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挑戦し続ける人(1)伊勢谷友介さん「将来の夢なんて語らなくていい理由」

挑戦し続ける人(1) 伊勢谷友介さん「将来の夢なんて語らなくていい理由」
撮影:三浦真琴(maco)
authored by 中野智哉株式会社i-plug代表取締役社長

 「いい会社に入る=幸せな人生」という固定観念は、完全に過去のものになりました。そもそも「いい会社」は、一人ひとり違って当たり前。さらに働き方や生き方も多様であってしかるべきです。ではどのような経験を積めば、自分らしい働き方や生き方を見つけられるようになるのでしょうか。学生時代に経験すること次第で、未来は違ったものになるでしょうか。

 この連載企画では、企業からオファーが届く就活サイト「OfferBox(オファーボックス)」を運営する株式会社i-plug(アイプラグ)の代表である私、中野智哉が"社会で活躍し、挑戦し続けるビジネスパーソン"にインタビューを実施します。インタビュイーには、OfferBoxで受けることができる適性診断を受けていただき、性格や行動特性を見ながら、学生時代や幼少期の経験から、現在の活躍に至るまでの道のりをうかがいます。学生の皆様の、これからの人生を生きるひとつの道標になることができれば幸いです。

伊勢谷友介(いせや・ゆうすけ) 俳優・映画監督・リバースプロジェクト代表。1976年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。大学在学中の1998年、ニューヨーク大学映画コースに短期留学、映画制作を学ぶ。1999年公開の映画『ワンダフルライフ』(是枝裕和監督)で俳優デビュー。2003年、初監督作品『カクト』が公開。2008年、地球環境や社会環境を見つめ直し、未来における生活を新たなビジネスモデルで創造するプロジェクト『リバースプロジェクト』をスタートさせ、制服のエシカル化を目指す「全日本制服委員会」、社会起業家を育てる「松下村塾REBIRTH PROJECT」、食品ロス削減に取り組む「"E"REGULAR FOOD」など多岐にわたるプロジェクトを展開中。また、2012年に「観客型民主主義から参加型民主主義へ」を掲げクラウドガバメントラボを設立

 第1回は映画監督、俳優、そして株式会社リバースプロジェクトのCEOとしても活躍されている、伊勢谷友介さんです。「映画監督」という夢が叶ったあと、夢なんていらなかったことに気づいた伊勢谷さん。その経緯をうかがいました。

「夢はあったほうがいい」と植え付けられた幼少期

――いきなり適性検査から入りますが、伊勢谷さんの結果を拝見しました。全体的にどの項目も高い結果ですね。特に考え抜く力が高く、規律性が低いことから、世の中の一般通念には縛られず、何が大切か考え実現していく力があるという結果でした。

 自分がどこに行きたいか設計できている人って、自分の何が悪いかわかってるんですよね。僕がこの結果になったのも、それっぽく考えて調整しながら答えたからだと思いますね。攻撃的なところもあるな、でも本当は攻撃的じゃないほうがいいけどな......とわかっていながら回答しています。

――かなり客観的にご自身を見てるんですね。でも、意図的にやるとエラーのような結果になるのでそうなっていないというのは、ご自身を表現しているところがあるのかもしれません。

 そうかもしれませんね。子供の頃、大人から「夢は何か?」と聞かれ、「夢はあったほうがいいものだ」と教えられてきました。空を飛びたいと思っていたので、パイロットと答えるようになり、さらに絵を描くのが得意だったので技術を伸ばすために芸大に進学。そこからアートとはなんたるものかを考えるようになって、映画に興味を持ち始めました。そこから"映画監督"という仕事を夢と捉えるようになりました。

 大学在学当時、僕はアルバイトでモデルをしていて、そこから俳優になり、そして努力して映画監督になりました。夢を達成した。じゃあそれで僕の命はOKか? 何もOKじゃない。夢を叶えた結果「で?」という感じだったんです。

――夢が叶わない人もいるけれど、叶ったらたしかに「それで?」となりますね。

 確かに映画は撮った。そうしたらもっと社会がすごく認めてくれるかと思ったら、そうでもない。その時はじめて、マーケットに目を向けました。映画を見る人の数、影響を与えられる人の数。そんなに多くはない。いい映画ってあるけれど、人生を変えられたかというとそうでもない。じゃあ実質的に変えられることはなんだろうって。

 そもそもなんのために生きているのか。そういう大事なことを教えられずに、夢を持つことが社会的な常識と教えられてきた。結局自分は叶えてみたけど、なんの糧にもなっていないことに気づきました。

地球上で一番ダサい生物、それが人間。ダサいままでは終われない

 2本目の映画を撮ろうかなと思っているときに、ぼんやり昼の月を見ていて、ふと「宇宙人の目線」で地球を客観視したときの"人間の生き方の形"というのが見えてきたんです。自らの命の存続というのは、内々から湧き上がる何か、DNAが望む何かです。DNAの設計図通りに生きると、うまく生き残るものとそうでないものが残る。

