牛を解剖、直腸には腕を入れ… 農学部畜産実習は驚きの連続
発信! 理系女子(21)
日経カレッジカフェ読者の皆さん、こんにちは。東北大学サイエンス・エンジェルの山田紗也です。私は東北大学大学院の農学研究科で、動物の生殖に関わる研究をしています。みなさんは農学部にどんなイメージをお持ちでしょうか? 私はよく「農学部? 農業してるの?」と聞かれます。確かに農業の勉強もありますが、私は農学部=「様々な分野から、食に関わる問題へのアプローチができる学部」だと考えています。そこで今回は、私が農学部で経験した講義・実習・研究について紹介したいと思います。
解剖実習のシュールな光景
農学部でも、1年生は物理、化学、外国語やプログラミングなどの全学教育科目が主でした。2年生になるとコース選択があり、植物や海洋、農業経済などを専門とするコースに分かれます。私は畜産を専門とする「応用動物科学コース」を選びました。それから家畜の種類や生理学、栄養学などを勉強する専門的な講義が増えました。3年生になると講義に加え、午後からは各研究室での研究内容に沿った学生実験がありました。
私たち動物コースで特有かつ印象的だった実験は、牛と豚の解剖実習です。牛の解剖の時に、強烈な臓器の臭いで倒れかけたのを思い出します。名称を覚えるために、皆で内臓や筋肉の写真を撮っていた光景もなかなかシュールでした...。RNA抽出や滴定、電気泳動、統計、菌の培養など、生物系で研究を行うにあたって必要となるであろう実験も広く経験しました。
チーズ作りも、人工授精も体験
春夏冬には、大学の川渡フィールドセンター(宮城県大崎市)での実習がありました。2200ヘクタールに及ぶ広さで、大学付属農場としては全国一の規模を誇っているそうです。この広大な農場で、それぞれ約5日間の実習を行いました。実習では、牛を追い込んだり、血液検査をしたり、ロープワークを学んだりしました。飼料作りや羊の爪切りも習いました。チーズ作りやバター作りなど、加工の実習もありました。
私は「家畜人工授精師」の資格を取るための実習もしました。この実習では、牛の直腸に腕を入れ子宮の頸部を探し当てます。これが直腸からはだいぶ奥の方にあって見つけにくいので、直腸に肩まで腕を入れて探してもなかなか見つけられずに大変でしたが、畜産系ならではの実習で貴重な経験ができました。
4年生になって、私は動物生殖科学の研究室に配属となりました。みなさんが食べている牛肉の多くは、優秀な遺伝子を持った雄ウシの精液を人工授精して生まれた牛のお肉です。そのため、精子生産を支えている精子幹細胞について調べ、質の良い精子をたくさん生産することで繁殖効率の向上を目指す研究をしています。
実験動物としてはウシより扱いやすいマウスを使用しており、遺伝子組み換えマウスの管理をしています。具体的には、マウスを交配し、生まれた子に目的の遺伝子が組み込まれているか確認したりしています。実験では、マウスの精巣を取り出して染色し観察したり、目的の細胞を分離したり、遺伝子発現のデータを解析したりしています。実験自体は、農業とは関係のないように思えるかもしれませんが、実は畜産に関わる研究なのです。
冒頭で「農学部=農業」というイメージがあるということを書きました。大学院に進学した今、学部時代を振り返ってみると、講義や実習を通して、確かに農業について学びました。しかしそれらは、農業に貢献する研究を行うための土台であると感じています。
次世代の研究者を目指す中高校生に「女性研究者ってかっこいい!」「理系って楽しい!」という思いを伝えるため、2006年に結成。東北大学の自然科学系10部局に所属する女子大学院生が、中学・高校での出張セミナーや科学イベントで科学の魅力と研究のおもしろさを伝えている。メンバーは宇宙・自然・ロボット・環境・ヒトや動物の身体のしくみなど、それぞれの専門分野で日々研究中。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。