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人生を経済学で考えよう(10)交代? 続投? 監督在任期間が伸びると成績は…

人生を経済学で考えよう(10) 交代? 続投? 監督在任期間が伸びると成績は…
authored by 慶應大学 中室牧子ゼミ

 こんにちは。慶應義塾大学中室牧子ゼミナールの中村真優子です。スポーツでは、チームが負けると監督の責任を問う声があがります。その結果、監督が交代させられることもあります。その一方で、良い成績を出しているチームでは、ずっと同じ監督が指揮をとることもあります。

 しかし、監督をすぐ変更すること、ずっと続けさせることは本当にチームにとって最善の選択なのでしょうか。今回は「チームの勝率が最も高くなる監督の在任期間」について検証したいと思います。

 そもそも、監督はチームにとって重要なのでしょうか。経済学には、データを使ってチームスポーツの勝率にどのような要因が影響を与えているかを分析するものがあります。ブラッド・ピットが主演した「マネーボール」を思い出した方も多いでしょう。

なぜ「逆U字」になるのか

 過去の研究においては、チームスポーツの勝利にはコーチや監督の力量が重要だということを示すものもあります。この研究に先駆けて、ビーチバレーのプロ選手でオリンピックにも出場経験のある朝日健太郎参議院議員にインタビューしたところ、「選手の肌感覚としても、監督の果たす役割は極めて重要」だというお話でした。

インタビューで。左から朝日健太郎参議院議員、中村真優子、中室牧子。

 しかし、先にも述べたように、「監督がよいからチームの勝率が高い」(監督→勝率)のか、「チームの勝率が高いから監督が続投しているのか」(勝率→監督)については、慎重に判断しなければなりません。これは両方の可能性があり、両方の仮説を支持する研究が存在しています。

 ただし、いずれであったとしても、監督の交代が短期的な勝率に結びつくことを示す研究は少なく、どちらかといえば監督の交代そのものの影響よりも、監督の在任期間が勝率に与える影響が大きいのではないかと考えられつつあります。

 スポーツの監督という文脈ではありませんが、経営者の在任期間と経営パフォーマンスの関係について面白い研究が行われています。ハリウッドの映画スタジオのデータを分析した研究では、映画スタジオの経営者の在任期間と経営パフォーマンスは逆のU字関係であることが分かっています。つまり、経営者の在任期間が長くなればパフォーマンスは良くなりますが、長すぎると逆に悪くなってしまうということです。

 逆U字関係になる理由として、就任した頃は一生懸命勉強したり行動したりするためパフォーマンスが良くなりますが、長くなりすぎると勉強したり行動したりすることを減らしてしまい、パフォーマンスが下がってしまうということが考えられています。同じことがスポーツにおいても考えられるのではないでしょうか。

 監督の在任期間に関する研究として、NBAのデータを分析した研究があります。その研究によると、チームのメンバーがどれくらいお互いを熟知しているかとメンバー間での連携が上手くいかないことによるミスは「U字」の関係にあるということがわかっています。すなわち、一緒にプレーしている期間が長くなるとパスなどのミスが減りますが、長すぎると新たなことや予期せぬことにチャレンジするため、ミスが増えてしまうということです。しかし、このU字の関係は監督の在任期間によって異なるということも示されています。つまり、監督の在任期間が長くなると、チームのメンバーがお互いを熟知していなくてもミスが起こりにくいという結果になっているのです。

最適な任期は4~5年!

 以上のことを踏まえて、私たちは日本のバレーボールリーグのデータを用いて、監督の在任期間がチームの勝率に影響を与えるのかという実証研究を行いました。その結果、監督の在任期間とチームの勝率は逆のU字関係になっていて、監督のチームへの在任期間が長くなると勝率が高くなる一方、長すぎると勝率が下がってしまうことが分かりました。

 最も勝率が高くなる監督の在任期間は、私たちの推計によるとだいたい4-5年とみられます。この結果より、良い成績が出なくてすぐ監督を変更すること、良い成績が出ているからといって同じ監督をずっと続けさせることは、チームにとって必ずしも最善の選択ではないといえるでしょう。

中室牧子・慶應義塾大学総合政策学部准教授は、教育経済学が専門。著書に『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。最新刊は写真の津川友介との共著『「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)

 また、監督の在任期間以外にも監督自身に選手経験があること、外国人監督であることなどがチームの勝率と関係あることがわかりました。しかし、男子チームと女子チームで分けて分析を行うと、男子チームの方が監督の在任期間などが勝率に大きく影響があることがわかりました。男女で、勝率に影響のある監督の要因が異なるということになります。そのため、男子チームではうまくいったからといって女子チームにも適用できる訳ではありません。その点には注意する必要があります。

 現在、スポーツアナリストという職業があるように、スポーツにおいてもデータの重要性は認知されています。しかし、選手やプレーに対するデータの活用が主で、監督の進退というのは結果に左右されることが多い印象です。監督に対して明確な評価基準がないという指摘もあります。日本のスポーツがより活性化するためにも、スポーツに関するデータ分析が進むことが期待されます。
(中室牧子・中村真優子)
協力:一般社団法人日本バレーボールリーグ機構

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