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和える(aeru)の夢(2)ジャーナリストの夢を諦める勇気がなくて起業を選んだ

和える(aeru)の夢(2) ジャーナリストの夢を諦める勇気がなくて起業を選んだ
authored by 矢島里佳和える代表

 大学時代の3年間、全国の若い職人さんを取材する仕事をさせていただく機会に恵まれた私は、暮らしを豊かにしてくれる伝統に触れるうちに、こんなことに気がつきました。「日本に生まれて、日本で育っても、なぜか日本に出会えない。それが今の日本の課題だ」ということです。ジャーナリストを目指していた私は、どうしたら日本の伝統を一人でも多くの方に伝えられるのだろうか、と考えるようになりました。

夢をかなえる職業、探しても見つからず

 愛媛の砥部焼の職人さんとの出会いからヒントを得ました。子ども向けの器を作っていらっしゃったのですが、最初は知り合いの方のお子さんが誕生したのを機に、贈り物として作ったそうです。それが少しずつ広がり、定番商品となっていったという話を、取材の際に伺いました。

 なるほど。幼少期に知ることが出来れば、その後も自然と暮らしの中でに日本の伝統という選択肢が息づいていくのではないだろうか。そう私は考えたのです。「赤ちゃんや子どもたちに日本の伝統を伝えるジャーナリストになろう」。大学3年生の時にようやく自分自身がやりたい仕事に行き着くことが出来ました。

伝統産業の職人㊨と一緒に商品を開発(徳島・本藍染の工房)

 でも、どうやって伝えていこうか? 言葉や文字で伝えるのは難しいので、モノを通して伝えるジャーナリストになることを決めました。赤ちゃん、子ども向けの伝統産業品を生み出し、贈り届けることで暮らしの中で自然と日本の伝統に触れていたという子どもたちが増えたら、大人になって何かを選ぶ際の選択肢に当たり前に日本の伝統も入るようになるのではないだろうか。そう考えて職人さんとともに赤ちゃん、子どもたちが暮らしの中で必要なものを生み出す会社に就職しようと決めて就職活動をはじめました。

 しかし、どんなに探しても見つかりませんでした。自分がやりたいと思う仕事にようやく出逢えたのに、世の中に職業として存在していなかったのです。

大学4年で起業、和えるファミリー育む

 もしみなさんでしたら、どうしますか。私はいろいろと考えました。けれども、どうしても諦めきれませんでした。一生に一度の人生、いつ自分がやりたいと思えることに出逢えるか分かりません。職業として存在しないからという理由で諦める勇気がありませんでした。「もしここで諦めて適当に他の仕事に就いたら、なんだか適当な人生を送ることになりそうだ」とさえ感じました。人生を終える時、何かをやらなかったことで後悔することだけはしたくなかったのです。

 そこで、もう一つの選択肢を選ぶことにしました。自ら働く場所を生み出すことからはじめる「起業」という選択肢です。

 いくつかのビジネスコンテストに挑戦し、最終的に、東京都主催の学生起業家選手権というコンテストで優秀賞を頂き、その賞金で「和える」を立ち上げました。2011年3月16日、大学4年生の最後のときでした。

 私は会社を息子のように育んできました。法律の授業で、人間以外に人格を有するのは法人格のみであるという話を先生から聞いたことを覚えていました。そのとき、なるほどと思ったのです。法の人格を新たに生み出す。つまり、創業者は、お母さん、お父さんで、会社は赤ちゃんと同じだと考えたのです。創業者は親、会社は子ども、従業員は「和えるくん」のお兄さん、お姉さんです。お母さん一人で育てるのは大変なので、社会のみなさんの協力を得て、和えるくんを育んでいこうと思いました。

店で働く従業員たちは和えるという会社の家族

 従業員は和えるくんを育む仲間であり、和えるという会社の家族です。和えるくんは何歳になっても末っ子です。従業員は一緒に和えるくんを育むために入社します。従業員が1ヵ月の給与を得られるのは、会社で働いたからということではなく、和えるくんを育み、成長させることに貢献しているからなのです。商品を購入されるお客さまは「日本の伝統を次世代につなぐ」ということに共感し、お金を私たちに託されているわけです。

私はジャーナリスト、モノを通して伝統つなぐ

 末っ子の和えるくんの兄弟姉妹となる従業員は、まず自分が成長することが最も大切だと考えています。自分が良い状態でなければ、他人や社会に対して良い影響を及ぼすことは出来ないからです。だからこそ、個人の成長こそが結果として和えるくんの成長につながるのです。そして和えるくんを支えてくださっている全国の職人さんたちは、和えるくんの親戚であり、和えるという会社のファミリーなのです。

 日本の伝統を次世代につないでくださる職人さんが増え、和えるファミリーは毎年賑やかになってきています。2年に1回、和えるファミリーが集まる会も開催しており、本当に親戚が全国から一同に集まってくださるような感覚です。起業してから6年経ち、和えるくんは今年、小学1年生になったわけで、一歩一歩成長しています。

 連載を始めた前回、「起業家になろうとは思っていなかった」と述べました。ここまで書き進めて改めて思うことは、私自身に起業家という意識があまりなく、ジャーナリストであるということです。言い方を変えれば、会社のいちばんの目的は、お金を稼ぐことではなく、ビジネスという手法を用いて日本の伝統を次世代につなぐことです。だからでしょうね。周りから「矢島さんって起業家っぽくない」と、よく言われます。

 自分的な視点で職業というものを考えると、自分が最もやりたいことを体現できる社会的な職業に出逢えるのではないでしょうか。私のケースにあてはめると、前者がジャーナリスト、後者が起業家になるわけです。学生のみなさんも、まずはご自身と対話して、自分が何が好きなのかを探求してみてはいかがでしょうか。

やりがいから考える自分らしい働き方

著者 : 矢島里佳
出版 : キノブックス
価格 : 1,404円 (税込み)

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