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池上彰の大岡山通信 若者たちへ未来を創る教養とは(上)
「学び」にムダなんてない

池上彰 authored by 池上彰東京工業大学特命教授
池上彰の大岡山通信 若者たちへ 未来を創る教養とは(上)「学び」にムダなんてない
ICU高校提供

池上彰・東京工業大学特命教授

 国際基督教大学(ICU)高等学校に通う高校生から依頼の手紙が届きました。「高校生の学び、教養について一緒に考えてほしい」という内容でした。そこで今回と次回は「未来を創(つく)るために今から学ぶ教養」と題する同校での生徒たちとの対話の一部をご紹介します。初回は、「学校時代の勉強が何の役に立つのか」という疑問への答えです。

私が高校や大学に通っていたころ「死ぬまでに一度は海外へ」という夢がありました。当時は1ドル=360円。外貨の持ち出し制限もありました。多くの日本人にとって、海外旅行は夢のまた夢だったのです。

◇ ◇ ◇

 ジャーナリストになり、世界82カ国・地域を取材してきました。海外取材に英語は必須です。留学や海外勤務の経験はありませんが、NHK記者時代から、NHKの英会話テキストを少しずつ読み続けてきた結果、なんとかなっています。

 私が小学生のころにあこがれていた職業は「新聞記者」でした。地方記者の仕事ぶりのドキュメントを読んでワクワクしたからです。中学生になると「気象予報官」に変わります。子どものころというのは実にたくさんの夢があるものです。

ところが、高校生になって大きな壁にぶち当たります。高校で数学が苦手になってしまったのです。気象庁の予報官になるには、数学や物理など理数系科目に強くなくてはならないからです。

一方、高校の政治経済の授業では経済の仕組みを学び、とても興味が湧きました。日本は1964年開催の東京五輪を経て、高度成長の道をひた走っていたころです。格差が拡大し、「成長の歪(ゆが)み」という言葉も出ていました。

「豊かさとは何だろう」。そんな疑問への答えを見つけ出すため経済学部を選びました。志望大学の受験科目には数学がありましたが、入るために猛勉強。なんとか克服したのです。

池上教授は「未来を創るために今から学ぶ教養」をテーマに生徒たちと対話した(11月8日、東京都小金井市)=ICU高校提供
 

 高校で受験勉強に追われていた当時、「こんな勉強をしていて将来、一体、何の役に立つのだろう」と感じていたことを覚えています。ところが不思議なものですね。社会に出てから、意外な発見が何度かありました。

◇ ◇ ◇

 たとえばNHK記者時代、気象庁で地震の原稿を書くとき、マグニチュードが1大きくなると地震のエネルギーは32倍になることを知りました。この変化の仕組みは、数学の「対数」に基づいています。

その後、2005年にNHKを辞めてフリーのジャーナリストになってからのこと。複雑な情報を整理するには「共通項を見つけて括(くく)り出す」という因数分解の考え方が役立っていることを知ります。

高校生のころ、苦手で楽しくはなかった科目でも、必死に学びました。覚えた知識が後の人生で役に立つのかわかりませんでしたが、いま花開いたのです。

以前、東京工業大学の先生方と米マサチューセッツ工科大学を視察して驚いたことがあります。「先端的知識は、4~5年後には陳腐化してしまう」。だからこそ「考え抜く力、答えを見つけ出す力を養うことが大切だ」と指摘されたのです。

まさに「すぐに役に立つことは、すぐに役に立たなくなる」のです。「こんなものが何の役に立つのか」という疑問を持ち続けていると、やがて自ら答えに到達します。
[日本経済新聞朝刊2017年11月20日付、「18歳プラス」面から転載]

※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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