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liberal arts-大学生の常識

ノーベル賞学者の危機感 
東京大学宇宙線研究所 梶田隆章所長

ノーベル賞学者の危機感 東京大学宇宙線研究所 梶田隆章所長

 日本の研究力が落ちている。世界の主要国が論文数を増やす中、日本だけが伸び悩む。技術立国の復権に向けて何が必要なのか。2015年にノーベル物理学賞を受賞した東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長に日本の課題と改善策を聞いた。

 ――いま、日本の大学はどのような研究環境でしょうか。

ノーベル賞学者の梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長は、若手研究者の雇用安定を訴える

 「現場の実感として研究環境が悪化していると危機感を持っている。一番の問題は任期がない若手のポストが急激に減っていることだ。若手研究者の雇用が不安定になり、短期的な成果が求められる。一番柔軟な発想ができる時期に腰を据えた研究ができなくなる」

 「大学の基礎科学や技術の研究力が落ちていることはデータからも明確に読み取れる。大学が悲惨な状況であることを学生も敏感に感じていることを忘れてはいけない。大学院の博士課程に進学する人はかなり減っている。長い目で見れば日本をリードする人材を輩出できなくなっている」

 ――今後もノーベル賞を受賞するような研究成果を出せるでしょうか。

 「近年のノーベル賞は1980年代から90年代の仕事が多い。20年ほどたってから受賞する。現在どれだけ画期的な研究ができているかで20年後のノーベル賞が予想できる。個々の研究を全て把握していないが、一般的にはかなり心配だと言わざるをえない」

 ――中国など新興国が研究力を伸ばしています。

 「基礎研究においても中国の研究開発投資は非常に伸びている。韓国と日本を比べても韓国の伸びは大きい。国際学会でも中国や韓国などアジアからの参加者が増えている」

 ――日本の研究環境が悪化した原因はどこにあるのでしょうか。

 「最大の原因は国立大学の法人化以降に大学の基盤を支える運営費交付金が毎年1%程度削減されてきたことだ。しわ寄せで若手の安定的なポストが急激に減った。人は減るが業務量は変わらない。研究者1人当たりの仕事量が増え、研究に充てられる時間が減った。効率化というお題目はあるが、やれることには限りがある」

 ――政府は何をすべきですか。

 「資金を抜きにして解決はできない。年に1%程度減らしてきた運営費交付金を少しずつでも戻す取り組みが有効だ。産業化をめざした短期的な研究プロジェクトに多額を投じるよりも、大学の基礎力を回復させる方が長期的には有効だ。若手の安定的な雇用を増やす取り組みなどにも使える」

 ――研究力向上に日本の企業ができることはありますか。

 「一般に海外の企業は博士号を持った学生を受け入れる意欲が強い。日本だけが博士課程の人材が就職しにくい環境だ。日本の企業も博士課程を出た優秀な人材を受け入れて有効に活用できるようになってほしい」
(聞き手は清水孝輔)[日経電子版2017年11月3日付]

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