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重力波にノーベル賞
日本も宇宙から次めざす

重力波にノーベル賞日本も宇宙から次めざす

 米国の研究チームが初めて捉え、今年のノーベル物理学賞の受賞対象となった重力波。日本でも検出を目指して「重力波望遠鏡」と呼ばれる巨大な観測装置を建設したが、初観測は米国に譲った。次のターゲットは宇宙の始まりとともに発生した重力波を捉えることだ。より巨大な重力波望遠鏡を宇宙に打ち上げて観測しようと、欧州や日本などが動き始めている。

日本独自の「DECIGO」構想 宇宙で原始重力波キャッチ

 欧州宇宙機関(ESA)が計画を承認したばかりの宇宙重力波望遠鏡「LISA」は2034年の打ち上げが目標だ。米航空宇宙局(NASA)とも協力して3基の宇宙観測機を打ち上げ、250万キロメートルの間隔で三角形の編隊を組みながら太陽の周りを周回する。レーザー光を使って宇宙観測機の間に生じるわずかな距離の変化を検出し、重力波を見つけ出す。

 こうした巨大な重力波望遠鏡を宇宙に建設する計画は欧州や米国だけではない。日本では独自に「DECIGO(ディサイゴ)」と呼ばれる構想が検討されている。中国でも同様の構想がいくつか提案されているという。

初めて重力波を検出した米ルイジアナ州のLIGO(Caltech/MIT/LIGO Lab )

 ノーベル賞の対象となった米国の重力波望遠鏡「LIGO」が初めて観測した重力波は、約13億年前に2つのブラックホールが合体するときに発生したものだった。欧州や日本が宇宙から観測をめざすのは、宇宙が誕生した直後に発生したと考えられている「原始重力波」だ。

 宇宙は誕生してから約138億年たったと考えられているが、これまでは宇宙が誕生して約38万年たった後のことまでしか観測できていない。しかし重力波を使えばそれより前の宇宙が観測でき、誕生から1秒以内の様子もわかると期待されている。この誕生直後の原始重力波を捉えることができれば、ノーベル賞級の成果だ。

 今年のノーベル賞が決まった研究チームが使ったLIGOは、4キロメートルの真空チューブを2本組み合わせ、レーザー光を使って重力波の影響で生じる距離のわずかな変化を調べた。しかし原始重力波はとても波長が長いため、捉えるにはより巨大な重力波望遠鏡が必要だ。地上に建設するのは難しいと、宇宙に観測装置を打ちあげて巨大な重力波望遠鏡を作ろうというわけだ。

生まれた直後の宇宙の様子を観測

 日本のディサイゴは、LISAとは異なる波長の重力波を高感度で捉えることを狙っている。国立天文台重力波プロジェクト推進室の阿久津智忠助教は「観測の邪魔になる加速度ノイズがLISAより約50倍静かなものを目指している」と話す。LISAと同様に3基の宇宙観測機で構成するが、観測装置の方式や観測する重力波の波長の違いから、宇宙観測機の間隔は1000キロメートルとLISAより短い。

 打ち上げは、LISAが計画する34年よりも少し遅いおよそ20年後が目標。実現すれば宇宙が誕生した直後に発生した重力波のうち周波数0.1ヘルツのものを捉えることができ、生まれた直後の宇宙の様子を観測できる見込みだ。

レーザー光を利用して距離のわずかな変化を測り、重力波を検出する(想像図、ESA提供)

 LISAは同様に宇宙の誕生直後に発生した重力波のうち周波数が1000分の1ヘルツの重力波を捉える計画だ。宇宙の始まった直後の重力波という点では同じだが、重力波の発生する時間がほんの少しずれている。「2つの観測を合わせると、宇宙が誕生時に急速に膨張したインフレーションの理論の中で、どれが正しいかがわかるかもしれない」と阿久津助教は期待する。

 もちろん、3基の宇宙観測機を間隔を保ちながら編隊飛行させ、重力波を観測するには高い技術が必要だ。ESAはLISAによる重力波観測が可能なことを確かめるために15年に実験機「LISAパスファインダー」を打ち上げて、技術的な検証を行った。このLISAパスファインダーによる実験が順調に進んだことが、LISAの計画承認につながった。

宇宙なら1日に何百回も観測が可能

 重力波は、物体がもつ質量などによって生じた時空のゆがみが、波のように伝わる現象だ。物理学者のアインシュタインが、自らの一般相対性理論に基づいて1916年に存在を予言したが、観測は極めて難しいと考えられ、長年「アインシュタインの最後の宿題」ともいわれてきた。

 重力波は、光や電波と違って何ものにも遮られずに宇宙を光速で伝わっていく。これまでの望遠鏡では知ることができなかった誕生直後の宇宙の様子やブラックホールなどの観測に役立つと期待されていた。

 ブラックホールの合体や原始重力波だけでなく、重力波を観測することで中性子星の合体や超新星爆発の様子など、様々な天体現象の観測が可能になる。LIGOや日本のKAGRAなど地上の重力波望遠鏡で重力波を捉えられるのは1年に10回程度だが、宇宙重力波望遠鏡ならば1日に何百回も観測できると期待される。ダークマター(暗黒物質)やダークエネルギーの正体解明など、物理学者や天文学者が頭を悩ませる現象の解明につながる可能性もある。
(科学技術部シニア・エディター 小玉祥司)[日経電子版2017年10月6日付]

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