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池上彰の大岡山通信 若者たちへ未来を創る教養とは(下)
教育はいつか役立つ財産

池上彰 authored by 池上彰東京工業大学特命教授
池上彰の大岡山通信 若者たちへ 未来を創る教養とは(下)教育はいつか役立つ財産
ICU高校提供

池上彰・東京工業大学特命教授
 

 今回も国際基督教大学(ICU)高等学校で行った「未来を創(つく)るために今から学ぶ教養」と題する対話の一部をご紹介します。若者たちから寄せられた悩みや疑問に、私自身の経験や取材をもとにお話ししました。

 生徒A 高校生が教養を身につけるのは難しいです。授業や受験勉強に追われ、部活動もある。忙しくて心の豊かさを見失っていると思う。

 池上教授 部活動の先輩と後輩の関係、恋愛で振られるといった人間関係も心を豊かにしてくれる経験じゃないのかな。

 生徒B 教養を身につける上では、やはり知識の多さが大切なのではないでしょうか。

 池上教授 教養は基礎的な知識の積み重ねがあって初めて磨かれるものでしょう。たとえば外国の歴史や文化を知り、知識が結びついていく過程で、人々の価値観や人生観への理解を深めていけるようになると思うよ。

 生徒C 教養を効率的に身につける方法はないのでしょうか。

 池上教授 そうした考え方がそもそも失敗のもとだよ。例えば中国の明の時代、鄭和(ていわ)という人物がインド洋、アフリカ大陸まで開拓していた。コロンブスの一行が米大陸に到達するより1世紀近く前のこと。

 中国の歴史を学んで何になるかと思うかもしれないけれど、中国が南シナ海に人工島をつくり、実効支配する海域を広げている背景には、習近平(シー・ジンピン)国家主席が、そんな偉大な中国を復活させたいという願いがある。ニュースの背景を理解するために歴史は欠かせないよ。

 生徒D 高校では知識を覚えることばかり。図形に例えれば、僕たちが学んでいることは平面的なイメージです。池上先生の教養は立体的にみえる。受験勉強をしない方が教養を身につけられるのではないですか。

池上教授は生徒たちとの対話で、「学べることは幸せなこと」と語りかけた(11月8日、東京都小金井市)=ICU高校提供 

 池上教授 私が都立高校に通っていたころ、英語の参考書に「牡蠣(かき)のように寡黙な人」という例文が出てきました。英語で牡蠣には「寡黙な人」に例えられるイメージがあることを初めて知った。「寡黙な人」という英文を使ったことはないけれど、知識を有機的に結びつける力を養うきっかけでした。

 いま君たちは高校でたくさんの知識を学んでいます。蓄積された知識が、やがて化学反応を起こし、新たな知識の体系を築くことができるはずだよ。それが教養を磨くことにつながるのです。

 20年近く前、ベトナムで若者たちが一生懸命に本を読む姿を見ました。50年くらい前の日本に来た外国人は、通勤電車で、本を読む人が多いのを見て驚きました。同じような風景でした。活字を読む人々が多い国は大きな成長を遂げました。

 最後に、海外取材で「学ぶということについて」考えさせられたエピソードをご紹介します。

 フィリピンではゴミの山から資源を集めては売り、労働力として生きる子どもたちがいます。そんな貧しい地域で生まれ育ち、ボランティアの支援で学ぶことができ、教師になった若者がいました。彼が語ってくれました。「私にとって教育とは決して人に盗まれることのない財産です」と。

 君たちも、いまこうして学べることがどれだけ幸せなことであるか考えてみてください。そして、教育という財産を積み立てていることを知ってほしいのです。

[日本経済新聞朝刊2017年11月27日付、「18歳プラス」面から転載]

※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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