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医学部合格者数が日本一
東海中高、実は個性派ぞろい
東海中学・高校校長の林道隆氏に聞く

医学部合格者数が日本一 東海中高、実は個性派ぞろい 東海中学・高校校長の林道隆氏に聞く

 中京圏の名門私立男子校、東海中学校・高等学校(名古屋市)。国公立大学医学部合格者数は10年連続日本一という医師輩出校だ。東京大学や京都大学などにも多くの生徒が進学し、さまざまな分野で活躍する個性豊かなOBが少なくない。キラリと光るユニークな個性はどのように育まれるのか。名古屋の東海を訪ねた。

仏教系学校

名古屋市の東海高校・中学

 あれ、お坊さん? 校長室に入ると、林道隆校長がニコニコと優しい笑顔で出迎えてくれた。スーツの上から輪袈裟を提げ、左手には数珠を巻いている。実は、東海はもともと、浄土宗寺院の子弟のために全国に建てられた学校の一つ。歴代の校長も、林校長を含めて全員がお坊さんだ。

 その林校長の案内で校内を歩いた。訪れた日はちょうど試験期間中で通常の授業はなく、生徒の姿はまばら。ときどき、騒がしい中学生の集団とすれ違う。「高校生だともう少し落ち着いているんですけどね」と林校長も苦笑い。全国有数の進学校といっても、見た限りはごく普通の学校だ。

 最初に向かったのは、東海の象徴である「明照殿」。重厚な扉を開けると、正面にまつられた阿弥陀仏が目に飛び込んできた。この場所で、中学生は毎週、「宗教」の授業を受ける。

 宗教といっても範囲は広い。中1では仏教の基礎知識を教えるが、中2、中3になると、再生医療や臓器移植など生命倫理に絡む問題や、原爆やホロコーストといった戦争と平和の問題など、幅広いテーマを取り上げる。林校長は、「よりよく生きるためには、いろいろなことに関して自分で考える力を身に付けることが大切」と授業の目的を説明する。

 この「宗教」を除けば、授業のカリキュラムに関して他の進学校と大きく違う点は特にない。林校長は、「医学部合格者数が多いので、医学部合格用の特別なカリキュラムがあるのかとよく聞かれるが、そんなものはありません」と笑う。

8割は理系

 医学部合格者数が多い理由をあえて探すと、まず、もともと生徒数が1学年440人と多い上、年によっては全体の約8割ぐらいが理系を選択するという進路選択の傾向がある。加えて、最近は進学実績が広く知られるようになり、「医学部を受けるなら東海へ、という流れも出てきた」(林校長)。

 もう一つあるとすれば、生徒の習熟度に合わせたクラス編成だろう。具体的には、高2の時に、それまでの成績を基に習熟度の高い生徒を集めたA群と残りのB群にグループ分け、それぞれのグループに合った授業を行う。医学部や難関大学を受けるのは、だいたいA群の生徒だ。

 ただ、学校側は、習熟度別のクラス編成はあくまで生徒の授業内容への理解度を深めるための措置で、大学合格の実績づくりのためではないことを強調している。

東海高校・中学校長の林道隆氏

 子を持つ親としては、大学進学実績は大いに気になるところだが、東海の掲げる教育方針は、仏教精神に基づいた自立した個性豊かな人材の育成。難関大学合格はその結果の一つに過ぎないというわけだ。林校長も、「人間教育は数字ではない」と強調する。

元首相、哲学者 建築家にプロレスラーも

 実際、東海のOBは偏差値だけでは計り切れない個性派ぞろいだ。テレビなどでおなじみの人物だけでも、水玉模様のネクタイがトレードマークだった海部俊樹元首相をはじめ、文化勲章を受章した哲学者の梅原猛さん、建築家の黒川紀章さん(故人)、プロレスラーのサンダー杉山さん(同)、ジャーナリストの木村太郎さん、スタジオジブリの代表取締役プロデューサー、鈴木敏夫さん、直木賞作家の大沢在昌さん、現在、テレビに引っ張りだこの予備校教師でタレントの林修さん、東大受験指導塾「鉄緑会」会長で東大医学部出身の冨田賢太郎さんなど多士済々。多くの著名な医師も輩出しているが、高須クリニックの高須克弥院長もいるなど、とにかくキャラの立つ人が少なくない。

 もっと若手だと、いま話題のメルカリ創業者の山田進太郎会長や、VOYAGE GROUPの宇佐美進典社長などの有名起業家もいる。ミリオンセラーの「うんこ漢字ドリル」を始めヒット作を連発している文響社の山本周嗣社長らがいる。ついでに言うと、山本さんはB群だったと本人自ら公言している。

