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お悩み解決!就活探偵団2018「選考解禁日」もうやめたら?

お悩み解決!就活探偵団2018 「選考解禁日」もうやめたら?
写真は本文と関係ありません
authored by 就活探偵団'18

 2018年卒業予定の新卒学生の就活において、企業の青田買いはやはり公然と存在していた。大半の企業は「6月1日選考解禁」というルールを守っているふりをしながら、選考したり、内々定を出したりしていた。学生は企業の表と裏の顔に翻弄されている。有名無実化した選考解禁日など、いっそやめたらいいのではないか。

イラスト=篠原真紀

 「今年はウチが早く始められたと思ったのに」。ある重工系大手の人事担当者は悔しそうに打ち明ける。昨年の採用活動はライバル社に出遅れ、「優秀な学生が軒並み持って行かれた」。人材を確保できなかったことは人事担当として失態だ。

 挽回すべく、今年は5月から「面談」と称する事実上の面接を始めた。だが、敵もさるもの。ライバル社はさらに早い4月から始めていた。「来年はいつ始めたらいいのか」。人事担当者は頭を抱えるが、そもそも彼らの先陣争いに「6月1日解禁を守る」という意識はないようだ。

 産業界においては、新卒者を特定の時期にまとめて採用する「新卒一括採用」が主流だ。その基となるのが、経団連が定める「採用選考に関する指針」。ここには選考開始は「6月1日以降」と明記されている。

 この指針の対象は、実は経団連会員企業だけではない。政府は、約450もの経済団体や業界団体に対しても同じ指針を要請。国内企業の多くが対象となっている。

 しかし、就職情報サービスのディスコ(東京・文京)の調査によると、全国の主要企業1339社のうち、6月よりも前に面接を開始した企業は85%にも上った。大半は守っていないのだ。

 理由は単純。「ルールは守らないとコンプライアンス上まずい」(大手メーカー)と分かっていても、「いち早くいい学生を確保したい」(大手食品メーカー)思いが先走っている。表向きは指針を守っているふりをしながら、水面下であくせく動くのだ。

 こうした「フライング選考」には様々なケースがある。ある経団連加盟企業の人事担当者は「インターンに参加した学生をその場で評価している」と明かす。

 経団連が示すガイドラインでは、インターンについて「採用選考活動とは一切関係ないことを明確にして行う必要がある」と明記している。しかし前述の人事担当者は「インターンでは学生と長時間顔を合わせる。活用しない手はない」。評価が高かった学生には後日、社員との個別面談の場を用意するという。

6月1日は「握手だけ」

 人気金融機関の内定を獲得した早稲田大の女子学生は、5月に呼び出され、数回の面接を繰り返した。5月中に内々定を獲得。6月1日は呼び出されたが、「面接官と握手しただけ」(女子学生)。選考解禁日は会社側が学生に意思確認する節目でしかない。

 中堅大学の男子学生は「面接は6月以降と聞いていたが、4月以降に突然面接に呼び出されることが多く、いつも緊張していた」と振り返る。

 また別の学生は「リクルーター面談だと聞いて出向いたら、後から面接だったと分かった。初めから言ってくれれば、もう少し準備したのに」とこぼす。

 「企業が優秀な学生に入社してほしいと思うのは当たり前だ」。大手日用品メーカーの採用担当者はそう主張する。この会社も6月よりも前に、選考を実施しており、「(経団連が)ルール順守を求めるというなら、違反企業への罰則など対応を厳しくすべきでは」とルールのあり方に違和感を示した。

 「きちんとルールを守っている」とする企業からは恨み節も漏れる。「『解禁日前の選考はどこでもやっている』という空気はいかがなものか」。三井住友海上火災保険の人事部・採用担当は、疑問を呈する。学生側にも「早く動きたい」ニーズがあるのは百も承知だが、「ルールがあるのだから、学生に求められても何もできないもどかしさがある」。同社は地方でのインターンシップを強化するなど選考の工夫を重ね、「売り手市場でも優秀な人材を獲得できた」という。

