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データが示す日本の研究力低下 根底に大学の環境悪化

データが示す日本の研究力低下 根底に大学の環境悪化

 日本の研究力低下がここ数年顕著になっている。文部科学省科学技術・学術政策研究所や科学技術振興機構の分析から、積極的な投資を続ける中国に圧倒され、欧州各国にも後じんを拝する姿が浮かびあがる。なかでも研究・開発の中核を担ってきた大学の落ち込みは著しい。最近は毎年のように受賞が続くノーベル賞が将来ゼロになる危惧も的外れとは言えず、経済成長の主軸にイノベーションを掲げる日本にとって大きな問題だ。

日本の大学の研究力は2000年前後をピークに低下

 「日本の大学の研究力低下は著しい」――。日本総合研究所の河村小百合上席主任研究員は成長戦略の観点から国立大学法人のあり方を考察する過程で目にした、文科省政策研の分析データに驚きを隠せなかった。

 研究力を測る上で重要となるのは学術論文の動向だ。研究の質を測る観点では総数よりもトップ10%、トップ1%という他の研究者が多く引用する論文数で比較するのが一般的だ。野球で例えると、論文総数は打席にたった数、トップ10%はヒット数、トップ1%はホームラン数に相当する。

 日本の大学の場合、2000年前後にトップ10%、トップ1%の論文数の国際シェアがピークに達し、その後は低下の一途だ。直近データである14年(13~15年平均)の値はトップ10%で2.2%、トップ1%は1.6%とピーク時の半分程度まで落ちている。プロ野球選手であれば引退の二文字がよぎる水準だ。

 日本全体の論文数の約7割は大学から生まれる。大学の落ち込みに歩調を合わせて、国別の国際シェア比較でも日本は落としている。

 例えば、トップ10%論文で日本と他国を比較した場合、20年前の1994年の国際シェアは5.8%で米、英、独に次ぐ4番手につけていた。ところが14年になると3.1%に低下し9位に。中国は米に次ぐ2位に上昇、英や独、仏など欧州各国が日本を上回っている。

 さらに深刻なのが日本が得意とするものづくり分野での存在感低下を示すデータも出ている点だ。

 科技振興機構の分析によると、電気・電子や自動車など10の工学系の分野で、トップ10%論文の国際シェアの順位が7年前に比べていずれも落ちている。自動車は3位から6位に、機械は3位から10位、土木は4位から16位といった具合だ。

 工学部の研究者が実用研究から理論研究にシフトし、ものづくり現場の課題をとらえきれなくなっている懸念がある。企業活動も影響するので全てを大学の活力低下には結びつけられないが、人材育成など日本経済にとって中長期的に悪影響を及ぼしかねない。

大学法人化後に増えた事務作業、減った研究時間

 日本の大学の研究力が弱まっている原因には様々なことが考えられる。その要因の1つに、大学教員が十分に研究活動の時間を確保できていない点がある。

最先端の研究者も研究時間の確保に苦労している(石野良純九州大学教授の研究室)

 「学部生の実験も教授自ら指導しないといけなくなった」。九州大学の石野良純教授はこう嘆く。予算削減の影響で人手が不足することなどから、学生の教育や事務作業に多くの時間を割かざるを得なくなっている。

 石野教授は、ノーベル賞受賞が確実といわれる、生命の設計図ともいえる遺伝子を思いのままに書き換える「ゲノム編集」技術の端緒となる成果を上げた研究者だ。そんな大学教員でも、研究に打ち込みたいがなかなか研究に時間を割くことができない。文科省科技政策研の調べでは、大学教員の職務時間に占める研究活動の割合は国立大法人化を経た約10年間で11ポイント少ない35%(13年)に減っている。

 大学や国の科学技術政策の柔軟性の欠如の影響もある。石野教授はかつて、たんぱく質の構造解析などを手掛ける産学連携プロジェクトに参加した経験がある。プロジェクトは大きな成果を上げたと自負する。しかし、「どんなに成果を挙げても時限で区切ったプロジェクトは期限通りに終わらせる。よい成果が出たものは継続させる、といったことができない日本では研究者は頑張れない」と振り返る。

海外研究者招くにも煩雑な手続きと融通の利かない給与制度

 ある有力大学の教授は中国の大学教授にこう声を掛けられた。「定年退職後に中国に来ないか。給料は2倍出す」。中国の大学では教授クラスに引き抜きを実施できる権限が委譲されているという。日本では有力研究者を雇おうにも、公募をかけて応募してもらい、授業計画を出してもらうなど手続きに次ぐ手続きを経る。給与も年齢に応じて機械的に提示するという。そんな時間も手間もかかることに有力研究者が振り向くことはまずない。

 学術論文の国際シェア低下という紛れもない数値そのものを「実態を反映していない」と見向きもしない大学関係者もいる。ある大学の学長経験者は自戒を込めて言う。「大学改革、大学改革とずっと叫んでいるが日本の大学はさっぱり改革していないのが実態だ」。真に改革すべき時が今まさにやってきている。
(科学技術部 新井重徳)[日経電子版2017年12月3日付]

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