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江戸から学ぶ――国文学研究資料館長ロバート・キャンベルさん、自ら判断「通」になれ

江戸から学ぶ――国文学研究資料館長ロバート・キャンベルさん、自ら判断「通」になれ

 流ちょうな日本語でコメントする米国出身の日本文学研究家のロバート・キャンベルさん(60)。江戸の文化を学ぼうと、2年の予定で九州大学の研究生として来日以来、日本暮らしは30年を超えた。発見を喜びと感じ、自身のポテンシャルを広げ壁を乗り越えてきた。

 日本に興味を持ったのは学生時代。高校からダンスをしていた中で日本文化を知った。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)は格好良かった。

 カリフォルニア大学バークレー校の1年生のときには、日本美術の授業をとって日本文化をもっと知りたくなり、まずは日本語を学んだ。

 大学院での専攻には大いに迷った。ビジネスか、弁護士か、それとも日本文学を学ぶか。経営と法律の勉強はだいたいわかるが、日本文学の研究は見当がつかない。

 悩んだ末、米国で有名な日本文学の教授4人に手紙を書き面談を申し込んだ。実際に話を聞くことによって、ハーバード大学大学院で江戸文化を研究する決心がついた。

 インターネットで情報は集まるが、実際に現場に行くことも大事。

 九大文学部の研究生になった1985年当時は、日本の文学研究者の鼻をへしおろうという勢いだった。僕が学んでいた文学理論を日本の江戸研究者は知らないだろうと。しかし、指導教官から渡された文献を読み進めていくうちに、足場が崩れていくのを感じた。

 たとえば、江戸時代後期の天保の大飢饉に関する書物では、「どういうものを食べたらいいか」といった防災マニュアルでありながら「飢饉の歴史」も記され、文学と同じ土俵の内容になる。

 図書の十進法分類では「農業」に入るテーマでも自分の研究対象になるわけで、今まで目に入らなかった分野を横断的に見るという発想に変わった。パラダイムを変えないとフィットしない現実に直面した。

 それまでは、まず理論があってエビデンス(根拠)を探していくという手法だったが、数冊読んだ文献は、どの理論にもあてはまらない。

 やがて、文献が残る地方の蔵などを訪れてわかってきた。籐(とう)の籠を編み上げるように、形は途中ではわからないが編み続けることが重要で、必要なエビデンスが集まったときにおのずと論旨が見えてくる。現場には、論理を超えた圧倒的な説得力があった。

 与えられたミッションに対して、従来のやり方を俯瞰(ふかん)し疑問を持つことが新しい発見につながる。

日本文学研究者・東大大学院教授。ニューヨーク市生まれ。専門の江戸・明治期の漢文学研究のほかテレビのコメンテーターでも活躍。2018年4月に国文学研究資料館長に就任。

 九大の専任講師に決まったことで、米国には帰らないと腹を決めた。逃げ道がなくなったことで背水の陣という気持ちが芽生えたように思う。

 東大で教えていたとき、個性の塊のような新入生が、上級生になるにつれ平準化されていた。社会に出てさらに個性がなくなっていく様子がとても残念だった。よく言えばフレキシブル。悪く言えば融通むげ。

 江戸時代にはこんなエピソードもある。「差別」は日本語ではネガティブな意味だが、当時も同じ漢字で「しゃべつ」と読んだ。日常で何を食べるか、どういう事業を立ち上げるか、といったことを一つ一つ仕分けしていくことを意味した。取捨選択ができる人はいろいろなハードルを越えていける。それができる人が「通」(つう)であり、江戸時代の人たちの理想のあり方だった。

 流される生き方はお湯の中にいるようで心地いいかもしれないが、能動的に判断して達成し、自分にしかできないことを見つけていってほしい。

3年後はどんな自分になりたいかをイメージして仕事を積むことで、自分の足場の可動域を広げられる。

 職場の前任者の仕事ぶりをなぞって同じポジションについて安住していたら、創造性やイノベーションは生まれない。

笑顔で自分を印象づける

 キャンベル氏は、物心つく前に家を離れた実父と8年前に再会した。3日間一緒に過ごした最終日に、キャンベル氏が持参した写真を見た実父は「ロバート、なぜ笑っていないのか。笑顔がステキなのに」と質問した。「まったく気付いていなかった。子どもとして父親に言われた感じでぐっときた」

 その指摘を機に意識的に笑うように心がけたところ「とても気持ちがいい」感覚を発見した。「笑顔で自分のことを相手に軽く刻むくらいの、いい意味での『圧』を与えることは、人間としての魅力につながるのではないか」と語る。

 入浴中も江戸時代の小説を読むなど「オンとオフの境目がない」ほど日本文学を愛する。知らない人とするたわいもない話や、ぼんやりとする「空白の時間」も大切にしている。「ロスタイムともいえるが、いろいろな発想が生まれる至福の時間」だとして、「会社で違う部署の人や会社以外のつながりを持つことも大事」と助言する。
(編集委員 木村恭子)
[日本経済新聞朝刊2017年12月18日付、「18歳プラス」面から転載]

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