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20年後から見る職選び(4)介護はブランド化進む有望産業
ロボット進出で付加価値競う

20年後から見る職選び(4) 介護はブランド化進む有望産業ロボット進出で付加価値競う
authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者

 高齢化が急速に進展している中、高齢者の福祉・介護をどのように行っていくかは、これからますます深刻な問題になっていくのは間違いありません。それなのに、現状では、当該分野は3K労働(きつい、汚い、危険)の象徴的な分野とされ、かつ給与も低く、常になり手不足の状態です。他に就職ができない場合に仕方なく就く職業といった認識が広く存在しています。

2025年に37.7万人が不足

 「2025年問題」という言葉があります。2025年には「ベビーブーム世代」、いわゆる「団塊の世代が75歳を超える後期高齢者となり、高齢者人口が約3,500万人に達すると推計されており、介護保険料が現在の月5000円程度から8200円程度に上昇することが見込まれているだけでなく、およそ37.7万人の介護人材が不足するというものです。

 このように、いつまでも現状のままで言い訳がありません。このような状況を放置しておけば、いずれは国家として破綻してしまいます。

 その一方で、これから高齢者となり、福祉・介護のサービスを受ける「予備軍」である世代の中では、今日の高齢者が置かれた惨状を目にし、自分たちは同様には扱われたくないと感じ、自分に対しては充実した福祉・介護サービスが提供されるよう、老後に備えて貯蓄を増やすなど、自衛策を進める人々が増加していくことでしょう。

親の介護に金銭負担

 また、従来は子育てにお金をかけてきた年代の人々は、これからは少子化や「生まない選択」により、その分のお金を親の介護のために振り向けていくというようにもなるでしょう。自分たちの介護負担を外部に委託することで時間的自由を得られるとするならば、相応の金銭的負担も厭わない人も多いでしょうし、世間体、あるいはプライド意識から、ただ「安い」というだけで施設・サービスを選んだりはしない行動もとる人も増えていくでしょう。ちょうど、現在、子供を入学させる学校のブランドにこだわるように、今後は親がサービスを受ける施設のブランドが競われるようなことになれば、その分野におけるサービス提供主体の収益性も向上し、人材の定着も進むことになります。

 つまり、これからの福祉・介護を事業として考える場合、大きなビジネス・チャンスが目の前にあるととらえるべきです。とにもかくにも、この種のサービスに対する需要がなくなることはなく、増大する一方であることは確かなことなのですし、政府も積極的に支援するとの姿勢を見せているのですから。

 介護作業に関してはロボットによる省力化が期待できます。それだけ人件費も削減できることになるでしょう。

すでにロボットとの交流を楽しめる施設もある

 ちょうど今、旅行会社のHISが「変なホテル」という名前のホテルを長崎県のハウステンボスや千葉県などで展開しています。受付から案内など、ロボットを最大限活用することで話題づくりをしながら人件費の削減を進めていますが、福祉・介護ビジネスも、大方の部分は同じような方向に進んでいくことが期待されます。

 ちなみに、この介護ロボットの市場自体は急拡大しています。情報・通信分野の調査を専門に行っているミック経済研究所の調査によると、2015年度に18億円だった介護ロボットの市場は、2016年度には30億円を超えています。わずか1年で約1,7倍の成長を遂げているのです。政府の後押しもあって、今後も急速な成長を遂げていくことでしょう。したがって、介護ロボットの開発・販売を行う企業についても、今後は就職先として魅力的だと言えましょう。

 さて、その一方で、さきほど「ブランド化」という形で言及したように、高付加価値化・高級化を狙い、富裕層を中心に囲い込んでいく介護サービスの分野もさらに進展を遂げていくでしょう。ここでは顧客としての高齢者の求めるものをいかに的確に把握し、それに対応していくかという想像力・創造力が問われることになります。

 イギリスのオックスフォード大学やコンサルティング会社のマッキンゼーなど、これまで多くの研究機関が、機械化・自動化などの要因によって、これから10~20年後にどのような職業がなくなっていくかを予測しています。極めて多くの業種が消滅すると予測されていますが、そうした中でも生き残る職業の1つとして、「ホテルのジェネラル・マネージャー(総支配人)」が挙げられています。同じホテルの仕事でも、受付などの仕事はなくなるとしているのとは対照的です。

 介護・福祉サービスにとっても同じことが言えると思います。単純な労働はどんどん機械化、省力化されていく中で、ビジネスとして成功しようとするなら、これまで以上に、福祉・介護においていかなる付加価値が提供されるかが問われることになるでしょう。

海外の労働力活用なお課題

 ただ、福祉・介護の分野ではまだまだ規制による制約も残っています。その中でも当面のボトルネックとなっているのが、海外からの労働力の活用に関するものです。

 農業や建設業など、他の社会領域においても同様の問題を抱えていますが、介護に関連する分野においても、アジアなどからの労働力に対して大きな期待がかけられています。実験的にアジアからの労働力導入している介護施設では、言葉が不十分ながらも、一生懸命働いてくれると、介護施設の入居者である高齢者などから高い評価を得ています。しかし、資格取得における日本語習得の要件が厳しく、この点をどこまで緩和、あるいは改革できるかが、福祉・介護の将来への対策上、喫緊の課題です。

 また、福祉・介護経営は、これまで以上に医療機関、医療関係者との連携を深め、リハビリ、治療、緊急時の対応などの質を高めていくことも重要でしょう。これからますます遠隔医療の技術も高度なものになっていくでしょうから、医療機関の近くに施設がなければならないという制約も解かれ、地価の安い自然豊かな場所で介護ビジネスをより展開しやすくなるはずです。それは医者の方々にもあらたな活躍の場をもたらすことになり、将来の都市部において懸念されている「医者余り」の解消にもつながるでしょうし、地方に雇用を創出・提供し、地方創生にも寄与することになります。

 このように、高齢化の進展は、技術進歩などと相まって、介護のような、現状の待遇では若者にとって将来の展望が描きにくく、魅力がないようなビジネスを、より魅力的なものに変えていく可能性があります。そして、何よりも「社会貢献」という大義をもつことができます。是非未来の有望産業として見直してみるべきでしょう。

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