 多くの企業が守らないようなルールが、なぜ存在するのか。

 経団連の指針には「学生が本分である学業に専念する十分な時間を確保するため、(中略)早期に行うことは厳に慎む」と書かれている。学生の勉学を阻害しないように配慮して時期を定めたのが、ルールの原点だ。

政府は経団連を含む約450の業界団体に「6月選考開始」を呼びかけている

 企業にとってもルールを設ける利点は実は大きい。決まった一時期に採用や選考を集中させる方が、「採用コストが抑えられる」(大手メーカー)。内定者への教育も効率的に実施できる。

 一方で、新卒採用に詳しい人材研究所社長の曽和利光氏は「面接時に『この学生はライバル社の1次選考を通過したと言っていたから、きっと良い人材のはずだ』というような粗い選考になる場合もある」と指摘する。

 大卒社員の3割が入社後3年で会社を辞めるという状態が続いているが、こうしたミスマッチも、企業がきちんと学生を見極めて採用できていない証左ともいえる。

通年採用で「いい人材とる」

 選考はいつでも受け付けます――。主流の新卒一括採用と相反する採用手法が、1年を通じていつでも応募を受け付ける「通年採用」だ。

 「通常の採用フローでは出会えない学生にアプローチしたかった」

 15年から通年採用を導入しているソフトバンクの人事本部採用・人材開発統括部の源田泰之部長はこう説明する。

 もともと同社のエントリー数は毎年2万人台後半だった。通年採用にシフトした後は3万人を超えている。採用の機会が増えただけでなく、通年採用を機に、ソフトバンクが幅広い層の学生に訴求した結果でもある。

ソフトバンクの人事本部採用・人材開発統括部の源田泰之部長

 ソフトバンクは「携帯電話会社」というイメージを持つ学生が多い。しかし最近では米ライドシェア最大手ウーバーテクノロジーズへの出資を決めたことに象徴されるように、幅広い事業展開を加速している。

 そこで、就活情報会社が主催する合同説明会への出展回数は3分の1に減らす一方、人事担当者が大学の研究室やビジネスコンテストなどを訪問し、有望な学生に仕事の魅力を説明するやり方を強化した。これは通年採用の方が向いている。

 「従来なら米グーグルや日立製作所などの大手電機メーカーを志望していた、人工知能(AI)の知識にたけた人材が当社を選んでくれるようになった」(源田部長)。

 カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは留学帰国生などを意識して、入社時期を春と秋の2回に設定している。

 また、ユニリーバ・ジャパン(東京・目黒)は、大学1年生から既卒3年程度まで受けられるうえ、内定を獲得すれば最大2年間は入社する権利を保持できる。いったん他社への入社や進学などを選んだ後、再びユニリーバに変えるという選択肢も可能だ。

 そもそも通年採用は、留学経験者や既卒者など幅広い人材を受け入れるために使われていた仕組みだ。

 通年採用の企業は、必要に応じて年間に数回、採用の機会を設けるところが多い。新卒学生にとっては「希望する企業の採用スケジュールを把握する必要がある」「卒業と入社の時期にズレが生じることもある」といったハードルもあるが、メリットもある。

 何よりもルールに縛られた短期集中型の採用ではないため、他社と同時並行で受ける必要がない。希望する企業の選考に集中できるのはメリットのひとつだろう。企業にとっても、ライバル社を横目で見ながらの慌ただしい選考ではなく、じっくり学生の適性を見極められる可能性が高い。

 選考解禁日をなくしたら、採用の現場はどうなるか。通年採用への移行も解のひとつだろう。

 選考解禁日という指標がなくなることで、特にスケジュール面で学生の混迷は深まるかもしれない。それでも「企業と学生が正直に向き合う」ことの意義は大きいのではないか。

 現状のように守られない選考解禁日によって、学生が企業の「本音と建前を知る」ことが、社会に出る第一歩というのは、何とも寂しい限りだ。
(鈴木洋介、松本千恵、桜井豪)[日経電子版2017年11月21日付]

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