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曽和利光の就活相談室誰も守らない
就活解禁なんてやめてしまえ

authored by 曽和利光
曽和利光の就活相談室 誰も守らない就活解禁なんてやめてしまえ

 10月1日時点の内定率が92.1%(リクルートキャリア調べ)と、空前の売り手市場に見える今年の就活。だが、就活生の声を代弁する大学のとらえ方は違うようだ。リクルートなどの人事責任者として20年以上就活生を面接してきた曽和利光さんが学習院大学キャリアセンター担当事務長の淡野健さんと対談、ルールを守らない企業への辛辣な言葉が飛び出した。

学生がかわいそうだ

曽和 「3月広報解禁、6月面接解禁」のスケジュールが2年目に突入しました。18年卒の就活はどうでしたか。

淡野健(だんの・たけし)1985年学習院大学経済学部卒。リクルートで新規事業・総務人事採用、営業事業部門長を経験。スポーツ選手のセカンドキャリア支援会社の起業を経て、2010年同大学キャリアセンターに勤務。

淡野 やはり、2年連続で大手企業はルールを守りませんでしたね。経団連加盟の大手企業でも、3~4月は「質問会」や「インターンシップ」の名の下で、実質的な選考をしていました。表では「6月1日から内定出す」と言いながら、裏では一定の学生に5月から「内々定」を出しました。ある会社では6月1~4日の研修旅行に参加した人に内定を出す、ということをしていましたよ。

曽和 あるテーマパークの周りのホテルは6月1日は大口で押さえられていたとか。なんだかバブルのようですね。

淡野 これは完全に「内定拘束」です。解禁直後に他社の面接に行かせないようにしていたわけです。その後にある第1希望の会社の採用試験を受けたいのに、内定をもらった会社にいくべきかどうか、学生は迷うことになりました。かわいそうです。それだけではありません。6月より前に企業の人事が就活を終わらせろと強要するハラスメント「オワハラ」も、以前よりは減りましたが、学生からの相談がありました。

曽和 学生は大変だったんじゃないでしょうか。

淡野 本学では就職実態を学生に公開していますが、企業の「本音と建前」を知っている学生と知らない学生がいます。「面接は6月から」と信じているわけですから。それからメディアでは「売り手市場」という言葉がはやってしまって、それを真に受けた学生は「なんとかなるんじゃないか」と楽観視していました。親からも「売り手だから、いい会社に入りなさい」と学生に言っていたようです。昔も今も、大手は誰でも入れるものではありませんよ。

曽和 有効求人倍率は1.78倍ですが、5000人以上の大企業に限っていえば0.39倍。さらに人気の金融に至っては0.19倍ともいわれています。だから大半の就活生は受かりません。大手以外は確かに売り手市場ですが、大手は間違いなく買い手市場です。

電通とNHKしか受けない学生の末路

淡野 私は18卒のスケジュールは3クール制で構成されたと捉えています。6月の1週目までは「第1クール」。大手はこの時期で採用活動を終えます。6月の2週目から8月のお盆前が「第2クール」です。準大手から中堅が活発に動きました。あとは10月の内定式までが「第3クール」です。

曽和 同感です。超大手以外で戦略的な採用をやっている企業はこの第2クールを狙っています。例えば、上位校の学生の中には電通とNHKだけしか受けていない、というような自己過信する人が多くいます。そういう学生が第2クールに流れてきます。

 こういう学生は就活の戦略を誤っていただけで、基礎的な能力が高い人も多くいます。だから人の質という点でいうと、第1クールが「1軍」で第2クールは「2軍」ということは決してありません。だから企業にとって第2クールは「無競争でいい人が取れる」ともいえます。第1クールに大量に面接官を動員しても学生にドタキャンされるのが確実だから、動くのが無駄だ、としてわざと第1クールに採用活動をしない企業もあるくらいです。さて、学生はこのような第2クールが押し寄せてくることは理解はしていたんでしょうか。

淡野 理解していないでしょう。なぜなら我々キャリアセンターも含め、企業はもう少しルールを守ると思っていましたから。だからキャリアセンターとしても「建前のスケジュールに惑わされてはいけない」と19年卒には事前に強く言おうと思っています。うちの大学でもだいたい2割が第1クールで大手の内定をもらいました。しかしその中には、内定式に行ったんだけど「ちょっと違う」と悩んでいるケースがあります。

