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池上彰の大岡山通信 若者たちへグローバル社会を生きる(下)異文化理解し共存の道を

池上彰の大岡山通信 若者たちへ グローバル社会を生きる(下)異文化理解し共存の道を
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 今回も一般の高校生や大学生を対象に立教大学で行った「グローバル社会を生きる」と題する講演の一部を紹介します。若者たちから、国際情勢をめぐる素朴な疑問が寄せられました。読者の皆さんも、ぜひ一緒に考えてみてください。

◇ ◇ ◇

 質問 トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認め、大使館を移転すると宣言しました。イスラエルとのビジネスなどの関係はどうなりますか。

 池上教授 米国とイスラエルは、貿易や援助など関係が密接で、軍事的な結びつきも深いのです。米国には多くのユダヤ系の人々が住んでいます。今回の決定はイスラエルのこれまでの主張を認めたもので、関係が実質的に大きく変わることはないでしょう。

 その一方で、米国と関係が深いサウジアラビアや関係改善に動いていたイランなど周辺諸国は猛反発しています。この地域の緊張が高まることは避けられないでしょう。

 質問 エルサレムを宗教ごとに人々が集まって、まとまる地域にはできないのでしょうか。EU(欧州連合)のように戦争を無くすことができるのではないですか。

 池上教授 パレスチナは第2次世界大戦前、英国の委任統治下にありました。大戦後には、国連に任され、イスラエルとパレスチナによる分割統治が決議されたのです。ただ、3つの宗教の聖地であるエルサレムは紛争が懸念され、国際管理下に置かれました。質問者の思いを実現しようとした動きもありました。

【図・写真】講演で生徒らの質問に答える池上彰氏(9日、東京都豊島区の立教大池袋キャンパス)

 ところが中東戦争が繰り返され、イスラエルの影響力が増したのです。

 ただ、エルサレムの旧市街地では、神殿の丘でイスラム教徒による自主管理が認められるなどユダヤ教徒とイスラム教徒によるすみ分けの知恵が働いているのです。

 質問 日本は今後、尖閣諸島や北方領土などの問題をどう解決していくべきでしょう。

 池上教授 どれも根本的な解決へ難しい問題ばかりですね。対立の背景にはガス田や漁場など、経済的な利益を巡る争いが大きな要因になっているようです。北方領土問題では、日本とロシアによる共同開発など経済的な結びつきを強めていこうという機運が高まっています。手を結べる一致点を増やし、相互理解を深めていくことが大切ではないでしょうか。

◇ ◇ ◇

 質問 池上先生のように多くのテーマを考え、話せるようになるには、世界の動きに対してどのようにアンテナを張るべきでしょうか。

 池上教授 君は高校生だね。いまは学業に専念して、知識を身につける努力をしてください。余力があれば、教養の基礎になるホメロスやシェークスピアのような古典をしっかり学んでおくことです。大人になって学んだことが花開きます。国際情勢などに幅広くアンテナを張って、関心を高めていくのは、大人になってからで十分です。

 歴史を知る大きな目的の一つは、国や人々の過去の判断、行動を知り、人間の愚かさや賢さについて考え直すことができることです。

 これからは言語や文化、価値観の異なる他者を知り、新たな共存関係を築いていかねばなりません。明日の世界は若い君たちに託されています。その力を蓄えるために、教養を身につけ、自分の頭で考えぬく力を鍛える「リベラルアーツ教育」が重みを増しています。
[日本経済新聞朝刊2017年12月25日付、「18歳プラス」面から転載]

※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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