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池上彰の大岡山通信 若者たちへ真剣勝負の衆院選特番
政治家の素顔、浮き彫りに

池上彰 authored by 池上彰東京工業大学特命教授
池上彰の大岡山通信 若者たちへ 真剣勝負の衆院選特番 政治家の素顔、浮き彫りに
東京工業大学での講義

 突然の解散で幕を開けた衆議院選挙のドラマが終わりました。政治家たちの人間ドラマも見応えがありました。それを総括するのが、投開票日の夜に放送される選挙特番。今回もテレビ東京系の「池上彰の総選挙ライブ」を担当しました。

 視聴率では、いつも民放トップを獲得してきましたが、他局も負けじと研究してきます。そこで新たに考案したのが『政界 悪魔の辞典』でした。選挙や政治について現代版の風刺をしてみようとスタッフと相談して作り上げました。

 オリジナルは米国のジャーナリストだったアンブローズ・ビアスが19世紀末に記した箴言(しんげん)集『悪魔の辞典』です。

◇ ◇ ◇

 たとえば「選挙ポスター」は、「勝敗を左右する重要なアイテム。修正しすぎると"別人"に...」という具合です。

 おかげさまで視聴者から好評をいただき、今回も民放視聴率トップに貢献しました。

 番組では、政党の責任者や候補者と中継でインタビューします。事前の打ち合わせなど全くありませんから、真剣勝負。私の質問にどう答えるかで、その人となりが見えてきます。

 中でも話題になったのは、自民党の二階俊博幹事長とのやりとりです。私の質問に終始無表情を通しました。視聴者の多くは「不機嫌そう」と受け止めたようですが。

 二階氏は「老練な政治家」と呼ばれます。いわゆる古いタイプの政治家の特徴はどういうものかを明らかにしようと質問を重ねたのですが、結果として「古いタイプ」と称される政治家がどんなタイプなのか、視聴者に印象づけられたのではないでしょうか。

◇ ◇ ◇

 一方、選挙中に見事な切り返しを見せたのが、希望の党の小池百合子代表(東京都知事)でした。移動中の車に同乗させてもらい、私がカメラを回しながらインタビューしました。

 この中で、小池氏について「緑のタヌキと呼ばれますが」と聞きました。これは相当失礼な聞き方ですが、その対応で人柄が見えてくるので、敢(あ)えて、こういう聞き方をしたのですが、答えは意外なものでした。

 「そうよねえ。キツネよりは、どちらかといえばタヌキ顔よねえ」
これぞタヌキ(失礼!)の本領発揮の対応です。

 しかし、選挙特番の中でパリにいる同氏との中継では、疲れた顔で終始「反省」の弁でした。当初は「希望旋風」が吹くかと思えた総選挙は、「さらさらない」「排除」の言葉で失速してしまいました。言葉の恐ろしさを改めて痛感しました。

 番組の最後は、次のように総括しました。

 「今回の選挙は、特に野党が離合集散する過程で、ひとりひとりの政治家の資質、さらには人としての生き方が問われました。

 また、選挙戦では異なる意見を持つ人を排除する動きが目立ちました。演説会での小競り合いもたびたび目撃しました。社会から寛容さが失われていくことは、日本の将来を考える上で、大変気がかりなことです。

 ただ、今回、政治勢力が憲法観をめぐって三極に分かれたことは、有権者にとってわかりやすい構図になったともいえます。これにより、多くの人が政治に関心を持つきっかけになればと思います。明日の日本を支えるのは、有権者である私たちなのですから」
[日本経済新聞朝刊2017年10月30日付、「18歳プラス」面から転載]

※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。