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AIスピーカーと暮らしてみた
意外な反応「旬の歌手」登場

AIスピーカーと暮らしてみた 意外な反応「旬の歌手」登場

 話しかければ、音楽の再生だけでなく、家電の操作もインターネット通販の注文も――。米国では年間数百万台が売れているともいわれる人工知能(AI)を搭載したスピーカーが、日本でもいよいよ登場する。家庭生活や消費市場はどう変わるのか。我が家に届いた1台を試しながら、日本の「AIスピーカーライフ」を占ってみた。

LINEの先行体験版、音声認識の精度向上

 使ったのはLINEのスマートスピーカー「WAVE(ウェーブ)」の先行体験版(1万円)。できるのは簡単な会話と天気予報を聞くこと、音楽をかけてもらう程度だ。9月上旬、Wi―Fiへの接続やスマートフォン(スマホ)に入っている対話アプリ「LINE」のIDとの連携など初期設定を済ませて、早速呼びかけた。

人工知能を搭載したLINEのスマートスピーカー「WAVE」

 「クローバ」

 「......」

 反応がない。

 「クローバ」

 「......」

 「クローバ!」

 声色を変えながら3度目の呼びかけで、ポーンという音とともにスピーカーの底部が緑色に光った。ウェーブはAIの名称である「Clova(クローバ)」と呼びかけることで操作が始まる。最初は呼びかけに一発で反応しないことが多かった。個人的な感想では最後の「バ」をはっきり言うと反応が良くなった。

 「音楽かけて」というと洋楽が流れ出した。「これなんていう曲?」と聞くと、「○○の○○という曲です」と教えてくれた。「音楽消して」と言うとまた「○○の○○という曲です」。「音楽終わって」には「○○の○○という曲です」。「音楽ストップ」でやっと曲が止まった。

 ジャンルやアーティスト名を指定できる。4歳の長女が好きなディズニーの曲をリクエストすると、「ミッキーマウス・マーチ」がかかった。

 次に天気予報。「今日の天気は?」には「東京都中央区の天気は曇りのち晴れです」。機械合成の女性のような声だ。イントネーションはカーナビに似ている。

 よし、会話だ。

 「クローバ、野球って知ってる?」

 「エキサイティングなスポーツですよね」

 「サッカーと野球どっちが好き?」

 「どちらも魅力的なスポーツですよね」

 「イチローって知ってる?」

 「その機能については今、準備中です。もう少しお待ちください」

 「稀勢の里」や「錦織圭」についても聞いてみたが同じ反応。一般名詞の情報は入っているが、検索をかけて調べないといけないような人名などの情報はこの時点ではまだ答えられない。

 8歳の長男が「恐竜って知ってる?」と聞いたときには「そのようなことを言っていただいてうれしいです」と、的外れな答えも。また長女の声には当初ほとんど反応せず。声の高さに問題があるのか、長女は半泣きだ。

 1週間余りで、特に声の認識の性能はどんどん良くなった。今では記者の呼びかけも一発で応えてくれる。長女の声も、数日たってみると一発で反応した。こうなると愛着も湧いてくる。

 「音楽かけて」「ストップ」も一発だ。慣れてくるとリクエストもラクに感じてきた。「80年代のJ―POPかけて」というと懐かしいメロディーライン。聞こえてきた歌声にも聞き覚えがあったが、曲は分からない。

 「誰の曲?」

 「斉藤由貴の『白い炎』です」

 旬の人をわざと選んだのか。なかなかやる。まあ偶然だと思うけど。

 「ミスチルかけて」では「音楽でしょうか?」と逆質問。音楽機能はスマホ向け音楽配信サービス「LINEミュージック」と連動している。LINEミュージックで配信されていない曲は聴けない。ミスチルはオルゴール版が数曲配信されているだけだ。

 会話は進化したかな。

 「野球って知ってる?」

 「どちらのチームが勝利するのか気になりますね」と前回と違う答え。

 「イチローって知ってる?」

 「それについては今分からないんですけど、勉強しておきますね」。賢くなったのか、ちょっとわからない......。会話の向上はWAVEが接続した先にあるLINE側のシステム・データの更新のタイミングにもよるのだろう。

 少し意地悪も。「テレビつけて」。家電操作の機能はまだ使えないと分かっていて頼んでみると、「赤外線を使ったリモコンの機能は準備中です」。妙にしっかりした答えが返ってきた。

 使ってみて、AIの性能やサービスが進化すれば、AIスピーカーが普及する余地はあると感じた。記者は飲料水など日用品の購入やタクシーの配車などができれば使う機会がありそうだ。