カヅラカタ歌劇団もある

 こうしたユニークな人材を輩出してきた東海の人間教育を象徴するイベントの一つが、毎年秋に開かれる東海高校演劇部による「東海高校カヅラカタ歌劇団」による宝塚歌劇の上演だ。

「東海高校カヅラカタ歌劇団」のポスター=東海高校の提供写真

 カヅラカタは宝塚を逆から読んだもの。もともとは文化祭の出し物の一つとして2003年から始まったが、男子中高生が宝塚歌劇を上演するという突飛なアイデアと、ダンスや衣装などのレベルの高さが評判となり、やがて文化祭から独立。上演回数も2回に増やした。2012年には民放テレビがドラマ化して話題となり、昨年は、元宝塚歌劇団雪組トップスターの一路真輝さんが観劇に訪れてニュースとなった。毎年大人気で、チケットは、なかなか手に入りにくいプラチナチケットとなっている。

 年2回開催している「サタデープログラム」も面白い。各界の第一線で活躍する人たちが講師を務める公開市民講座で、02年以降、毎年開催。企画から講師との出演交渉、イベントの告知、当日の進行にいたるまで、すべて生徒が中心となって行う。そのための実行委員会も、やりたい生徒たちが自ら組織。上級生が下級生に電話の掛け方からパンフレットの作り方までノウハウを伝授しながら、準備を進めて行く。

 講座数は毎回50前後と多く、ユニークな講座が目白押しだ。今年6月のプログラムでも、将棋の加藤一二三さんによる「将棋界のレジェンド『ひふみん』が語る将棋の話、人生の話」や、円谷プロダクション元社長の円谷英明さんが講師を務めた「国民的ヒーローから学ぶ著作権ビジネスと海外進出の難しさ」、林正彦国立天文台長の「宇宙はどうなっているか?」など、興味深いテーマが並んだ。

 カヅラカタ歌劇団もサタデープログラムも歴史は浅いが、いずれも昔からの東海の自由な校風を体現している。林校長は「個性は枠を作ってしまうとなかなか伸ばせない。枠にはめないよう自由な環境を作ってやり、生徒の活動を妨げないことが大事」と生徒の活動を後押しする。

水練会で絆強まる

 東海はOB同士の絆の固さでも知られる。地元出身者が多いのも理由の一つだが、林校長が「まさに東海の伝統」と力を込めて語る「水練会」の存在がある。

 水練会は、中1の7月に三重県伊勢市で行う4泊5日の臨海学校で、1911年から続いている。目玉は最終日の遠泳。全員がふんどし一丁になり、足の着かない恐怖や慣れない波や潮の流れと戦いながら、隊列を崩さずに、顔を水から出したままの平泳ぎで75分間(泳力のない生徒は、浅瀬で1000メートル)泳ぎ切る。「水練会は、東海生になるための通過儀礼。この集団生活を経験して初めて東海生になる」と林校長。水練会には多くの上級生が助手として参加し、後輩たちの面倒を見る。こんなところからも、縦横の固い絆が生まれるようだ。

国公立医学部に121人

東海中学の授業風景=同校の提供写真

 17年の大学合格実績は、東京大学が30人、京都大学が36人、地元の名古屋大学は63人と、ライバルの愛知県立旭丘高校と競う。しかし、国公立大学医学部医学科の合格者数は実に121人と、全国トップの実績だ。しかも名大の合格者のほぼ半数は医学部だ。東大理科1類や同2類よりも合格基準が高いといわれる旧帝大の医学部に多くの生徒が進学。東海生は「東大よりも医学部」という意識が強い。

 東海OBは「お医者さんの息子が多く、半数近くは医学部志望。名古屋人は地元愛が強い。一生地元で暮すなら医者という発想でしょうね」という。

 東海は今年度、生徒数の減員に踏み切った。中学はそれまでの1学年400人から同360人に。それに伴いクラスの数も10クラスから9クラスに削減。高校受験組が加わるため中学より生徒数が多い高校も、数年後には現在の1学年約440人から同400人に減る。

 私立校にとって経営にも響きかねない規模縮小を決断した理由について、林校長は、「従来の規模のままでは、設備面でも教員の面でも時代の変化に即し、かつ高いレベルの教育を生徒に与えてやることが、だんだん難しくなるため」と説明。その上で、「例えば、IT教育やアクティブラーニングなど時代の要請だと思うものはどんどん取り入れていく一方で、時代に流されない教育をすることも大切。そのあたりは懐深くやっていきたい」と抱負を語る。東海は来年、創立130年を迎える。不易流行の考えで変化の時代に挑む構えだ
(猪瀬聖)[NIKKEI STYLE 2017年10月1日付]

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