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政府の経済統計は正確なの? 実態とのズレも

政府の経済統計は正確なの? 実態とのズレも

 国内総生産(GDP)に代表される政府の統計について、「必ずしも実態を反映していない」という声があがっているらしいわ。見直しが進んでいるようだけど、どのように変わるのかな。

 統計改革の現状について前田裕之編集委員に話を聞いた。

――そもそも政府統計とはどういうものを指しますか。

賃金の指標である毎月勤労統計も対象入れ替えに伴うばらつきが指摘されている

 「日本の各省庁が継続して調べている統計は、600以上あるとされます。政府系以外にも、民間シンクタンクなどが統計を出しています。日本全体の経済活動を総合的に示すのが、内閣府が調べるGDPの統計です。前期などと比べた増減を比率で表すのが成長率で、速報は四半期ごと、確報は年1回発表します」

 「GDPの基となる主な統計には、各世帯のお金の使い道を調べる総務省の家計調査や、企業の経営実態をつかむための財務省の法人企業統計などがあります。企業は景気の動向を判断し、経営計画を立てる材料などに使っています」

――どうして見直すことになったのですか。

 「麻生太郎財務相が2015年10月の経済財政諮問会議で、消費や賃金といった統計の精度を高めるよう提案したのが一つのきっかけでした。麻生財務相が一例として挙げたのが家計調査です。家計調査は約9千世帯に家計簿をつけてもらっています。回答者が、こまめに調査用紙に記録できる専業主婦や高齢者に偏り、弱めの基調を示しやすいという趣旨の指摘でした」

 「エコノミストや経済学者も以前から、統計の問題点を挙げていました。法人企業統計は、資本金1千万円未満の企業の回答率が16年度で6割程度と高くありません。発表日の関係で、GDPの速報値ではなく改定値の段階でしか反映できず、GDPの改定幅が大きくなる原因にもなっています。賃金の指標である厚生労働省の毎月勤労統計も、調査する企業を2~3年ごとに入れ替えるため、前後の結果がかけ離れるようです」

――どのように見直しに取り組んでいますか。

 「麻生財務相に呼応した安倍晋三首相も16年10月、諮問会議で統計への信頼を盤石にする重要性に言及しました。政府は17年1月、菅義偉官房長官を議長とする統計改革推進会議を設置しました。諮問会議の民間議員である伊藤元重学習院大学教授や黒田東彦日銀総裁らが、見直しに取り組むことになりました」

 「あらためて浮き彫りになったのは、統計を取り巻く社会環境の変化です。家計調査のように、家庭のお金の出し入れを紙に書いて協力してくれる人は減る傾向にあります。個人情報保護法やマンションのオートロックも調査員を阻みます。予算や人員の確保も厳しく、国の統計職員は16年度、約1800人とじりじり減っています。ほかの国と比べると、15年で英国の約半分、米国の約7分の1という水準にすぎないようです」

――今後はどう変わっていきますか。

 「政府は17年5月、統計改革推進会議の最終報告をまとめ、見直し作業を続けています。やはり予算の確保は難しく、統計に関わるコストを3年間で2割削る方針です。統計の棚卸しを進め、対応します」

 「家計調査はICT(情報通信技術)を活用し、オンラインで家計簿をつけられるようにする方向です。法人企業統計はGDPの速報段階で反映できないか調べます。毎月勤労統計では18年から、30人以上の事業所の調査対象を2~3年ごとにまとめてではなく、1年ごとに順次入れ替えるようにします。GDPについては、住宅リフォームなど十分に反映していない分野の取り込みも探ります」

 「14年7~9月期のGDPがマイナスに落ち込んだのが決定打となり、同年秋に安倍首相が15年10月に予定していた消費税10%への引き上げを延期するなど、統計は国民全体の生活にも影響します。データの検証結果を考慮しながら政策を立案しようという機運は高まっています。国の統計を管轄する統計委員会の勧告機能などを強化する統計法改正案は、来年の通常国会に提出される見込みです」

■ちょっとウンチク
明治の先導者、統計を重視
 欧米から日本に統計の手法が伝わったのは、幕末から明治維新の時期である。福沢諭吉は日本の文明を進歩させ、欧米に追いつくためには統計が重要だと強調した。近代国家の基礎として議会の創設を求めた大隈重信の持論は「国政はすべて議論であり、その根拠は数字、統計である」。

 国を豊かにするには自国の状態を数字で把握し、他国と比べなければならない。日本が主要国の仲間入りをする過程で統計の整備が進んだ。統計改革推進会議のメンバー、学習院大学の宮川努教授は「各省庁が独自にデータを集計する分権型システムが完成したが、弊害も目立つようになった」とみる。政府は全体最適を考えながら不断の統計改革に取り組むしかない。

(編集委員 前田裕之)[日本経済新聞夕刊 2017年10月30日付、NIKKEI STYLEから転載]

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