家電操作など順次可能に

 LINEは機能を大幅に拡充した正式版を発売した(10月5日)。先行体験版を買った人も無料でアップグレードできる。同時に小型で、LINEのスタンプで人気のクマのキャラクター、ブラウンを模したスピーカーや画面付きの「FACE(フェイス)」も追加する。

 正式版はまずニュースの読み上げやスケジュール管理などができるようになる。パートナー企業との協業を広げ、照明や家電の操作など「新サービスをどんどん投入する」(舛田淳最高戦略・マーケティング責任者=CSMO)。「(消費者が)イメージしているようなことはほぼ全てできるようになる」という。

 LINEならではとなるのが、日本で7000万人が使う対話アプリ「LINE」との連携だ。

 「ファイトのスタンプを送ってやってくれ」。女優になりたいと家を出ることになった娘を駅まで送った帰り道、車内に置いたスピーカーに父親が話しかけると、娘のスマホに「がんばれ」のスタンプが届く――。LINEが放映したテレビCMの一コマだ。文字や画像、音声で相互にやりとりしやすくなる。

 LINEではさらに、スピーカーだけでなく、AIの技術を街なかなどに応用する。例えばファミリーマートとは、来店者を画像などで分析し、顧客の性別や年齢層に応じたPRを想定する。

 通勤途中の会社員が来店し、ドリンクを選ぼうと飲料の冷蔵庫の前に立つと、設置されたモニターにサンドイッチが表示される。手に持つスマホにはサンドイッチとコーヒーのクーポン――。こんなイメージだ。ファミマの沢田貴司社長は「新しいコンビニをLINEとつくっていきたい」という。

 トヨタ自動車とはクルマでの活用を、ソニーとはウエアラブル端末での活用を模索している。

 家庭で、街で。AIの進化とともに消費者の生活が変わっていく。

◇          ◇

アマゾンとグーグル、得意分野に違いも

 米アマゾン・ドット・コムが販売するAI搭載のスピーカー「エコー」と、グーグルのAIスピーカー「グーグルホーム」。日本に先行する2つのスピーカーを使い比べると、得意分野があることがうかがえる。

アマゾンのエコー(窓の手前)は、通販で購入できる商品の解説が得意

 記者が主に使うのは「エコー」がキッチン、「グーグルホーム」がリビング。まずエコーに話しかけてみる。「アレクサ(エコーのAIの愛称)、今日のパロアルトの天気は?」。「今日のパロアルトは晴れ時々曇り。気温はカ氏90度です」。グーグルホームでもこれくらいは簡単にこなせるようだ。

 では自分のスケジュールはどうだろう。「アレクサ、明日の予定は」と尋ねると「分かりません」と素っ気ない。グーグルホームは「明日は10時から会議です」と正確に答えてくれる。

 今度は買い物。「アレクサ、卵を買いたいんだけど」との呼びかけには「卵は5種類あります。放し飼いの鳥の卵の値段は......」と細かく教えてくれる。さすがはネット通販の巨人。品ぞろえも豊富だ。一方のグーグルは「決済手段が未設定です」とのことだった。

 スケジュールと買い物の例から分かるように、実はそれぞれのAIには得意分野がある。記者の場合、カレンダーやメールの管理をグーグルのソフトと連動させており、AIもそのデータを基に質問に答えている。

 日々のネット通販で記者の決済や届け先情報を知っているアマゾンは、買い物の応答に優れている。何でもできるように思われがちなAIだが、データに乏しい分野では手も足も出ないのだ。

 面白いのは音楽。グーグルホームに「UKポップの曲をかけて」と頼むと「Kポップ」が流れた。こちらの英語に問題があるのかと何度も試みたが結果は同じ。どうやら同AIにはUKポップの概念がないらしい。一方でエコーに「ブリットポップをかけて」と呼びかけるとビートルズだけが再生される。本当はオアシスが聴きたかったがやや勝手が違うらしい。

 思わぬ会話のすれ違いは少なくない。カリフォルニア出身のバンド、マルーン5の「シュガー」という曲を聴こうと「アレクサ。シュガーをかけてよ」と話しかけたら「砂糖を買い物バスケットに入れました」と返された。

 機転が利いているのはグーグルかもしれない。それぞれにそれぞれのAIについて質問するとグーグルホームは「エコーの青いライトはスター・ウォーズっぽくて好きだな」と返答。アレクサは「グーグルの音声認識AIです」と教科書通りの回答にとどまった。

 電気をつけたり、空調を調節したり、いまや米国には電子機器の操作の多くをスピーカーへの会話で済ませる人も珍しくない。生活をアマゾンやグーグル、あるいはアップルのAIに委ねる時代がやってくる。好き嫌いはあれども、そんな世界の実現が少しずつ近づいている。
(篤田聡志、シリコンバレー=中西豊紀、吉野次郎)[日経MJ2017年9月15日付、日経電子版から転載]

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