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難民が増えると犯罪は増加するのか

人生を経済学で考えよう(11)

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NIKKEI STYLE

2011年3月に勃発したシリア紛争がきっかけとなり、「難民」に関するニュースが日々私たちの目に飛び込んでくるようになりました。シリア紛争から逃れてきた3歳の男の子が、避難の途中で命を落とし、トルコの海岸に打ち上げられた写真が大きな波紋を広げたのは記憶に新しいところです。

シリアからの難民は年々増加し続け、今や500万人以上に及ぶといわれます。急増した難民はどこへ向かっているのでしょう。シリアの国境を越えた人々は海ルート、陸ルートを通じて中東諸国やヨーロッパ諸国に亡命します。この結果、ドイツ、ハンガリー、フランスを中心に、毎年数十万以上の難民が流入するという異常な状態となりました。ヨーロッパでの難民の急激な増加は「欧州難民危機」と呼ばれるようになり、世界的な注目を集めています。

難民と移民で異なる影響

こうした中、ヨーロッパ諸国では、急増する難民を追い出そうという動きが加速しています。たとえば、国民による難民の受け入れに反対するデモや受け入れた難民を追い出そうというデモが増加しました。世論の変化を受けて、ヨーロッパ諸国の複数の政府も反難民への動きに傾いています。スウェーデン、ノルウェーなどいくつかの北欧諸国が難民の受け入れを規制、国外追放を始めました。また、フランス、ポーランド等ヨーロッパ各地で反難民、反外国人の政策を表明する政党が台頭しており、国民の支持を得ています。

一方、ドイツでは当初メルケル首相が難民の全面的な受け入れを表明していました。しかし、現在は反イスラム・難民流入防止を掲げる「ドイツのための選択肢」という政党が民衆の支持を得ており、難民の流入規制をせざるをえなくなってきています。このようにヨーロッパの国民、そして政治が反難民の動きを見せていますが、どうして世論は反難民へと動いているのでしょうか。

理由の一つに「難民が増加すると犯罪が増加するのではないか」という懸念があります。しかし、現在、シリア難民が増加することによって犯罪が増加するという科学的な根拠が示されたわけではありません。

難民が増加すると本当に犯罪は増加するのでしょうか。経済学には、「移民の増加は犯罪の件数に影響を与えない」ということを示した研究が少なくありません。たとえば、ある研究では、メキシコからアメリカへの移民の増加は、アメリカ国内での犯罪には影響を及ぼさなかったということを明らかにしています。同様に諸外国からマレーシアへの移民の増加もまた、犯罪には影響しなかったことが示されています。

しかしこれらの研究は、働くことを目的として他の国に移動してきた「経済移民」に焦点を当てています。しかし、1951年の「難民の地位に関する条約」によると難民は「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々であり、移民とは明確に異なります。

これを踏まえてある研究では移民と難民が犯罪に与える影響を比較しています。ここでは1990年代後半~2000年代前半のユーゴスラビア紛争とイラク紛争による難民の増加という出来事と2004年のイギリスの労働市場の拡大に伴う移民の増加という出来事の二つの出来事で犯罪率の変化を分析しています。

すると難民と移民では、犯罪への影響が異なっていることがわかりました。難民の数が増加したときは窃盗犯が増加し、一方で移民が増加したときはどの種類の犯罪も増加しなかったのです。では今回、シリア難民の増加は、ヨーロッパ各国での犯罪の増加をもたらしているのでしょうか。

私たちはシリア難民が急速に増加している直近のドイツのデータを使用して、難民の増加が犯罪の件数に与える影響を分析しました。その結果、難民が増加すると窃盗犯、暴行犯の犯罪件数が増加することがわかりました。確かに、戦争等の危険な状態からいきなり命からがら逃げなくてはならなかった人々は大した財産は持ってくることができなかったと考えられます。経済的困窮が窃盗といった衝動的な犯罪に関与する誘因を作ったのかもしれません。また、紛争や迫害の経験により受けた精神的ダメ―ジのために、暴行のような行為に及んでいる可能性も考えられます。

日本はどうすればよいか

今回の分析では、少なくともドイツでは、難民の増加が犯罪の増加に影響しているという可能性が示されました。しかし、人道的な観点から、単純に難民の受け入れを規制したり、国外追放することが正しいことだとは思えません。むしろ、増加し続ける難民の受け入れを規制すれば、かえって不法入国などの新たな犯罪を増やす原因ともなりえます。実際に、過去の研究では、難民を追放する政策の実施によって、かえって犯罪件数が格段に増えたことが示されています。

ですから、難民の受け入れを規制するのではなく、難民を一時的な経済的困窮から救い出し、精神面のケアなども行うことによって、犯罪から遠ざけ、定住を促進するような政策をも同時に行っていくという方法もありえます。

足許の世界情勢を見ると、難民の増加が再び起こる可能性は十分にあり得ます。その場合、直感的に「難民が増加すると犯罪が増える」といった言説に惑わされるのではなく、どのように対処すれば問題を解決できるかを考えることが重要です。日本でももっと難民を受け入れるべきとの国際社会からの要請があるかもしれません。難民問題は遠くの国の出来事ではありません。みなさんも耳を傾け、真剣に考えてみませんか。

(中室牧子・川中萌)

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