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[ career-働き方 ]

お悩み解決!就活探偵団2018新人さん辞めないで
企業がおびえる配属リスク

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 新人さん辞めないで企業がおびえる配属リスク

 「やりたい職種じゃない」「転勤したくない」――。売り手市場の中、やっとの思いで確保した若手社員があっさりと辞めていく姿に企業は頭を抱えている。入社3年以内に退職する人は今や3割に達する。どうしたら辞めないでくれるか。カギを握るのは内定後にある配属だ。

3年で3割が離職

イラスト=篠原真紀

 「自分がやりたい仕事ではなかったし、仕事も向いていなかった」。今年4月に新卒で建設工事の施工会社に入社した森本健太さん(仮名、23)は、この夏に会社を辞めた。もともとその会社には営業職として選考を受け、内定を得ていたはずだったが、入社してみると施工現場に配属させられた。「はじめは、自分が面接や書類の記入で間違えたのかと思った」。でもメールや提出資料を見返しても応募は確かに「営業」だった。

 それでも、配属当初は現場で成果を示して営業に異動させてもらおうと考えたが、現場作業では新人は周囲に後れを取るばかりで簡単には成果は上がらない。追い打ちをかけるように、人事担当者から「君は営業に向いていない」と言われた。入社してすぐに辞めると転職市場で不利になるかもしれないが、「ずっと勤め上げたとしても未来がないなら」と断腸の思いで転職を決意した。「同期や先輩は優しい人ばかりで居心地のよい職場だったのに」と今でもやりきれない思いでいっぱいだ。

 厚生労働省の調査によると、入社3年以内に退職する「3年離職率」はバブル経済崩壊以降、ほぼ3割前後を推移している。

行きたい部署の社員に「ハイカツ」

 2018年春卒業予定の学生の求人倍率は「売り手市場」の目安となる1.6倍を4年連続で上回り、1.78倍(リクルートホールディングス調査)。08年のリーマン・ショック後で最高だった。やっとの思いで学生を獲得した企業側にとって「手塩にかけて育ててきた金の卵を失う影響は大きい」(都内のベンチャー企業)。就職情報会社のマイナビ(東京・千代田)が16年12月にまとめた「企業新卒内定状況調査」によると、1人当たりの新卒採用費は平均で約46万円に達する。

 一方、自ら道を切り開こうと果敢にチャレンジする内定者もいる。就活ならぬ「ハイカツ(配属活動)」だ。

 大手総合商社の内定を獲得した上位私大男子の山本智久さん(仮名)には、入社して行きたい部署がある。機械を扱うX部だ。「日本の優れた建設機械や産業機械を海外に売り込みたい」。学生時代からそんな思いを描いていた。

 目指していた商社の内定を見事獲得し、ほっとしていたのもつかの間。内定者懇談会で親しくなった同期の一人からこんな話を聞いた。「誰もが希望通りの部署に行けるわけではない。行きたい部署に行けるように働きかけたほうがいい」。これに触発された山本さんはOB訪問で世話になった社員に連絡を取り、X部の社員を紹介してもらった。これからその人にメールし、会う時間をつくってもらうつもりだ。「あわよくば、その社員の方が人事部に僕をプッシュしてもらえたら」

「配属で入社するかを判断する」

 就活探偵団は新卒採用支援のアイプラグ(大阪市)に依頼し、「配属」について18年卒業予定の内定者にアンケート実施した。「配属は入社前に決まっていたほうがいいと思うか」聞いたところ、「はい」と答えた人は65.6%と「いいえ」の5倍以上だった。

 理由は様々だったが、「配属によって事前に勉強ができる」「決まってないと具体的にどういった仕事をするのかが分からず将来がイメージできない」――などといった意見が多い。転勤を伴う配属がある職場もあるため、「入社後に引っ越しをすることが不安」という声もあった。

 さらには、「(配属は)入社するかしないかの判断にもなる」と売り手市場ならではの答えも複数あった。内定を複数持っていれば、配属の条件のよい会社を選別しようと思うのもうなずける。

 こうした学生の要望に追いつけていない企業も多い。内定先から配属希望調査があったかとの問いに対しては、「まだ調査を受けていない」「配属先の希望を出すことはできないと聞いている」と答えた人が合わせて53%に達した。アイプラグの中野智哉社長は「企業側が学生のニーズに対応できていない。大学時代までの学びと社会に出てからの役割がうまくリンクされていないことでミスマッチが起きている」とみる。