曽和 「企業ブランドだけでいったんだけど......」ってやつですね。大手企業のミスマッチというのはおそらくこういうところから起きるのでしょう。6月1日に「よーいドン」で選考が始まり、1週間くらいで学生もなんだかよくわからないうちに内定が取れてしまう。たまたま取っちゃったと。企業も短期間だったのでじっくり人を見ていません。

留年を勘定に入れないマジック

淡野 内定ブルーは究極的には留年することもあります。各大学が出す「就職率」は就職希望者に対する内定者の割合です。未内定で留年するとその年の就職希望者数が減りますので、おのずと内定率は上がります。大学によっては「就職率100%」とアピールしますが、実態を反映しているかというととても怪しいと思います。それにしても大手の人事担当者ってきちん採用しているのでしょうか。

曽和 きちんとしているところもあると思いますが、やはり大手は買い手市場で、特に大手金融は粗いと言わざるを得ません。たくさんの学生が受けに来るので、適当にふるいにかけても「まあまあいいやつが取れる」。だからおのずと選考手法を磨いていこうという感じにならないのです。特に1次面接などの初期選考で出てくる面接官は、面接のトレーニングを積んでいない素人が多いです。

キャリアセンターには学生の生の声が集まってくる(東京都豊島区の学習院大学)

淡野 採用プロジェクトなどとして入社間もない社員も借り出されていますね。

曽和 面接に慣れていない面接官は、学生に何を聞いていいかわからないから「好きな食べ物は何か」「自分を動物に例えると何」のような、変な質問をします。そうすると学生が「好きな食べ物を聞かれたぞ」なんてネット上に書き込むものだから、ほかの志望者も悩んでしまいます。

淡野 もう、誰も守らないので面接解禁日なんてやめてしまえばいいのではないでしょうか。とはいえ、面接開始が際限なく前倒しになると学業に支障をきたすので、例えば「採用広報の開始は3月」くらいはルール化し、あとはいつでも自由に面接できたり内定を出したりできるようにするというのはどうでしょうか。

曽和 そうですね。経団連企業ですら時期に関係なく面接し、内定を出していますしね。外資やベンチャーなどは正面切って通年採用すると言っています。

自社や競合ばかり 学生を見ていない

淡野 私は採用活動は「正々堂々とやろう」と言いたいです。世の中、ルールがあるんだったらルールを守りましょう、と。現在の仕組みでは、学生は混乱するだけです。守れないんだったらルールを改正するか、撤廃するか考えるべきです。

曽和 企業は「ルールを守っている」と言いながら6月より前に選考をしていました。でも「これは『面接』ではなく『面談』だからね」のように企業としてはルールを守っている形を取らなくてはいけない。いい学生を取ることが人事の最重要課題ですから、人事担当者も仕方なくウソをつくわけです。社会に出る前の大学生に「本音と建前」という大人の事情を早速見せつけるというのもなんだかおかしいですね。

淡野 そうですね。今の制度のままでいくとしても、ルールを守れないのであれば、いっそディスクローズ(開示)するのはどうでしょうか。例えば「○○商事は経団連加盟企業だけど、4月から選考を開始します」と。「なぜ」と言われたら、「済みません、『6月選考解禁』というのはルールじゃなくて『指針』と当社は判断しています」と言えばいいだけの話ですよ。

曽和 むしろ「正直だ」とその会社の評価は高まるかもしれません。

淡野 この国は次世代の若者を育てなくてはいけません。現在、企業はどこを向いて採用しているかというと、自社や業界、競合なんじゃないですか。本来は学生を見て採用しなくてはいけません。

曽和 そもそも就活スケジュールが今の形に落ち着いた根本の理由は、学生の学業を阻害しないようにということでした。淡野さんがおっしゃるように、企業も本音では学生のための採用活動をしたいと思っているはずです。「6月選考」の制度を続けるにしても、説明会や選考を、授業がある平日の日中だけでなく、土曜日や日曜日、夜間にも実施するとか、地方の学生にも公平に機会を与えるためにネットの動画を活用するなど、企業はもっと工夫をしてもよいはずです。

曽和利光(そわ・としみつ)
 1971年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルート人事部ゼネラルマネージャー、ライフネット生命総務部長などを経て2011年、主に新卒採用を対象にしたコンサルタント事業の人材研究所を設立。著書に「就活『後ろ倒し』の衝撃」(東洋経済新報社)、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」(明日香出版社)などがある。

[日経電子版2017年10月31日付]

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