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次世代イクメン、企業が育てる 「手伝う」→「担う」

次世代イクメン、企業が育てる 「手伝う」→「担う」

 男性社員が仕事と育児を両立しやすい組織づくりへ、取り組みを強化する企業が出てきた。若い世代に増える共働き社員の活躍や人材の多様性の実現には、男女問わず両立できる環境整備が欠かせないからだ。育児を手伝うイクメンから、育児を担う次世代イクメンへ。男性の育児参加は今度こそ進むのか。

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育休中も働ける試験運用を利用 MSDの梅田真史さん

育休中、自宅で資料づくりなどの仕事をするMSDの梅田真史さん(東京都江東区)

 製薬会社MSD(東京・千代田)のマーケティング部門で働く梅田真史さん(35)は7月末、三男が生まれた際に初めて育児休業を取った。休んだ期間は、有給休暇などを組み合わせて3カ月。妻の体調が回復するまでの1カ月弱は、子どもの世話も家事もほぼ1人でこなした。「この経験のおかげで、何でも分担できるようになった」と話す。

 育休取得へと背を押したのが、同社が試験運用していた育休中も働ける仕組み。一時的な業務が生じたとき、前日までに上司に連絡し、必要と認められれば就業できる。働いた時間分の給与も支払われる。「必要に応じて働けるので、休みやすかった」

 試験運用のきっかけは2015年、新潟の営業所でMR(医薬情報担当者)として働く笹子友範さん(39)が人事に寄せた相談だ。第1子の誕生で1カ月の育休を取りたいと考えていたが、ちょうど薬の発売など市場に動きがあるタイミング。顧客に迷惑をかけたくないと悩んだ笹子さんは「育休中でも、緊急案件があるときだけ勤務できないか」と人事部に掛け合った。当時、同社の男性の育休取得率は1割未満。「必要に応じ就業を認めることで男性も育休を取得しやすくなるなら」と人事は試験運用を決めた。

 必要な範囲で得意先訪問をしながら育休を取った笹子さんの事例を、人事は社内に積極的に発信。制度の周知を強化した。すると育休を取る男性はじわじわ増え、16年の育休取得率は23.4%になった。育休中の勤務は10月から正式に制度化。「多様なメニューを提供することで、自分らしく時間を活用できる働き方、休み方を社員に選んでほしい」と人事グループの松岡裕一郎マネージャーは話す。

育児負担の女性偏重、変わらず

 イクメンという言葉は浸透したが、日ごろの育児負担が女性に偏る実態は変わっていない。総務省が9月に公表した「社会生活基本調査(16年)」によると、6歳未満の子のいる夫の育児時間は49分。前回調査(11年)より10分増えたが、妻の育児時間は3時間45分と前回より23分も増えた。6歳未満の子のいる夫の育児行動者率は30.4%。7割の妻が育児を1人で担うワンオペ状態にある。

 「男性の育児参加を阻むのは、長時間労働をよしとする企業風土と、育児は女性の仕事という意識」と明治大学の藤田結子教授。早く帰って育児をしたいと思っても、周囲の目や評価を気にして言い出せない男性は多い。「企業が主導して男性が育児参加しやすい環境づくりを進めることが必要」と強調する。

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有給の短期育児休業制度でイクメン支援 三井住友銀行

 女性が対象だった両立支援の取り組みを男性にも広げ、意識改革を促す企業もある。

 有給の短期育児休業制度(10日間)を整備するなど、男性社員の育児参加支援に取り組む三井住友銀行。特徴的なのはキャリアと育児の両立について、夫婦で考える機会を複数設けていることだ。

 年3回開く「育休キャリア講座」は夫婦そろって参加できる。休日に開き、他社に勤める夫もOKだ。年1回の「パパママフォーラム」は、配偶者だけでなく祖父母も参加できる。管理職向けダイバーシティマネジメントセミナーは年2~3回開き、管理職の意識改革にも取り組む。

 「まったく問題ないよ、僕に任せて」。法人審査第一部の吉田悠祐さん(30)は育休取得を相談した際の上司の言葉に感激した。育休中の妻は同じ銀行の総合職。職場復帰と長女の保育園入園が重なる16年4月に1カ月の育休を取ろうと決意したものの、「周囲に迷惑を掛けてしまう後ろめたさがあった」。それが、上司の言葉で吹き飛んだ。

 フルタイムで復帰した妻に代わり、4月は吉田さんが慣らし保育や家事全般を担当。5月の復帰後は夫婦で忙しさを日々確認し合いながら、送り迎えや家事を分担する。

 「男性の意識が変わっても周囲が変わらないとだめ。周囲だけ変わっても、本人の意識が変わらないとだめ」とダイバーシティ推進室の金子元気室長代理は話す。意識改革と組織の風土改革、両輪の取り組みを続ける。

 「両立支援制度は整っていても、男性も利用できることを広く知らせ、実際に活用できる風土ができている企業はまだ少ない」。企業や自治体で夫婦間パートナーシップについての講座を手掛けるロジカル・ペアレンティングLLP(千葉県浦安市)の林田香織代表は指摘する。

 カギを握るのは自ら家事・育児を担ってこなかった管理職の意識改革。「組織のダイバーシティを向上させるには、社員に多様なライフを経験させることが有効だという意識を管理職層に浸透させること。加えて、働き方の見直しを急ぐ必要がある」

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職場の風土づくり重要 ~取材を終えて~

 男性社員の仕事と育児の両立に本気で取り組む企業に共通しているのは危機感だ。「家のことは妻に任せ、時間制約なしで働ける社員しか活躍できない組織では、この先成長できない」(大手商社の人事担当者)との認識の下、育休取得率アップにとどまらない、実効性のある取り組みを進めている。

 一方で、企業間の取り組みの格差は大きく、男性の育児参加への意識も様々だ。2016年の社会生活基本調査では、育児負担が依然女性に偏る実態が明らかになった。「女性にばかり仕事と育児の両立を頑張れというのでなく、男性も仕事と家庭を両立できるようにしてほしい」。数年前、子育てをしながら働く女性が取材で話した思いは今なお切実だ。

 厚生労働省の「仕事と家庭の両立支援に関する実態把握のための調査」(15年度)によると、男性が育休を取らない理由で最も多いのが「育休を取得しづらい職場の雰囲気」。重要なのは、育児に携わりたい男性が迷いなく行動できる風土づくりを企業が進めること。職場が変われば、男性の意識や行動も変わってくるはずだ。
(女性面編集長 佐藤珠希)[日本経済新聞朝刊2017年11月20日付、NIKKEI STYLEから転載]

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