知の民主化、仕掛け人はグーグル・カーの父

IT(情報技術)で教育を進化させる「エドテック」は、スマートフォン(スマホ)の普及を機に急速に浸透し始めている。使うのは受験生だけではない。先行する米国では、大学の講座など専門分野に特化したサービスも定着している。担い手のスタートアップは、やはり教育への強い情熱を持っている。
国境越えるオンライン大学

エドテックの先駆けとなったのが、米国でいち早く定着したMOOCs(大規模公開オンライン講座)だろう。名門大学が相次ぎオンラインで国境を越えて講座を提供しているが、その中で異色の存在と言えるのが西海岸シリコンバレーのスタートアップ、ユダシティ(カリフォルニア州)だ。
ユダシティのサービスには、人工知能(AI)や自動運転、ロボティクス、データ・サイエンスなど専門的な講座がずらり。無料講座も多いが、有料講座の履修者に発行される「ナノ・ディグリー(単位)」は、米国のテック業界では徐々に知名度を上げている。
創業者のドイツ人学者セバスチャン・スラン氏(50)は、シリコンバレーでは有名人だ。スタンフォード大学教授時代に自動運転車を開発し、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)が主催するレースで優勝した。
これを見た米グーグル共同創業者のラリー・ペイジ氏がスラン氏をスカウトした。スラン氏こそが世界が注目する「グーグル・カー」の生みの親なのだ。
ペイジ氏は極秘研究部門「グーグルX」の責任者にも、スラン氏を起用した。大学教授も兼務し「昼はグーグルXで仕事し、夜はスタンフォード大で教える生活だった」と言う。
ところが翌年にユダシティを設立し「三足のわらじ」を履くことになる。大学でAIのテストをしたところ成績上位者がことごとくオンラインで参加している生徒だったことから、MOOCsの可能性に気づいたと言う。
結局、ユダシティに集中するためグーグルを去った。「教育の"民主化"を世界で進めることに人生の限られた時間を使おうと思ったんだ」と言う。
ライバル交流がモチベーションに
日本でもエドテックの裾野は広がり始めている。例えば、スタディプラス(東京・渋谷)の個人向け学習管理アプリ「Studyplus」。自分がどこまで勉強したかを記録する機能に特化している。最大の特徴は専用SNSを活用した「友だち」との交流だ。
志望校などから同じような目標を持つ仲間を見つけ、モチベーションを高める。283万人の登録者のうち半分強を高校生が占める。英語能力テスト「TOEIC」などで社会人が活用する例も増えているという。
スタディプラスの2017年3月期の売上高は約3000万円。今年度は3倍程度を見込むと言う。大学や予備校からのの広告収入が大半を占める。
無料授業で利用者を広げたアオイゼミも広告収入が柱となるが、好きな時間に動画が見放題となる有料講座も収益を支えている。
ただ、やはり同社の魅力は無料のライブ授業にある。本社のスタジオで行う授業は講師とサポート役の二人三脚。ホワイトボードを使って解説する講師の目の前に、モニターなどを広げたサポート役が陣取る。
講師が授業を進めると、視聴する生徒はその場で質問を送ることができる。すべての質問に答えることができないためサポート役が内容をチェックし、他の生徒の理解にもつながりそうだと判断すると、モニターで講師に質問内容を伝える。
ライブの特長を生かして生徒と講師が双方向でやり取りすることで、スマホ画面を見ながら教室にいるような臨場感を出す仕組みだ。利用者のライブへの参加率は60%程度だという。
石井貴基社長も月に1度、「リアル進路相談」と称して登場し、その場で生徒の悩みに答えている。最近は大学や企業などのサポートを受けて特別授業を配信するなど、サービスの幅を広げている。
「スマホ家庭教師」のマナボのシステムも双方向型だ。音声、チャット、画像を駆使してチューターが生徒の理解を深めるからだ。
漫然と授業を受けるのではなく、自ら学習する過程で疑問を見つけ、それを解消するサービスのため、自然と生徒のレベルも上がっていく。課題は講師の質の確保だが、問題ごとの立候補制のため「チューター同士で競争原理が働くため、指導能力に問題があると淘汰されていく」(三橋克仁社長)。
日本ではまだ生まれたばかりのエドテック。少子化が進めば競争も厳しくなるはずだ。熱い志を胸に旗揚げした若き起業家たちの手腕が試されるのは、まだまだこれからだろう。
(企業報道部 杉本貴司)[日経産業新聞 2017年11月10日付、日経電子版から転載]
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