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池上彰の大岡山通信 若者たちへグローバル社会を生きる(上)君たちが築く明日の世界

池上彰の大岡山通信 若者たちへ グローバル社会を生きる(上)君たちが築く明日の世界
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 一般の高校生や大学生を対象に、このほど立教大学で「グローバル社会を生きる」と題する講演をしました。今回と次回は、その講演の一部を紹介します。読者の皆さんと、国際情勢について考えるきっかけにできればと思います。

◇ ◇ ◇

 いま、日本の大学では、学生の教養や考える力を重んじる「リベラルアーツ教育」が注目されています。

 わたしは大学でジャーナリストの視点から国際関係や現代史を講義しています。ニュースを題材に、背景にある歴史を振り返り、先人の知恵、民族や宗教を知り、多様性を受け入れるなかで未来を見通す力を養ってほしいと考えています。これも若者に必要な「教養」の一つだからです。

 最近、米国のトランプ大統領によるエルサレムのイスラエル"首都"宣言が、世界に波紋を広げました。エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教という3つの宗教の「聖地」です。第2次世界大戦後の世界秩序を壊し、新たな紛争の火種を抱え込んでしまったといえるでしょう。

 宗教や歴史に対する「教養」が少しでもあれば、今回の宣言がいかに危険なものであるかわかるはず。歴代の米大統領も、あえて「あいまいさ」を残すことによって、微妙な国際関係に配慮してきたのです。

 トランプ氏には別の事情があります。自らの大統領再選への思惑です。この問題は大統領選でも公約として掲げていました。娘婿のクシュナー氏はユダヤ系で、娘のイバンカ氏もユダヤ教に改宗しています。トランプ氏の再選には、影響力が大きいユダヤ系人脈の支援が欠かせないのです。

高校生や大学生らに「教養を深めてほしい」と講演する池上彰氏(12月9日、東京都豊島区の立教大池袋キャンパス)

 この宣言の背景を少し大きな視点でとらえてみます。そこには「米国第一主義」に象徴される、世界には関心を持たないという自国中心の考え方があります。米国は経済力が衰え、世界への影響力の低下という現実に直面しているからです。

 これらはグローバル化がもたらした不利益という反作用として意義づけられます。規制緩和によって人、モノ、カネ、情報の移動が簡単になり、IT(情報技術)の進歩も世界規模の変化の流れを加速させました。

◇ ◇ ◇

 その経緯を歴史にたどれば、20世紀の終わり、東西冷戦の終結、ソ連崩壊に遡れます。第2次大戦後の大きな枠組みが崩れ去りました。その結果、米ソの強大な軍事力に抑え込まれてきた「民族」と「宗教」が大きな力を持ち始めたのです。

 グローバル化の反作用は、中東情勢の混乱や移民の大量流入に直面する欧州にも広がっています。英国はEU(欧州連合)からの離脱を決断しました。フランス大統領選では、移民排斥を唱える極右勢力が台頭しました。ドイツでも、移民問題を巡ってメルケル首相は難しい政権運営を迫られています。

 誰もグローバル化の流れを止めることはできないでしょう。その日本の針路は、若者たちに託されています。「グローバル社会を生きる」とは、単に英語を学び、留学してアメリカを知るだけではすまないのです。

 決して日本人の英語能力は劣っているわけではありません。異なる民族、宗教を越えて人間関係を築くためにも、英語で話せる文化・芸術分野の教養を深めてください。いま、高校や大学で学ぶことの大切さを知ってほしいと思います。
[日本経済新聞朝刊2017年12月18日付、「18歳プラス」面から転載]

※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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