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夢は青くて巨大な鉄の塊(4)どこでもドアも近い!?
~テレプレゼンスロボットの可能性

夢は青くて巨大な鉄の塊(4) どこでもドアも近い!?~テレプレゼンスロボットの可能性
authored by 大澤正彦全脳アーキテクチャ若手の会設立者・フェロー、慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程

 誰もが欲しがるドラえもんのひみつ道具の1つ、どこでもドア。近い将来どこでもドアに夢見た、瞬時にいろいろな場所に行ける技術が広まるかもしれません。

どこでもドア

 たとえばアメリカでは、テレプレゼンスロボットという遠隔操作型のロボットを利用して、家にいながら会社で仕事する試みが始まっているそうです※1。体は家にいるものの、テレプレゼンスロボットに"乗り移る"ことで、瞬時に出勤することができるのです。

 今回は2回目の連載で少しだけ触れた、テレプレゼンスロボットのお話をさらに深くしたいと思います。テレプレゼンスロボットが広まれば、より一層便利な世の中になりますが、ドラえもん自身を作りたい私にとっては、ある別の見え方をしています。

どこでもドアになりうる技術、テレプレゼンスロボットとは

 テレプレゼンスロボットは、簡単に言えばテレビ会議システムとロボットが組み合わさったものです。Skypeなどで会話ができる上に、会話相手と同じ空間を自由に移動することができるので、まるで遠隔操作者がその場にいるような感覚になれます。理論的には、ロボットがある場所であればどんなところにでも瞬時に行けるわけですから、どこでもドアを使って私たちがやりたいと思っていたことが部分的に実現できているように思えるわけです。

 これまで、テレプレゼンスロボットは様々なタイプのものが開発されてきました。最も一般的なのは、タイヤの上にポールが伸びていて、1.2m~1.8mくらいの高さにタブレット状の端末が搭載されているタイプのものです。ちょうど、人と同じシルエットになるように工夫されています。このタイプのロボットは広く商品化されていて、比較的安価です。

Doubleというテレプレゼンスロボット

 一方で、別のタイプのテレプレゼンスロボットでは、コミュニケーションをとることに重きを置いて、テレビ会議よりも円滑にコミュニケーションできるシステムが開発されています。VR(Virtual Reality)にも利用するヘッドマウントディスプレイという装着型のディスプレイで映像を届けたり、特殊なマイクで本当にその場にいるような感覚で音を届けたり、コントローラーではなく自分の体を動かして、ロボットがその通りに動くようにしたりと、臨場感を高めて"まさにその場にいる感覚"を強める研究が行われてきました。

テレプレゼンスロボットのもう一つの魅力

 もう一つ、私たちが注目しているテレプレゼンスロボットの魅力があります。それは、ロボットがまるで人のように扱われるということ。例えば、私が所属している慶應大の今井研究室では、TEROOSという肩乗り型のテレプレゼンスロボットを開発しています(写真参照)。肩乗り型なので、例えば家を出られないご老人でも、ご家族にTEROOSをつけてもらえれば、一緒に出かけることができます。

 しかし、それだけではありません。ただのネットワークに繋がった鉄と樹脂の塊のようなものが、周囲の人に人として扱われるのです。もちろん装着している人は、TEROOSを遠隔操作している人として扱いますし、例えば買い物に出かけた時は、店員さんがTEROOSをお客さんと認め、接客し、お辞儀をするのです。

TEROOSという肩乗り型のテレプレゼンスロボット

ロボットの社会的価値

 ロボットのことを研究していると、いつもぶつかる壁は、ロボットの社会的地位の低さです。人は、"どうせロボットだから"といってロボットを人と全く違う扱いをします。当然と思われるかもしれませんが、ロボットが人と同じように扱われることを目指している私たち研究に携わる立場のものにとっては、頭を悩まされる問題なのです。時には、実証実験の最中に街行く子供達にロボットがいじめられることもあります。

 ところがTEROOSは、いじめられるどころか、人として敬われるわけですから、いかにそれが特別か伺えます。テレプレゼンスロボットは、ロボットが人と同じように扱われ、高い社会的地位を獲得する1つの解になるかもしれないのです。

人の振る舞いを学習する半自律テレプレゼンスロボット

 人間のように扱われるとはいえ、もちろんテレプレゼンスロボットの背後に人がいるわけですから、本当の意味でロボットが人のような社会的価値を獲得したかと言われれば、大いに疑問です。ところが、テレプレゼンスロボットが遠隔操作者の操作や価値観、振る舞い全体を学習し始めて、徐々に自分で動くようになっていったらどうなるでしょうか。遠隔操作者は徐々に操作する必要がなくなってきます。すると、ロボットがほとんどひとりでに、まるで今まで操作を行っていた人間のように振る舞い始めるはずです。

 するとロボットと接する人はロボットが自動的に動いているのか、遠隔操作者が操作しているのかがわからなくなってきます。たとえ遠隔操作者が操作を完全にやめてしまっても、ロボットは人間のように振る舞い続け、周囲の人々はそのロボットを人のように扱い続けます。本当の意味で人のように扱われるロボットが実現できるかもしれないのです。

 さらに、テレプレゼンスロボットは人の振る舞いを学習しやすいと言えます。本来であれば、人のようなふるまいは正解を作るのが難しいものでした。しかし、テレプレゼンスロボットであれば、遠隔操作者とロボットは、同じ情報を見聞きして、同じ体を制御します。これはロボットに、人らしい振る舞いの正解が与えられたようなものです。

遠隔操作者がテレプレゼンスロボットを操作

どこでもドアはドラえもんになれるか

 このままテレプレゼンスロボットに人の振る舞いを学習させ続けていけば、ドラえもんになるのでしょうか。きっと、何かしら近しい部分ができて、実現のための大きな示唆を与えてくれるのではないかと思っています。ただそれだけでできてしまっても、まるでコピーロボットのようで、ドラえもんとも言い難い気もしてきます。

 そうなれば、はじめて自分が何ができたらドラえもんかを考えた時に思った感情と記憶というところに立ち返ってみようと思います。次回の連載では、今まで触れていなかった記憶についてお話ししたいと思います。

※1 参考文献 米国で導入が始まった「テレプレゼンス・ロボット」(WIRED)