――種の存続ですね。

 そうです。でも、人間がどんどん増えてきて、便利さや利権を求めて、消費が地球の再生能力を超えた。それが宇宙人からみた現在の人間です。自分が存続できる方法を自ら奪っている、地球上で一番ダサい生物、それが人間。僕も人間の一人であるかぎり、ダサいまま終わるのはどうなのか。「カッコいい人間」を作るべきだと思ったんです。

――そこで夢、夢と言っているのは、たしかに感覚が全然違いますね。

 人類の存続のために、社会の最適化をしていくべきなんです。『君は必ず死ぬ。生きている時間はこれくらいで、統計学上これは絶対だ。社会を俯瞰的に捉え、良い方に変えていくことをしなさい』と教えてくれなかった世の中に疑問を感じるようになりました。だから、リバースプロジェクトを立ち上げたんです。

志で変える未来

――リバースプロジェクトでは、どのようなことをやっているのですか?

 衣食住にまつわることから始めました。サステイナブル(地球環境を保全しつつ持続が可能な産業)なものを使って、クリエイターと衣食住に関わるものを作り始めました。立ち上げるまでに5年かかり、会社も今9年目です。

――俳優業と会社の代表となると、スケジュール的にはどうなのですか?

 会社はもう一人代表がいるので、調整しながらやっていますね。俳優とリバースプロジェクトの代表をバランスを取りながら活動しています。俳優の仕事で考える部分は、社会と違って狭いです。自分のエゴでよくて。でもリバースプロジェクトはみんなのエゴを純粋に世の中のために良くするにはどうすればいいか考えているので全然違う所が楽しいですね。

――一本目の映画を撮った後がやはり転機だったんですね。

 そうですね。何のために生まれてきて、何を努力すればいいのか。本来は決まっているはずなのに誰も教えてくれない。例えば原発の話です。原発が必要ない世の中が一番いいと誰もがわかっているのに、何かと理由付けをして肯定してしまう。お金のこともそうです。預けているお金が、ミサイルを製造しているところに投資しされてたりします。個人としては平和主義者でも、それを当事者は知らないから成立しているんですよね。

 何が辛いかって、リバースプロジェクトとして社会に対してどれだけ考えていても、社会はまだまだ過去の価値観にしばられています。だから、持続可能な社会を牽引する「志」を持った人材を輩出するための「松下村塾リバースプロジェクト」というプロジェクトもやっています。やり続けることによって、少しずつ世の中が変わっていけばいいと思って。でも世の中は簡単には変わらないんですよね。コロンブスがすごいと言われていますがあれは当時の侵略行為ですし、中東の混乱も、実はその裏で欧米諸国が糸を引いてたり。いつまでもそんなことをやってるんです。

――常に片側からの視点になっているんですよね。取り合いをするとか、家族を守るとか。国を守るために何かを犠牲にするとか。

 「子供を守ることの何が悪いの」というモンスターペアレンツが問題になってましたが、ああいった人たちが不和を生んでいるように思います。本人たちは気づかないんですよね。与えるべきは、助ける気持ちと愛。ODAでいくらお金を使ったとしても、それをソーシャルインパクトにして結果を知ってもらえれば良いと思うんです。助けられたことを逆恨みするような国際的な意識なんて絶対出てこないですから。こういうこと言っていると理想主義だって言われるんですよ。腹立たしい思いは苦しいほどありますが、めげずにがんばりますよ。

――(適性検査の結果を見る)本当だ、笑。

 前向きなんだけど、いらっとしてるんですよね。安定感がない。宇宙から客観的に地球を見ていると、一人だけ頑張ってもどうにもならないということをわかりながら、頑張ってるんでしょうね。僕の志は、志半ばで死ぬようにできてますから。

――いやでも、夢は持たなくていいというのは、とても大事な考え方ですね。

 そうそう。一番になる縮図でしか物事を考えられない、スポーツとかそうですよね。全ての人があれを参考にするのはおかしい。

リバースプロジェクトで取り扱っている商品

生きることは椅子取りゲームじゃない。人間の知恵で、全員を椅子に座らせる

――一番になることで幸せを感じるというのは、相対で価値を感じることですよね。これって一人しか幸せになれない考え方。他は全員敗者であり不幸になるということですね。

 夢よりも、社会課題がたくさんあるんだから、探せばやれることはたくさんある。それで救えるものを考えたら、夢なんていらない。空を飛びたいという僕の夢を叶えたところで、誰が喜ぶのかってことですよ。

 生きることは椅子取りゲームじゃない。知恵を使ってみんな座らせればいい。これがクリエイションですよ。楽しくて、平和で、愛です。学生の皆さんには、夢はなくてもいいから、志に気づいてほしい。自分は生きたいと願う→家族も幸せになってほしいと願う→家族の周りも幸せでなくちゃ。ならばもう社会全部幸せにしないといけないんです。自分の夢だけ追っていても、社会は幸せにはならないんです。夢を追って、叶ったり叶わなかったりで40代くらいで燃え尽きてしまうよりも、みんなを幸せにするという、志を持ってもらいたいですね。