「誕生日サプライズ」で身に付く社会人力って?
大学のトリセツ(4)
ゼミも終了時間に近づき、ディスカッションのまとめに入っていました。そのときのことです。教室が突然、真っ暗になりました。何事でしょうか? すると、教室の後ろからロウソクに火を灯したケーキをそっと抱えたゼミ生が入ってきました。
その瞬間、バースデーソングの合唱が始まります。お祝いのクラッカーが鳴り響くこともあります。誕生日を迎えたゼミ生がローソクの火を消すと、メンバーからのお祝いメッセージが手渡されます。海外に留学中のゼミ生からビデオメッセージが届くことも。
大学という空間に身を置いていると、このような和やかなサプライズ企画に遭遇することがあります。みなさんも誕生日サプライズはやったことありますよね?
誕生日サプライズは仕事力!
実は、この誕生日サプライズを通して身に付く3つの力があります。そして、その3つの力は、社会に出てからもみなさんの武器になるというお話をしたいと思います。
まず、誕生日サプライズを行うときに欠かせないのが日程です。お祝いする友人の誕生日を間違えてはいけないですし、サプライズするタイミングや場所も考えますよね。日程と場所が決まれば、サプライズを決行するための段通りを決め、それを計画的にかつ段階的に準備をしていくことになります。
こうした過程で身につくのが、(1)秘密裏に準備をしていく計画的な実行力です。
サプライズは1人ではできません。日取りと段通りが決まれば、それを仲間に共有していきます。みんなの連絡ツールだとLINEのグループでしょうか。LINEのグループでは当日の段通りやサプライズ内容を共有します。
さらに、それぞれにアイデアを出し合って、それを収斂させ、一つの企画にまとめあげていきます。このようにして、(2)まわりを巻き込むチームワーク力が身に付いていきます。
そしていちばん肝心なのは、どういうサプライズなら友達が喜んでくれるかを考えることです。誕生日を祝ってあげたいと思う大切な友人の立場にたって、どんなサプライズやプレゼントだと、相手が喜んでくれるのか、頭を悩ませますよね。
このときにみなさんは、相手の立場にたって、相手の喜び=ニーズを探り出す趣味や嗜好、生活状況の分析――を行うことになります。この準備の過程で身につくのが、(3)喜ぶコトやモノを見つけ出す相手に寄り添う洞察力です。
実は、誕生日サプライズを通じて身に付くこの3つの力はみなさんが社会に出て働くようになると必要とされる、(1)計画的な実行力、(2)仲間と仕事をしていく調整力、(3)顧客や市場の分析力と重なる部分が多くあります。
さらに、付け加えておくとコストの面ももちろん考えますよね。友達が喜ぶからといって、何万円もするプレゼントを贈ったら、今度は友達もそのお返しを考えなくてはなりません。サプライズにコストをかけすぎては、友達を喜ばせるために、自分の首を絞めるというようなことにもなりかねません。自分たちの身の丈に合った金銭感覚の中で、相場を決め、そのなかで相手を喜ばせるベストな企画をつくりあげるのです。
「サプライズ」で成長しよう
ただし、この誕生日サプライズ企画と社会人の仕事の大きな違いが一点あります。それは、誕生日サプライズが「非日常のイベント」であるのに対して、仕事で求められるのは、「日常のルーティンワーク」であるということです。
言ってみれば、誕生日サプライズを行うときの「計画的な実行力」「相手の立場に寄り添う洞察力」「チームワーク力」を日頃から意識し続け、「複数のプロジェクトを同時に行っている」のが、社会人なのです。
だからといって、毎日のように誕生日サプライズを企画しましょうといいたいのではありません。そこで3つの力を他の事柄にも日常的に適応させていけばいいのです。
たとえば、大学生にとって「日常のルーティンワーク」である講義への参加に適用してみましょう。先日、2年生のクラスで会社研究のプレゼンを行いました。このプレゼンは次のように準備できるのではないでしょうか。
(1)プレゼンの日時とプレゼン時間から逆算して計画的に準備を進める。
(2)プレゼンを聞く他の学生にとって、「何がプラスとなるのか」を徹底的に考え抜いた構成にする。プレゼンとは自分が調べたことをそのまま伝えることではありません。相手が聞きたいという内容を想像して、自分が調べ上げた事柄から相手に届けるストーリーを紡ぎ上げるのです。
(3)プレゼンを聞いているメンバーが前のめりになり、みんなで考えようと思うような、集団を巻き込む内容にしていく。
みんなの日常に3つの力を養うサプライズを埋め込むことで、まわりのみんなと楽しみにながら成長していくことができるのです。そんなことを頭の片隅において、あなたも大切な友人を喜ばせる素敵なサプライズをプロデュースしてみてください。
法政大学キャリアデザイン学部准教授、デジタルハリウッド大学客員准教授。博士(社会学)。1976年生まれ。一橋大学社会学研究科単位取得退学、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校大学院社会学研究科客員研究員を経て現職。著書に『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(ちくまプリマー新書)など。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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