 企業にしてみれば、配属を伝えるのは、せっかく釣った魚を逃がしてしまうリスクにもなる。だが、そのままでいいのだろうか。

適性検査を社員にも

 ユニクロを運営するファーストリテイリングが、通常、就活生に課す適性検査試験「SPI」で、社員を「選別」している? こんな情報を得て取材に向かった。

ファーストリテイリング人事部採用担当部長の山崎麻紀氏は「配属では上司と部下の相性が重要」と強調する。

 近年、店舗網が国内外で広がり続けていているファストリでは、毎年新卒採用が数百人規模に膨れあがった。そのため人事担当者が新卒社員のスキルや上司との相性を見極めて配属を決めるには、マンパワーが足りなくなってきたという。

 そこで目を付けたのが、入社試験で課している「SPI」だ。これは基礎学力だけでなく物事の考え方や性格なども診断する。人事部採用担当部長の山崎麻紀氏は、「配属では、上司と部下の相性が重要」と語る。たしかに、会社を離職する際の理由として必ず上位に入るのが「人間関係の悪化」。上司との相性は、仕事自体のやりがいより重要な時もある。

 SPIを開発するリクルートキャリアによると、具体的な手法はこうだ。

 まず社員が新入社員だったときに受けたSPIのデータから「仕事の任せ方が挑戦的か堅実か」「コミュニケーションスタイルが論理的か感情的か」という2軸で評価する。その上で、社員の性格を「創造重視タイプ」「調和重視タイプ」などと4つに分類。新卒学生と、学生が配属される可能性のある組織長を同じグループに振り分け、上司と新人のタイプが同じになるように配属する。仕事の仕方や任せ方、コミュニケーションスタイルが近い方が、仕事がよりうまくいくからだという。

企業の名前に惑わされることも

 大手に比べて採用数が少ない中堅企業では、若手の離職はより切実な問題だ。三和建設(大阪市)は来年から新入社員全員を本社配属にすることにした。本社近くに社員寮を新設し、全員入寮させるという。広めのリビングを用意して日常生活で同期同士が触れあえる環境にし、研修も寮で実施する計画だ。「今までは地方などに配属されて孤独になり、辞めていく社員がいた。同期のつながりを強くし、気軽に相談できる間柄になってもらうことで離職を防げる」(同社)

 ナリス化粧品(大阪市)には今春入社した女性営業職4人に1年間研修をほどこした。研修期間中は、化粧品の販売部署と、代理店営業をする営業部署の両方に籍を置く仕組みに改めた。これまでの新入社員研修はわずか4週間で、配属される先は本人の実力次第で決まっていた。両方の仕事をすることで早くスキルが身に付き、本人の適性が早く把握できるようになるとみている。

 人気企業だからこそ、名前に惑わされて職の内容に目がいかないこともある。ソニーは18年卒の新入社員から、採用の段階で配属先に特にこだわりを見せない学生向けに「Will(ウィル)コース」を新設した。そもそもソニーは早い内から職種別採用をしている。「配属を明確にして採用してほしい」という学生のニーズもあったためだ。しかし、「ソニーに興味はあるけれど、会社のことはよくわからない」「情報は多くあり迷ってしまう」という人が一定数いたことが分かった。そういう学生が進路を会社に委ねられるのがこのコースだ。ふたを開けてみると海外留学経験者などが目立ち、「想定を上回る応募だった」(同社)。

配属が「エアポケット」にならないように

 「企業は採用にはヒトとカネを投じるが、配属の段階で無関心になってしまう」と指摘するのは人材研究所の曽和利光氏だ。人事部は、入念に就活生を選考して入社させるが、いざその後の配属となると事業部の要求に応じて丸投げしてしまう。良い人材を採ったことは人事の点数になるが、よい配属ができたかは評価外。「人事と事業の間のエアポケット」(曽和氏)になっているのだ。

 「就職は『就く職』を選ぶ場だから、職種で選ぶのは当然」。アンケートに答えてくれた内定者からはこんな意見もあった。職に就くか、会社に就くか。変わりゆく学生たちの仕事への意識に、企業はきちんと向き合えているだろうか。
(鈴木洋介、松本千恵、桜井豪)[日経電子版2017年10月19日付]

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