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「外食チキンレース」限界
鳥貴族が値上げ

「外食チキンレース」限界鳥貴族が値上げ

 大手外食チェーンで値上げの動きが相次いでいる。人件費や食材費の増加に耐えきれなくなったためで、外食デフレの勝ち組だった鳥貴族も10月から全商品の価格を28年ぶりに引き上げた。我慢比べの「チキンレース」を抜け出し、次の成長モデルをどうつくるか。トリキショックが外食チェーンに共通の課題を突き付ける。

人件費・食材・ビール 上昇の「トリプルパンチ」

売りである一律280円の看板は下ろさざるを得なくなった(9月、東京都千代田区の店舗)

 「学生が多く騒がしくても安さで納得していた。でも、値上げで行く回数は減るよね」。9月25日、鳥貴族神田北口店(東京・千代田)を訪れた男性会社員(33)は、同僚4人と愚痴を言い合った。10月1日から焼き鳥も酒類も税別280円から298円に一律上がった。

 7月、鳥貴族の大倉忠司社長は苦渋の表情を浮かべていた。2017年7月期の経常利益の見通しを最高益予想から一転し、下方修正に追い込まれたのだ。人件費の高騰に加え、6月からの酒税法改正でビールなどの卸価格が上昇し、「想定していた以上に販管費率や原価率が上がった」。

 10月4日に開いた「歌舞伎町セントラルロード店」(東京・新宿)。12月末までの時給を近隣の飲食店より200円高い1300円にした。「人集めは年々厳しくなっている。新店は一度に多くの人材が必要なため、競争の激しいところはオープニング時給を導入している」(同社)と明かす。

 値上げは不可避となったが、客離れは最小限に防ぎたい。人件費などを考慮すると300円台にのせる必要があるが、それでは客に「値上げのインパクトを非常に与えてしまう」(大倉社長)。ぎりぎりの選択肢が298円だった。

 大倉社長は競合の居酒屋チェーンを一切視察しない。他社との比較で唯一、気にかけているのが客1人が1回の来店で支払う平均単価だ。値上げ後の想定は2100円。大手スーパーとほぼ同じ水準にとどまる。競合する居酒屋チェーンは2500円以上のところが多い。「ボトムラインを維持できればお客さんは来てくれる」と読む。

 値上げ後も「業界一の安さ」は守り抜くため、店舗運営の見直しにも動く。改革の目玉に据えるのが、厨房内で焼き鳥を焼く順番を自動表示できるモニターの開発だ。

 焼き鳥は食材ごとに焼く時間が異なるため、遅く入ったオーダーが先に焼き上がることもある。その順番を見極め、いかに来店客の待ち時間を減らすかはこれまで職人の技に頼ってきた。システム上で分かるようにし、経験の乏しいアルバイトでもすぐに焼き台に立てるようにする狙いだ。

 効率化は進める一方で、人の手で焼く作業にはこだわる。「ファストフードのように自動化して手作り感をなくすと、居酒屋は支持が得られない」(大倉社長)ため、ここは譲れない。

 鳥貴族の牙城を崩そうと、競合する居酒屋チェーンは低価格を訴求した焼鳥店の出店を拡大してきた。税別150円の焼き鳥が売りの「三代目鳥メロ」を運営するワタミは、仕入れ方法やメニュー構成の見直しなどで値上げは回避するという。

 「やきとりスタンダード」を運営するエー・ピーカンパニーも「現時点で値上げの予定はない」。税別120円の焼き鳥が主力メニューだが、「値上げは客離れのリスクがある。他社の様子見もしたい」との判断だ。

 もっとも、人件費や食材費の上昇は各チェーンに重くのしかかる。チキンレースを続けられる保証はない。品質やサービスを落とすことなく、どう店の魅力を訴えていくか。生き残りをかけた顧客争奪戦は一段と激しくなる。

◇          ◇

外食業界、値上げ機運が鮮明

 「魚民」や「笑笑」などを運営する居酒屋最大手のモンテローザ(東京都武蔵野市)は今春から夏にかけ、大量閉店に踏み切った。3月末で約2000店舗だったグループ店舗数はすでに1800店舗まで減少。半年で約200店もの閉店は極めて異例だ。

 繁華街にあるビル1棟を丸ごと借りて複数業態で展開し、家賃を抑えるビジネスモデルで売り上げを伸ばしてきた。だが、若者の酒離れや鳥貴族や串カツ田中などの競合に押され、17年3月期まで3期連続で赤字を計上。9月の3連休最終日の18日夜、東京都中央区にある魚民の店内に客は1組しかいなかった。

 大量閉鎖について同社は「特に答えることはない」と話す。ただ、競合店の幹部は「1店舗当たりの従業員数を増やしてサービス力を高め、何とか打開を図ろうとしているのだろう」とみる。

 人件費や食材費の高騰、6月の酒税法の改正によるビールの仕入れ価格の上昇。「三重苦」に直面する中でも、外食チェーン店に特に痛手となっているのが人件費の上昇だ。リクルートジョブズ(東京・中央)のアルバイト・パート募集時平均時給調査では、飲食店の調理など「フード系」が6月に過去最高の978円を記録した。

 外食で相次ぐ値上げをよそに、大手スーパーやコンビニエンスストアは逆に値下げに動き始めている。大きな違いは売上高に占める人件費の負担だ。外食は一般的に30%強なのに対し、イオンは14%、ローソンは12%。外食は新規参入がしやすく、大手のように食材や酒類などの仕入れで規模のメリットが働きにくいことも背景にある。

日高屋も9月から生ビールなどの値上げに踏み切った(東京都千代田区の日高屋 神田西口店)

 鳥貴族と並んで外食デフレをけん引してきたハイデイ日高は、一足早く9月からビールやギョーザを値上げした。秋冬のメニュー改定に合わせるかたちで、すかいらーくやつぼ八(東京・中央)なども10月以降、一部のメニューの価格引き上げに踏み切る。

 「値上げに見合うだけのサービスにしていかなければだめだ」。9月、セルフ式のそば店「ゆで太郎」を運営するゆで太郎システム(東京・品川)の本社で、池田智昭社長を交えて社員の打ち合わせが行われた。

 ゆで太郎はサイドメニューなど半年間で2度の値上げを実施した。今年から高卒社員の免許取得の補助制度を導入し、営業職には1週間の連続休暇を強制。「これからは人材投資のための値上げは不可欠」とみる。

 「やれることはすべてやった」。8月、サイゼリヤの堀埜一成社長は退職時に株式を給付する制度をアルバイトやパートにまで導入した。利益を従業員に今まで以上に還元することで、チェーン店としての強みを打ち出す。人件費はコストではなく、「競争力の源」という意識の転換だ。

 日経MJの飲食業調査によると、11年度に外食全体で5%だった営業利益率は16年度には4%に低下。17年度は一段と悪化する可能性が高い。ある国内アナリストは「値上げを人材確保につなげて売り上げを伸ばす企業だけが勝ち残れる」と指摘する。
(栗本優、小田浩靖、出口広元)[日経MJ2017年9月29日付、日経電子版から転載]

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