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[ liberal arts-大学生の常識 ]

人生を経済学で考えよう(8)英語は小学生から
始めないと身につかない?

authored by 慶應大学 中室牧子ゼミ
人生を経済学で考えよう(8) 英語は小学生から始めないと身につかない?

 こんにちは。慶應義塾大学中室牧子ゼミナールです。私たちは、「人生や社会で感じるさまざまな疑問を、経済学の手法で明らかにしようと勉強しています。皆さんも、私たちと一緒に考えてみてください。今回は、「英語は小さいときから始めないと身につかないのか?」です。

 最近のある調査によると、小学生の子どもの習い事として「英語・英会話」が2年連続第1位という人気だったそうです。その理由として「英語はなるべく小学校から始めるのが効果的」という声も多く聞かれます。これは本当でしょうか。英語は小学校から始めたほうがいいのでしょうか。今回はこのことについて考えてみたいと思います。

「英語は中学から」では遅い?

 私たち大学生が学校で英語を学び始めるのは中学からでしたが、文部科学省は平成23年度から小学校第5、6年生で年間35単位、つまり週に一度の外国語活動を「必修化」しました。「必修化」は「義務化」とは異なり、教科書がなく授業内容が指定されないため、学校によって授業内容が様々です。文法に力を入れる学校もあれば、歌やダンスを取り入れ、「英語に親しむ」ということに力を入れる学校もあるようです。

右から2番目が筆者(坂本)

 平成30年からはこの「必修化」が3、4年生に前倒しされ、小学校5、6年生では「英語」という教科として「義務化」されます。大学生が勉強しても難しいと感じる英語を小学生から始めることは、本当に意味があるのでしょうか。

 日本で行われた研究によると、小学生の時に英会話教室や英語塾に通っていた経験がある人は、その経験がない人よりも、大学生になった時の英語力が高くなるということがわかっています。

 しかし、この結果の解釈には注意が必要です。英会話教室や英語塾は、小学校の授業と異なり、親や本人の意志によって通うか否かを決めるのが普通です。つまり、もともと幼少期から何らかの理由で英語に関心があったり、親が英語教育に熱心だった子どもほど英会話教室や英語塾に通っていたとすると、その後の中学や高校での英語の成績が高くなるのもうなずけます。

 これを経済学では、「セレクション・バイアス」と呼び、幼少期に英語を勉強していたから英語力が高くなったのか(因果関係)、もともと英語力が高くなるような人が英会話教室や英語塾に行っていただけなのか(相関関係)を区別にして考える必要があります。

重要なのは「動機」と「学習方法」

 英語の成績に影響する要因は何でしょうか。応用言語学の分野では、言語習得には三つの要因が重要だと言われています。一つ目が適性があるかどうか、二つ目がしっかりした動機があるかどうか、三つ目が正しい学習方法を選択しているか、ということです。しかし、適性に関わらず、動機や方法によってはある程度までは英語力を身に付けられるということがわかっていますので、近年は動機と学習方法について、多くの研究が行われているという状況です。

 そこで、私たちも動機と学習方法に焦点をあてて、データを用いた実証研究を行いました。また、この研究では、セレクション・バイアスを回避するため、ある方法を使って、小学校で英語の授業を受けた人と、受けなかった人が比較可能になるように調整しています。

 その結果、小学校で英語の授業を受けたかどうかは、中学2年生の時の英語の成績には影響しないということがわかりました。しかし、小学校の英語の授業では「アルファベットの読み書き」「文法の学習」などといった学習方法より、「聞くことや話すこと」という学習方法を中心に採用されていた人という人は、小学校で英語の授業を受けていなかったよりも英語の成績が良いこともわかったのです。

中室牧子・慶應義塾大学総合政策学部准教授は、教育経済学が専門。著書に『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。最新刊は写真の津川友介との共著『「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)

 コミュニケーションの機会を持つことは英語のリスニング、文法読解力の向上につながることが今までの研究においてわかっています。さらに、機会があっても、WTC(Willingness to communicate)つまり第二言語を用いて他者と対話する意思がなければ機会を上手に活用して英語力を向上させることができません。高校生や大学生においてはWTCが低いため、どうやって向上させるかについて多くの研究がなされています。一方で小学生は情緒面で壁を作らず様々なことに挑戦しようとする特徴を持っているため、英語を話して聞く機会を授業内容として扱うことで、第二言語である英語を使ってコミュニケーションをとる場として機能し、英語力の向上に繋がるのではないでしょうか。

 一方、小学校で英語の授業を受けた人のほうが、その授業の内容に関わらず、中学2年生時点の英語の学習の動機付けが強かったことも示されました。

男子と女子では効果的な英語の学び方が違う!?

 また、面白いことに、小学校の英語の授業がどのような学習方法を採用したかということの効果は、男女でかなり違いがあるということもわかりました。女子生徒は歌やダンスを交えた学習方法が中学校に入ってからの英語の成績と動機付けの両方にプラスの影響をもたらしましたが、これは男子生徒にとっては逆効果で、むしろその両方にマイナスの影響をもたらしました。ひょっとすると、男子と女子で別の授業にしたほうが効果的ということなのかもしれません。

 巷では、英語に関する学習法について様々な議論が行われていますが、その多くが個人の経験に基づいたもので、科学的な方法でその効果を検証したとは言えないものも少なくありません。今後小学校の低学年まで英語教育を拡張していくとすれば、大規模なデータから導き出される規則性を検証し、授業改善に役立てていく必要があるのではないでしょうか。
(中室牧子・坂本彩乃)

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