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career-働き方

さあ準備、会社デビュー自分を持って飛び立とう 「町の本屋さん」こだわりの3冊

さあ準備、会社デビュー 自分を持って飛び立とう 「町の本屋さん」こだわりの3冊

 新社会人が入社するまであとわずかだ。好スタートを切るため残り少ない学生時代に読書で自らを磨いてはどうだろう。近所の書店にブラリと立ち寄れば、思いも寄らない出合いがあるかもしれない。地域で個性を放つ「町の本屋さん」で、入社を待つ学生たちにお薦めの本を聞いてみた。

色々な価値観を知って 恵文社一乗寺店(京都) 鎌田裕樹さん

恵文社一乗寺店(京都) 鎌田裕樹さん

 英紙ガーディアンが「至高の書架」と題した記事で取り上げた世界の10書店に日本から唯一選ばれた。今や京都の観光名所の一つである。

 たたずまいの美しさもさることながら、最大の強みは書店員の気迫を感じる選書や配架だ。恵文社一乗寺店書店部門マネージャーの鎌田裕樹さんは1万5000冊の在庫から目指す一冊をパソコンを頼らず探し出す。「自分で注文し、自分で並べる」から本の居場所がすぐわかる。

 新社会人に「色々な価値観があることを認めた上で自分が大切にすることをちゃんと持ってほしい」と期待する。「目の見えない人は世界をどう見ているのか」を推した。

 美学が専門の著者は、全盲の文化人類学者やパラリンピック選手らへのインタビューを通じ、視覚障害者が世界をどう認識しているかに迫る。想像の中で「視覚を使わない体に変身して生きてみること」を促す。

 「茨木のり子詩集」には「自分の感受性くらい」が収められている。「自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ」と読者を叱る詩だ。選んだ鎌田さんも「嘆いてもその職場を選んだのは自分。根付いたところでしっかりやることが大切だ」と手厳しい。

 一方で「何をやっても生きていける」と励ます。26歳の鎌田さんは新社会人に近い世代だ。自らも年上の書店員たちに鍛えられた。「ガケ書房の頃」の著者も先輩の一人だ。京都の書店経営者が悪戦苦闘する自伝はまるで青春物語。「本気で向き合ってくれる大人が近くにいる」ことに感謝する。

独りぼっちは悪くない 山陽堂書店(東京) 遠山秀子さん

山陽堂書店(東京) 遠山秀子さん

 戦前から東京の青山通りと表参道の交差点に店を構える。流行の最先端を見つめてきたこの店で「孤独」をテーマに選書した本が売れたという。書籍を手に取った客の多くは若い女性だった。

 山陽堂取締役の遠山秀子さんは「これから社会に出ると色々な事があるけれど、『もともと人間は一人なんだ』という認識から出発していれば踏みとどまれる」と新社会人に助言する。

 「孤独と不安のレッスン」は劇作家の著者が「孤独の価値の素晴らしさ」を語る。手ごわそうなタイトルだが、「事例が豊富でわかりやすい」(遠山さん)。章ごとの「レッスンのポイント」が具体的だ。

 「悲しみの秘義」は大切な人を失った悲しみの詰まったエッセー集だ。「かつて日本人は、『かなし』を、『悲し』とだけでなく、『愛し』あるいは『美し』とすら書いて『かなし』と読んだ」との一文が遠山さんの心を射た。

 「独りぼっちは悪くない。自分がすごく好きだというものに打ち込んでいれば自然に仲間は集まってくる」と孤独の効用を説く。今の青山は「ブランド化して若者が夢をかなえにくい町になった」と嘆くが、がんばる若者は応援したい。

 経営者やアーティストら12人の女性にインタビューした「しごととわたし」は若い筆者と写真家とデザイナーが発行したフリーペーパーの集大成だ。山陽堂2階のギャラリーで展示会をしたところ出版社の目に留まり書籍化された。「仕事には色々ある。会社に入るだけじゃない」。書店には未来につながる人々の出会いもある。

しっかりした「初心」を 萬松堂(新潟) 中山英さん

萬松堂(新潟) 中山英さん

 新潟市の繁華街・古町に店を開いて100年を超す。創業は江戸後期までさかのぼるが、大火で記録が焼失したため定かでない。地元書店が衰退する中で孤軍奮闘する。

 萬松堂店長の中山英さんがまず薦めたのは「働き方」だ。京セラを創業し、日本航空の再建で辣腕を振るった著名経営者の人生論を読み、しっかりした「初心」を築いてほしいと助言する。

 「勤めて何年かすればストレスもたまる。その時に最初に持った『仕事の思想』を思い返せば、前向きな情熱を取り戻せる」。中山さん自身も就活時代に繰り返し読んだ一冊だ。

 自分のスタンスを固める一方で、多様な視点があることも知っておきたい。「考えるマナー」は大人も悩むマナーの難題に作家やタレントが答えるアンソロジーだ。

 堅苦しいマナー本ではない。「座を温めるマナー」「美を匂わすマナー」といったテーマに肩肘張らない名回答で応じる。「ちょっと視線を外すと同じ状況が違って見える」(中山さん)ことがわかるだろう。

 中山さんからのもう一つのアドバイスは「心の師匠」を持つことだ。「リアルな上司に相談しにくければ、本の中で著者と対話してみよう」。「悩むが花」でへなちょこな質問者をバサリと切る著者が中山さんのメンターだという。

 店内では専門書のフロアだった2階をバーゲンブックで埋め尽くすリニューアルを断行した。新品の児童書や実用書を3~8割引きで販売する。中山さんも本に励まされながら老舗に新風を吹き込もうとしている。

目利き力養い 書店に活気を NPO「本の学校」理事

 「町の本屋さん」を取り巻く環境は厳しい。ネット通販とメガ書店に挟撃され、全国の書店数は2000年に比べて4割強減った。読書運動を展開するNPO法人「本の学校」理事の植村八潮専修大学教授に書店の未来について聞いた。

 ――書店は消えていくのか。

植村八潮氏

 「本屋さんが減っているのは事実だが、リアルの書店がない地域ではアマゾン・ドット・コムの売り上げが増えている。IT(情報技術)の進歩で手のひらの数だけ書店ができたと考えることもできる」

 ――「町の本屋さん」が活気を取り戻すための条件は。

 「配本された書籍を並べるだけのビジネスモデルは終わった。購買者の変化に応じて、文具やコーヒーなども含め『何が売れるか』を見極める目利きが大事だ。鮮魚店は売れ残った魚を返品できない。書店も普通の小売業者と同じ経営努力が求められる」

 ――将来の書店像は。

 「利便性を重視する購買者はネットを選ぶだろうが、リアルでは大型店よりも地域に根ざした『ちょうどいい頃合いの店』が生き延びるのではないか。『本そのものよりも、本のある空間が好き』という人もいる。書店は自宅と職場の外で立ち寄り憩える『サードプレイス(第3の場所)』になりうる」
(聞き手は村松雅章)[日本経済新聞朝刊2017年12月27日付「大学面」より転載]

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