企業情報の探し方(中) 水増し初任給に注意!
就活リポート2019(2)
前回は年収の調べ方について説明しましたが、今回も就活生の関心が高いお金の話、初任給の見方についてです。初任給の表記については国からの指導もあって、適正な表記が多くなって来ましたが、まだまだグレーな表記をしている企業もあります。今回は初任給を見る際の注意点について説明します。
初任給と基本給の違いは?
前回紹介した就活を終えた学生に実施した調査で、就活生が入手したくても入手できなかった企業情報に関して次のような声がありました。
「初任給を掲載している企業は多数あるが、基本給まで明記している企業となると数が減ってしまう」
皆さんは、上記の学生さんが指摘している「初任給」と「基本給」、この2つの違いが分かるでしょうか。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(初任給)」では、初任給を次のように定義しています。
通常の所定労働時間、日数を勤務した新規学卒者の所定内給与額(所定内労働時間に対して支払われる賃金であって、基本給のほか諸手当が含まれているが、超過労働給与額は含まれていない。)から通勤手当を除いたもの
基本給については労働政策研究・研修機構の「就労条件総合調査」で次のように定義しています。
賃金の中で最も根本的な部分を占め、年齢、学歴、勤続年数、経験、能力、資格、地位、職務など労働者本人の属性又は従事する職務に伴う要素によって算定され支給される賃金で、原則として同じ賃金体系が適用される労働者全員に支給されるものをいう。
家族手当、住宅手当、通勤手当など、労働者本人の属性又は職務に伴う要素によって算定されるとはいえない手当や、一部の労働者が一時的に従事する特殊な作業に対して支給される手当は基本給とされない。
初任給と基本給の2つの関係は次のようになります。
初任給=基本給+諸手当(時間外・通勤手当は含まない)
ところが、就活サイトなどでは以下の例1のような表記が多く見られます。
上記の初任給を正しく表記すると、次のようになります。
初任給=基本給(16万9000円)+諸手当
固定残業制があり、25時間まで一律3万1000円で、25時間を超えた分は別に支給します
固定残業代を悪用するブラック企業
初任給の表記については過去にいろいろな問題がありました。具体的には、固定残業代を初任給に含めていることを説明せず、金額を大きく見せる水増し初任給を記載してる企業が多くあったという問題です。
例えば、「就活サイトなどには"初任給25万円"として求人をしていた企業に就職したが、実際に働き始めたらいくら残業しても残業代が増えない。よく調べたら固定残業代8万円(80時間)が含まれていた」といったような話です。固定残業代とは、あらかじめ決まった時間分の残業代を支払う制度です。通常であれば決まった時間を超えた分は追加で支払わなければなりませんが、固定残業代のみで何時間でも働かせるのがブラック企業なのです。
こうした事態を重く見た国は「青少年の雇用の促進等に関する法律」(若者雇用促進法)という法律を2016年3月1日から施行、この法律に基づいて「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主、特定地方公共団体、職業紹介事業者等その他の関係者が適切に対処するための指針」が定められました。そこには以下のような文言があります。
そして固定残業代を導入している企業の給与に関する表記は以下のように記載することを求めています。
固定残業手当(時間外労働の有無にかかわらず△時間分の時間外手当として□□□円を支給)
※時間外労働が△時間を超えた場合には別途支給します。
就活サイトでは先に説明したように固定残業代を明記しているものの、固定残業代を初任給に含めいる企業が多く見られます。また、例2をご覧ください。これも実際に就活サイトに掲載しているケースです。
これは基本給に固定残業代を含んでいると思われるケースです。これが正しければ、基本給は14万8000円になってしまいます。このように、初任給に関しては見かけを大きくする水増し初任給を記載している企業がまだまだあります。皆さん、初任給の数字だけに惑わされることなく、初任給が何で構成されているのかまで見るようにしてください。
日経HRコンテンツ事業部長、桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科非常勤講師。91年入社。高齢者向け雑誌編集、日本経済新聞社産業部記者を経て98年より就職関連情報誌・書籍の編集に携わり、2005年日経就職ナビ編集長、2015年日経カレッジカフェ副編集長、2018年から現職。著書は『これまでの面接vsコンピテンシー面接』『マンガで完全再現! 面接の完璧対策』『面接の質問「でた順」50』など。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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