テレビも捨てたものじゃない! 自分の世界を狭くしないために
人事部長のひとりごと(22)
こんにちは、高知大学特任教授の中澤二朗です。最近の大学生はあまりテレビを見ないといいますが、実は私はテレビをよく見ます。いながらにして地球の裏側がわかる。瞬時にして時空を飛びこえることができる。さらには、私は昨年まで某大手企業の人事部にいましたが、仕事にも役立つのですから、それを活用しない手はありません。今日は、その中でも三つ、テレビの効用についてお話します。
一つ。ベタかもしれませんが、テレビは人を和ませてくれます。笑いは湿った心を乾かし、スポーツの熱いプレーは冷めた心に喝をいれてくれます。
所詮、画面の中の話。そういってしまえば確かにそうですが、とはいえ、それをキッカケに元気や勇気をもらい、そこから次の一歩を踏み出せたなら儲けもの。キッカケは何であってもかまわないのです。それがテレビであろうと、なかろうと、自分を駆り立てるものであれば、どん欲にそうしたものを使い倒したらいいのです。
テレビは「ヒマつぶし」...とは限らない
二つ。テレビドラマはコミュニケーション能力を高め、人間力をつける宝庫です。
私たちは今、誰もが意思疎通に困難を感じ、人間力をつけることに腐心しています。であれば、手っ取り早いのはテレビドラマを見ることです。そこには様々な人が登場します。威張った人。いじわるな人。殺人犯。二重人格者。貧しいながら心の清い人などなど...。しかも、心の中まで描き、声にはならない悲痛な叫びまで描いてくれていれば、それが人を知る格好の材料だと思います。
人が成長するとは、一言でいってしまえば、いかに多くの「他人」を自分の中に取り込めるかです。その「他人」を一網打尽にできるのがドラマなのです。そしてその延長に小説や映画も、演劇の世界も広がっています。テレビドラマをきっかけに、そうした世界に足を踏み入れるのもよいかもしれません。
三つ。テレビでは、難しい内容も映像を使ってわかりやすく要点を説明する工夫がされています。最近のテレビの教養番組には目を見張るものがあります。
NHK総合テレビの『NHKスペシャル』や『プロフェッショナル』は言うまでもなく、サルにもわかるように解説してくれるETV(NHK教育テレビ)の教養番組には驚かされます。
なぜか。とにかく分かりやすいからです。面白いからです。その最たるものがETVの『100分de名著』です。お釈迦様でも、キリスト様でも、はたまたそれがニーチェであれ、カントであれ、歯が立たないと思われていた人物の名著もめった切り。進行役の伊集院光の突っ込みが、とにかく良い。そうそう、そこを聞きたかったんだよね~といった痒い所をかいてくれるから痛快です。一回25分で四回シリーズの計100分。たったそれだけで、しかもアイスクリームでも食べながら、その世界に引き込まれてしまうのですから、教養番組といえども恐るべし。社会人になっても役立つことでしょう。ぜひだまされたつもりで一度見てみてください。
世界を広げる「プル型」メディア
しかし、こう話してくると、すぐさまこんな反論が返ってきそうです。「テレビでなくても、ネットで情報収集すれば十分ではないか」と。
それはイエスであり、ノーです。情報には、インターネットのように自分でそれを取りに行く「プル型」と、向こうから流れてくる「プッシュ型」がありますが、前者にばかり頼っていると、情報の偏りが生じます。
つまり、好きな人と好きなテーマだけ追い駆けていると、大海原にあっても、あたかも大海の孤島にいるがごとく偏ってしまうということです。
テレビのような「プル型」メディアは、それを補ってくれる価値があります。知らなかった情報を提供し、興味のないテーマにも、意識せずに触れるチャンスを与えてくれる可能性があるのです。
どんな媒体にも得失あり、功罪あり。要は、使いよう。さまざまな情報源をうまく組み合わせて使うことが必要です。テレビというと「ヒマつぶし」だけのためと思われがちなので、今日は一言そのメリットについてお話ししました。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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