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普通の公立高が大化け
京大合格率上げた堀川の探究科
京都市立堀川高校の恩田徹校長に聞く

普通の公立高が大化け京大合格率上げた堀川の探究科京都市立堀川高校の恩田徹校長に聞く

 急速に進学実績を伸ばしてきた京都市立堀川高校。今や京都大学の現役合格率では、公立高校としてはトップクラスだ。1999年に「探究科」というユニークな専門学科を新設すると、2002年には国公立大学の現役合格者が前年の約20倍となり、「堀川の奇跡」と呼ばれた。普通の公立高校を一気に全国有数の進学校に変えた探究科とは何か。京都市中京区の堀川高校を訪ねた。

信長ゆかりの地で堀川の奇跡

京都市中京区にある市立堀川高校

 京都の中心街、地下鉄烏丸線の四条駅から徒歩10分のところにある堀川。実はこの地は織田信長が明智光秀に討たれた本能寺が実在した歴史的な場所でもある。改革者と呼ばれた信長ゆかりの地で、21世紀の学校改革モデルとなった堀川の奇跡が起こったわけだ。

 堀川には週2回、探究基礎という授業があるが、1~2年生は相当の時間と労力をこれに費やす。10月10日、堀川は秋休みだったが、校内の自習室にはたくさんの生徒がいた。高校3年生の女子生徒に探究基礎について尋ねると、「地学ゼミに入り、カミナリの研究をやっていました。ピカッのあれです」とニコッと笑ってこう答えた。

 日に焼けた高校1年生の男子生徒は、「宇宙関係の探究基礎をやります」と話す。この生徒は「ぜひ探究をやりたい」と考え、中学3年生のときに堀川の恩田徹校長にわざわざ話を聞きに来たという。宇宙分野の探究をスタートして「京大の物理工学科に進みたい」とすでに志望大学と学科まで決めている。

あえて二兎を追う

 恩田校長は「探究とは、簡単に言うと、知りたいことをどんどん探っていくことです。1つのことを探究していくと、高校のレベルで止まらず、大学の水準も突き抜ける。それを我々はサポートするだけです。一方で大学入試のための勉強もガンガンやります。あえて二兎(にと)を追うのです」という。

秋休みにもかかわらず、自習室にはたくさんの生徒がいた

 堀川の授業は前期と後期に分かれている。10~12日はその中間の秋休みだ。入学すると、まず自らが何を探究するかを考える。前期には研究テーマの設定の仕方や、活動の進め方、論文の書き方、参考文献の引用のやり方など、探究の「型」を学ぶ。

 後期から9つに分かれたそれぞれのゼミに入る。ゼミは国英数や物理、化学など従来の科目に即した形で構成されるが、1年の1~2月ぐらいに研究テーマを徹底的にもむ。ポイントは「絶対にオリジナルの研究テーマでなくてはいけません。大学の研究論文かなんかのコピペではダメです」と恩田校長は強調する。

 そのために教員に加え、地元の大学院生などを「ティーチング・アシスタント(TA)」として活用している。生徒9人に1人のTAが付き、ダメ出ししたり、アドバイスしたりと生徒をサポートするのだ。

京都の研究者がサポート

京都市立堀川高校の恩田徹校長

 この点、堀川には地の利がある。市内には京大だけでなく、同志社大学や立命館大学などもあり、とにかく研究者が多い。しかも「研究に没頭して行き詰まっている時に、好奇心旺盛な高校生と話すと、いい頭の体操になると評判を呼び、募集人員以上にTAが集まるようになりました」という。

 生徒たちはそれぞれの研究について、教員やTA、生徒間で討議してテーマを深めてゆく。自分たちで考え、話し合い、論文などにまとめる。恩田校長は「最初はサポートしますが、テーマが決まると、生徒たちが勝手に探究するようになります」という。9つの既存のゼミ以外にブラックホールやバイオテクノロジーなどをテーマにした自主ゼミも生まれた。

 恩田校長は「探究に時間を割かれるので、国英数など従来の主要科目の授業はスピーディーにやります。だから生徒たちは忙しいです。一見損しているように見えるかもしれませんが、探究に目覚めた生徒はものすごい『エンジン』を持つようになります。自分の研究をさらに究めるには、京大のA研究室に行こうとか、いやその分野は東大や阪大の方が進んでいるとか、大学進学のモチベーションがものすごく上がるんです」という。結果的に探究力は京大など難関大への受験突破力も高める。

