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liberal arts-大学生の常識

「ありがとう」と「リスク」

榊原健太郎 authored by 榊原健太郎サムライインキュベート社長 
「ありがとう」と「リスク」

 起業に関するイベントで登壇すると、こんな質問を投げかけられる。

 「起業はリスクだと思うが、どのようにして不安を乗り越えたのか」

 私はそんなとき、こう問い掛けている。

 「皆さんは、何のために生きていますか」

 多くの方は答えに窮する。そこで「他人からなんて言われるとうれしいと感じますか」と尋ねる。すると「ありがとう」という言葉がすんなりと会場から返ってくる。

 なぜだろうか。「自分の存在意義を一番感じられる言葉だから」といった理由が多い。私はここからさらに「ありがとう」の意味を尋ねることにしている。「有り難し(めったにない)」という本来の意味とは別の意味だ。それは漢字で書いてみると一目瞭然だ。

 「有り難う」。つまり「リスク(難)が有る」と書いて「ありがとう」になる。人はリスクをクリアすることで存在意義を感じている。生きることそのものがリスクなわけであり、起業や新しいことに挑戦することもその中に含まれている。

 起業や新しいことに挑戦することは、たくさんの「難」に遭遇することでもある。チャレンジすることを選んでいる人は精いっぱい生きていると言える。

 それでは「難が無い」人生はどのようなものなのだろうか。それについて、こんな研究結果があるそうだ。

 子ども時代にストレスを与えられて育った大人たちがいる。彼らの子孫はストレスがそれほどない環境で育っても、ストレスへの耐性が強く、寿命も長くなる傾向があるという。

 起業や新しいことにチャレンジすることは、確かにストレスがある状態ではある。だが、そうした経験を通じて培ったストレス耐性は、自分たちの子孫に遺伝するというのがこの研究結果から導き出された仮説だ。

 こう考えれば、今の自分が挑戦しないことは、子孫にリスクを与えていることになる。今生きている一人一人が少しでもチャレンジを選びリスクを乗り越える努力をすれば、ストレス耐性の強い子どもたちが生まれる。それは新たな未来を創ることにチャレンジする人が増えることでもある。

 私は改めて参加者にこう問いかける。「有り難い人生と無難な人生では、どちらがいいですか」

 すると大概の人は「有り難い人生」と答える。やはり人は無意識のうちにリスクをとって生きていると思う。

 日本は敗戦という大きな「難」をクリアしたからこそ、経済大国になれたのだと思う。

 起業や新しいことに挑戦することが自分だけではなく、将来の日本や世界、人類に対してどのようなインパクトを与えるのかを考えてほしい。未来の世界を生きていく子や孫たちのために。
[日経産業新聞2017年11月6日付、日経電子版から転載]

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