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人生を経済学で考えよう(12)カジノができると犯罪が減る 「水上カジノ」ができたワケ

人生を経済学で考えよう(12) カジノができると犯罪が減る 「水上カジノ」ができたワケ
authored by 慶應大学 中室牧子ゼミ

 カジノができると治安が悪くなる、なんとなくそんなイメージを持っていませんか?「カジノ」は、合法的な賭博行為が許可された特別な場所です。私も当初、カジノやその周辺は危険というイメージを持っていました。

 しかし、カジノができると犯罪は増え、治安が悪くなるというのは本当でしょうか? カジノが犯罪を増やしたとしても、カジノのもつ経済効果によって、国や地方の財政が潤い、警察官をたくさん雇用できるようになって、トータルで見てみれば犯罪件数に変化がなかったり、むしろ減ったりする可能性があるかもしれません。確かな証拠もなしに、イメージで判断をすることは危険です。

カジノのメリット、デメリット

 そこで私たちは、実際のデータを用いて、「カジノができると犯罪が増える」は本当かどうかを検証をしてみることにしました。

 本題に入る前に、カジノについて少し説明しましょう。カジノは、アメリカのネバダ州で商業用カジノが合法化され、ビジネスとして成功したことをきっかけにニュージャージー州など他の州へと広がっていったとされています。これが最初の合法化された商業用カジノであり、これらのカジノは陸上にあることから、「陸上カジノ」と言われています。1988年にネイティヴ・アメリカンの人々が経営するカジノも合法化され、「インディアン・カジノ」と呼ばれるようになりました。

右から3人目が葛西慧子

 これらのカジノが設置されている地域は、いずれも犯罪件数がかなり多いことが確認されています。一方で、カジノによる経済的恩恵に預かった人も大勢いることは確かです。そこで考案されたのが、「リバーボート・カジノ」です。このリバーボート・カジノは水上に浮かんだ船の中にカジノがあり、その船が水上を進んでいる間のみカジノのゲームがプレイできる、という仕組みになっています(現在では法律が改正され、止まっている間にもカジノがプレイできるようになっているものもあります)。これらのカジノの誕生により、カジノは陸上カジノ、インディアン・カジノ、リバーボート・カジノの3種類が存在するというのが一般的な認識になりました。

 実は、過去の研究では、カジノと犯罪件数の間には関係があることを示したものが多くなっており、これらは特に陸上カジノとインディアン・カジノを対象としています。しかし、これらの研究はいずれもカジノができると犯罪が増えるという「因果関係」を示しているのか、もともと犯罪が起こりやすい地域(例えば、都会や人口の多いところ)にカジノができたのかという「相関関係」を示しているのかははっきりとわかっていないという問題もありました。

「水上カジノ」で犯罪が減少?

 そこで私たちは、FBI(米連邦捜査局)が公開しているデータを使用し、カジノの中では最も新しいリバーボート・カジノに着目し、リバーボート・カジノの設置と犯罪率の間の因果関係を解明します。

中室牧子・慶應義塾大学総合政策学部准教授は、教育経済学が専門。著書に『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。最新刊は写真の津川友介との共著『「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)

 私たちの分析によると、カジノ設置後少なくとも7年間は、カジノは犯罪件数を増加させることはなく、むしろわずかに減少させる効果を持つということが明らかになりました。つまり、はじめに述べたように、「カジノができれば犯罪が増える」というのはあくまで人々のイメージに過ぎず、リバーボート・カジノについては、そうした証拠はみられないということになります。犯罪面への負の効果が観察されず、むしろわずかではあるが犯罪を減らす効果があるという点は、日本にとっても示唆的です。

 では、なぜ犯罪は減少したのでしょうか。データを見てみると、リバーボート・カジノの設置によって、地域の平均的な賃金の上昇と所得格差が減少していることが確認されています。過去の研究では、賃金の低下や所得格差の拡大は、犯罪件数を増加させることを示した研究があることからも、カジノのもたらす経済的な効果が大きかったものと推察されます。

 ただし、リバーボート・カジノは様々な規制のうえで成り立っている点は注目に値します。例えば、リバーボート・カジノは、他のカジノのように24時間営業ではなく、出入りできる時間や連続してゲームを行うことのできる時間にも制限があります。このように、営業時間や入場などに一定の規制を設けることで、犯罪の増加を抑えつつ、経済的恩恵を受けられる可能性があるということでしょう。
(中室牧子・葛西慧子)

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