどうですか。

 「調査会社の富士経済によると16年の世界の新車販売は約9400万台ですが、そのうちEVは50万台弱とみられ、全体の0.5%程度にとどまるニッチな存在です」

 「EVの弱点は走行距離です。例えば、日産自動車が10年に発売した初代『リーフ』は1回の充電で最大280キロメートル走行できます。ただ、遠出をするには不安です。そのため販売台数は7年間で約28万台と苦戦を強いられました」

――走行距離を伸ばすことはできないのですか。

 「EVに搭載されているのはスマートフォンにも使われるリチウムイオン電池です。電池をたくさん積めば走行距離は伸びます。ただ、電池は高価で大量に搭載すると、その分、車の価格がはね上がります。米テスラの『モデルS』は500キロメートルを超える走行距離を実現しましたが、1千万円前後する高級車で、買い手は富裕層が中心です」

 「米エネルギー省によるとリチウムイオン電池のコストは08年は電池容量1キロワット時当たり1000ドルでしたが、今は150ドル程度に下がりました。ただ、ガソリン車と正面から競争するにはまだ実力不足で、50~70ドル程度まで下がる必要があるとみずほ銀行産業調査部は指摘します」

――自動車メーカーの取り組みはどうですか。

 「スウェーデンのボルボ・カーは19年以降に販売する車をすべてEVやハイブリッド車などの電動車に移行すると発表しました。国内勢では日産がリーフをフルモデルチェンジします。価格を300万円台に抑えつつ、走行距離を従来の1.4倍の400キロメートルに伸ばし、商品力の向上をアピールしています。トヨタ自動車とマツダは8月に提携し、EV技術の共同開発に取り組みます」

 「EV普及の1つの試金石が、テスラが17年7月に出荷を始めた『モデル3』です。価格は400万円弱とこれまでのテスラ車に比べ、低く設定しました。走行距離は約350キロメートル。すでに世界で50万台以上の予約が入っています。量産化のため、パナソニックと共同で『ギガファクトリー』という巨大な電池工場の整備を米国内で進めており、完成すれば年間50万台分の電池が供給できます」

 「計画通り電池を量産し、予約した人に順調に配車できるか。品質や安全上の不具合を起こさないか。また将来、大量に出る廃バッテリーをどう再利用やリサイクルするのか。こうした点を世界の自動車関係者は注目しています。『モデル3』が成功すれば、EV普及に弾みがつき、エンジンが今の地位を奪われる時代は前倒しされるでしょう」

ちょっとウンチク

草創期 ガソリン車と覇権争う

 自動車といえば、石油で走るのが当然と思っている人が多いが、実は草創期はそうでもなかった。1901年にニューヨークで開かれた自動車ショーでは、ガソリン車に負けない数の蒸気自動車や電気自動車(当時は鉛蓄電池を使用)が出展され、技術覇権の行方は混沌としていた。

 その中からガソリン車が抜け出したのは、各種の自動車レースで活躍し、耐久性や加速性能で他の技術を圧倒したことが大きい。1908年に廉価なT型フォードが発売された時点で、ガソリンの優位は揺るぎないものになった。

 仮に電気自動車の時代が到来すると、一度負けた技術が1世紀以上の空白を経て復活する、技術史上でも珍しい逆転劇となる。
(編集委員 西條都夫)[日本経済新聞夕刊 2017年9月11日付、NIKKEI STYLEから転載]

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