 3年生になると、探究の時間はいったん棚上げにして、受験勉強に専念する形としている。「高2までは探究と通常の勉強の両輪ですが、高3から受験勉強一本となるので『受験の方が楽や』とよく言っています。探究を継続するため、大半の生徒が合格可能性が20%以下と判定されても志望校をかえずに挑戦します」(恩田校長)

京大、現役合格率はトップクラス

 堀川の1学年の定員は240人。探究科は160人で、普通科が80人。この探求科の卒業生が初めて出た02年には国公立大学の現役合格者は、それ以前の5人前後から約20倍の100人を突破。17年の合格実績では、国公立の現役合格者は129人となった。

 このうち京大の合格者は45人で現役合格は32人。学年の生徒数に対する現役合格率では、公立高でトップクラスだ。さらに東大にも14人(現役は12人)が合格した。ちなみに京大合格トップ校は洛南高校(京都市)で69人。ただ、洛南の1学年の生徒数は堀川のほぼ倍の規模だ。

 以前の京都は私立王国だった。かつてはノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士などを輩出した府立洛北高校(旧制時代は京都府立一中)が京大合格トップ校として知られたが、ミッション系の洛星高校、仏教系の洛南高校といった私立校が順次台頭。公立高校の進学実績はさえなかった。

 しかし、市民から「京大に行けるのは所得の高い家庭の子供が通う私立ばかり。公立の子は不公平だ」という声が上がり、京都市教育委員会による高校改革がスタートした。ただ、多くの関係者からこんな注文が付いた。「単純に進学実績を追求する市立高校では存在意義がない」

 そこで学校現場と市の教育委員会が議論を重ね、導き出した答えが「大学受験だけではなく、学問を探究する学科をつくろう」だった。とはいえ、市立高校は9校しかなく、教員などの人材も豊富ではない。東京都の場合、都立復活が話題になったが、これは約1万人の都の教員のうち有能でやる気のある先生を日比谷高校や都立西高校など重点校に集めたことが大きい。

カープ方式で教員養成

 「京都市の場合は、(一昔前の)ジャイアンツのように4番バッターばかりを集めてチームをつくるなんてできません。ウチは今いる教員を育成する広島カープ方式でいこうと。『自分の子供に行かせたい高校をつくろう』とまず教員の意識改革を迫り、ゼロから人材を育てました。そこに探究したいという意識が高い生徒が来ると、教員も応えはじめたのです」という。しかし、伝統的な進学校でもない堀川になぜ生徒が集まったのか。

 「そこは目利きを得意技とする京都人ですね。『マネシ(人まね)』が嫌いで、進取の気質。探究科という日本初の試みなんていいやないか、挑戦しようかというムードが起こり、生徒が徐々に集まってきたのです」という。

ベンチャーも支援

 京都はベンチャーの街でもある。京セラの稲盛和夫名誉会長の稲盛財団のほか、堀場製作所やロームなどの創業家一族も「面白い学校や」と様々な支援をした。スーパー・サイエンス・ハイスクールの運営委員会には堀場厚会長兼社長らが参加、ロームが図書館のランプを寄付するなどしている。

 10月10日午前、休日を返上して図書館に3人の女子生徒が集まった。11月11日に開く中学生や保護者向け学校説明会のプレゼンテーション資料を作成している。説明会には、生徒100人あまりが参加するという。「自分らで探究とは何か、中学生らに伝えたいと。教員の出る幕はありません」と恩田校長は笑う。

堀川高校の隣にある本能寺跡の石碑

 「信長はイノベーター。本能寺の変ゆかりの地で堀川が誕生したのも不可思議な縁」と、堀川には全国の学校関係者が視察に押し寄せている。探究モデルの学習法を導入する高校も増えている。

 この3人の生徒に「探究は大変ですか」と家庭での学習時間を聞くと、「3~4時間ぐらいですかね」という。恩田校長が「堀川はしんどいやろ」と突っ込むと、笑ってうなずくだけ。もちろん探究と日々の学習の二兎を追うのは容易ではない。ただ、堀川ではこれを「楽しんどい」というそうだ。
(代慶達也)[NIKKEI STYLE 2017年10月22日付]

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